「で、何が分かったの?」「え?」「いや、調べてたんでしょ、何だっけ、妹子みたいなやつ…」「あ~」「なんかわかったの?面白そうだったじゃん。」「忘れて」「え」「忘れて」「何で。」「いいから」「訳は?」「知りたい?」

2010 06 28 Y県 S市 某所                       報告者 宇野                             人死にが出たと聞き急行。                      S市では既に200人を超えていた。                    住民が言うには猛獣の仕業らしい。                     (以下録音した音声)                       「救急車を!誰か救急車を!」「罰当たりな事など何もしていないのに!」「警察はまだか!?」「オノコだ…」「オノコ?」「そうだ!オノコだ!」「あの忌々しい人間崩れが…」「あの…オノコというのは?」「男をかき集めろ!オノコを見つけろ!」「猟友会は猟銃を持って来い!それ以外は鎌でも何でも持って来い!」「女は家にいろ!」「徹底的にやれ!」「あの…」「何だ!お前まだいたのか?」「オノコ?というのは何なんですか?」「猛獣みたいなものだ。今日は危ない!帰った方が良い。」「オノコ!出てこい!」「オノコ!」「オノコ!」「オノコ!」               (録音終了)                            当日は一面火の海。S市は混沌そのものであった。同時にそれは奇妙な事件だった。現場には獣の足跡一つないにも関わらず、関係者は一貫して猛獣によるものと証言した。(しかしその姿については猪や猿、はたまた鳥、果てにはそれが融合したものなど曖昧な姿であった。)加えて、より奇妙なのが、住民が事件当時口々に唱えた「オノコ」が生き物だとしても、この地方でそんな方言は聞いた事は無い。そして仮に人間だとしても、住民台帳には「オノコ」らしき人間は見つけられなかった。
つまり、事件時彼らは生き物でも人間でもない何かを探していたのだ。                                                        一体彼らには何が見えていたのだろう?               2000 05 31 S県 S市 Y町 二内氏(当時54)                報告者 矢部                            (録音は許可を得て行っている)                  「おのこ…?あぁ、オノコ?確かじいちゃんから聞いた事はあるけど、そんな事を聞いてどうしたいんや?…オノコってのは、斧子や。だから、野良仕事しよる子供ん事。…ここいらは昔、材木で稼いでたんよ。ほら、ほんとに昔ね。そん時さ、子供働かせとったんよ。あの、最近の児童労働とかとは違うで。奉公みたいなもんや。…どこかな、東北の寒いとこからきよったらしい。…よう働いとったって、じいちゃんはいっとった。でも、斧子は、奉公やけん。帰る家が無い子が多い子も多かったらしい。…あの、斧振山ってあるやろ。ここからずぅっと北にいった所。あそこは身寄りの無い斧子らの墓地なんや。身寄りもないまま、働き死んだ斧子達が埋まっとるらしい。可哀想やろ。やけん、年の始めに隣町から坊さん呼んで供養してもらうんよ。…流石にもう年や。そういうのは信じとらん。やけど、ここにはフシがおったけんなぁ…フシ?フシはでかい虫みたいなもんや。俺が子供の頃よく見たわ。こぉぉぉぉぉおんなにあったんや。お盆の頃とかよく見たなぁ。…あ、斧子の事聞いとったんよな。すまんすまん。」                               1964 09 03 G県 S市 S郡 A村 狩野氏(当時55)             報告者 沢渡(以下聞き書き)                    「あんた。斧子について調べとるんか。全く学者さんの考えることは分からん。でも、残念じゃが、今俺んとこの家には斧子はおらん。何でって、そんなこと俺が知りたい…。あいつら、いいつけ守らんとすぐ逃げよる。こっちは養ってやっとるとに、ろくに働きもせんと食ってばかりや。去年の斧子はもう皆逝ってもうたし、俺の仲間も皆そうらしい。今年は村総出で木切って運ばなならん。…学者さんでも斧子はどうにも出来んばってん、文句は言ってもしょうがないが、正直あいつらはいない方がましじゃ。食って、山さ荒らして、家のもの盗んで…。この後雲越のとこいくんやろ?なら、あの山、北のとんがった山。そう、あそこは通るなよ。目にもみるな。あそこにはジュジがおる。鋭い爪で俺の仲間も何人もやられとる。先生も気ぃつけんとやられちまうぞ。」                             2024「新!故郷の記憶」引用者:新野信也(引用年:2040)               作:新!故郷の記憶編纂委員会                            斧‐子【オノ‐コ/フ‐ジ/ジュ‐ジ/ゲ‐ジ/シ‐シ/イ‐シ】意味①大正~昭和期に全国各地で見られた木材の運搬、伐採、焼き畑、採集など全般的な山林業務に従事する子供を指す。当時農業機械化が未発達であり、オノコは斧を用いて伐採を行っていたので、斧子と呼ばれる様になったとされている。奉公によるものは少なく、実際は罪業によるムラからの放逐、刑罰としての役割を持っていた。②野生化した斧子。斧子を受け入れていた地域では、ムラから逃げ出し野生化した斧子は里に降り食人をする様になる為、畜生道に落ちたと見なし動物や虫として扱う慣習があった。現在でも斧子と人間の衝突は問題となっている。

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