🎬声もなく 感想
身代金目的で間違って誘拐された少女チョヒを預かることになった声を出すことのできない青年・テイン。テインの妹ムンジュを交え不思議な人間関係が出来ていく。
テインは相棒チャンボクと普段は鶏卵を売りながら犯罪組織の下請けで死体の処理をし、バラックのような家で生活していた。
ある日お金持ちの男の子のほうと間違われて誘拐されてしまった11歳の少女チョヒといっしょに暮らすことになり、突然思わぬ方向に運命が転がりはじめる。
不本意に犯罪に加担してしまった人物が戸惑いながらも誘拐された少女と疑似家族のようになることがメインの物語なのだろうが、個人的には少女が子どもなのに実は複雑な行動原理で動いているところに視線が向いてしまった。
少女チョヒには常にそのときどきに自分で判断して最善の行動をすることが身についていて、それは家庭で常に誰かの顔色を見ながら生きている子どもの行動原理なのではないかということを窺わせる。
チョヒの家庭が複雑なのは、男の子ではないので身代金の支払いを渋る父親などなんとなく描かれていて家父長制を匂わせるところにもあるのだが、それ以上の何かをも感じさせる。
テインがチョヒに情が移っていって一時はチャンボク、ムンジュの4人で疑似家族のようになるシーンはテインをメインにして見たくなるが、実はチョヒの視点から見ると4人はチョヒにとって初めて感じた温かい家族の姿だったのではないか、と思ってしまった。
コミカルなムードで始まる前半もおもしろいし、少しずつクライム・スリラーとして薄暗い雰囲気に支配されていく後半まで一気に観られるコンパクトさはよい。
映画としてはテインの心の動きに重点が置かれた作品なのだと思うが、個人的には少女の観客には見えない家庭や普段の生活に視線を向けてしまった。
変な見方だったかもしれないが、それが逆説的に少女に翻弄される、少女よりむしろ無垢なテインのどこへ向かっているのかわからない心情を表現しているように思った。
最後に少女はテインを何と呼んだのか?
観客には聞こえないが、テインの表情がその心情を雄弁に物語っている。