【サブスクにない音楽 part 2】未完成 - bloodthirsty butchers
『未完成』(1999)は、日本のロックバンドbloodthirsty butchersの5th アルバムである。
国内外問わず高い評価を得た前作アルバム『kocorono』(1996)から3年越しにリリースされた本作は、未完成というタイトルからは想像できないくらい完成されたアルバムであると思うし、未完成で荒削りな部分すらも魅力的に感じる。
サイケデリックアートな魅力を感じるジャケットは、お笑いタレントであり画家でもあるジミー大西が手がけた。
このアルバムの1曲目は、ミニアルバムにも収録され、浅野忠信とのデュエットでも歌われた楽曲「ファウスト」。あり得ないほど良すぎるイントロに心を掴まれ、あとはもうズルズルとブッチャーズの沼に引き込まれて、気がつけばラストの「△(サンカク)」の無音を静かに聴いている。本人たちですらもう2度と再現出来なさそうなギターフレーズと共に締められるのが堪らなく良いですね。ギターと同じくらい力強い吉村秀樹のボーカルは、その歌声からは想像できないくらいに繊細で詩的な歌詞をぶち当てられる。
私がこのアルバムを見つけたきっかけは、本アルバムに収録された「プールサイド」という楽曲から。解散してからもなお邦楽ロックに影響を与え続ける、福岡県博多区からやって参るバンドことNUMBER GIRLがこの楽曲をカバーした。その音源を聴いたことでブッチャーズを知ることになった。ブッチャーズを聴き始めるきっかけとしてはよくあるパターンだと思う。このライブ音源はサブスクでも配信されている。ナンバガの解散後、ブッチャーズに加入し、吉村と結婚する田渕ひさ子のギターがこのアレンジでも超カッコ良い。
このアレンジの後に原曲を聴くとまた別の良さがあってかなり驚く。冒頭の吉村の語りからのギターリフや終盤のボコーダーのボイスは、一度聴いたらなかなか頭から離れない。
あと原曲原曲言ってるんですけど、3rdアルバムの「LUKEWARM WIND」に同名のインスト曲が入っていて、それにも更にアレンジ前の音源があるらしい。どれか原曲なんだろう。でもカバーしてるのはこのアルバムの音源だから良いのかしらね。
アルバムのラストを飾る「△(サンカク)」は、シングルカットされたときは4分32秒の曲だったのに、アルバム版では14分33秒と、10分以上も長くなっている。言葉のない、中盤と後半のドロドロに溶けたギターとベースとドラムの混ざり合ったアウトロ分伸びています。挑戦的で良いですね。
1時間のアルバムに詰め込まれた8曲は、どれも色濃く圧倒されるものばかりで、素敵だなぁと思います。このアルバムはネット通販で手に入れましたが、1430円と中古にしてはしっかりとしたお値打ちのものでした。再販もレコードのみと、希少性が高いのもあるかもしれません。中古CDショップで店頭に置いてあることはあまり無い気がします。
そんなブッチャーズのアルバムは東芝EMI時代および日本コロムビアから発売された6thアルバム〜9thアルバムしか配信されていない。これらのアルバムももちろん名作だけど、初期の方の音源や自主レーベル発足後のアルバム、そして吉村秀樹の遺作であるアルバムにも多くの名曲がある。ブッチャーズのトリビュートは配信されている事もあるので、楽曲自体はカバーという形であれど楽しむことができる。
だが、どうしてもこのアルバムやbloodthirsty butchersを語る上では、彼らの残したオリジナルの音源の魅力を知ってからの方が良いのではないかと思う。
この文章を書き散らしているのは2024年5月27日。吉村秀樹がこの世を去ってからちょうど11年が経過した日である。
活動中のバンドのボーカルが突如居なくなってしまうというのは、そのバンドにとってもファンにとっても酷く苦しく、悲しい。阻止のしようがない。
「ファウスト」の中に登場する「素晴らしき日々も狼狽える」という一節が、非常に心に沁みます。
これからも、亡き人の、もう2度と肉声を聞くことのできない人の歌声に惹かれ、それを聴き続けるのだと思います。『未完成』はそれくらい素敵なアルバムです。
では。
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