生産財マーケティング 売り手の分類
提案営業の最終イメージ
これまで、生産財マーケティングの特徴、顧客ニーズの分類、売り手の強みと解決策の提案について記載してきましたが、提案営業の最終イメージを示したいと思います。
以上のように、まず必要なのが2つのデータベースです。
一つは、顧客の外部環境変化と内部環境変化とその影響(潜在ニーズの顕在化)に関するものであり、環境変化が発生した際にこのような顧客ニーズが発生するという情報を与えてくれるものです。
この情報変化を基に「このような状況でありませんか」と質問し、「このようなことに問題を感じられていませんか」と問題の明確化を行うわけです。
もう一つのデータベースは、顕在化している顧客ニーズに対してこのような解決策があるという情報を与えてくれるものです。
この2つのデータベースを基に、上記のようなアプローチを行おうというのが、生産財の提案営業の最終イメージです。
この話法自体は、そう特別なものとは言えませんが重要なのはこの中身をどう作るかであり、この内容の構築についてこれまで述べてきたつもりです。
売り手の分類
一方、生産財の売り手と言っても色々分類することができます。
一つの軸は、提供する製品・サービスが企画品か受注品かの違いです。
企画品は売り手側が設計している製品・サービスで、例えば半導体や工作機械や汎用ソフトがこれに該当します。
受注品は買い手側が設計している・仕様を決めている製品・サービスであり、部品などは大半がこれに該当します。
もう一つの軸は、メーカーと商社やディーラーという業態の軸です。
これをマトリクスにしたものが下記のものです。
以上の中で、企画型の製品商品を提供している生産財系の商社はミスミくらいしか思いつきません。
キーエンスのような生産工場を持たないファブレス企業もありますが、この場合は開発は自社で行っているので、開発機能は持っています。
従って、実際は企画型製品を扱っているメーカーと受注型製品を扱っているメーカー、商社・ディーラーなの3区分に分かれると言えます。
この3区分のそれぞれの特徴を述べていきます。
企画型メーカー
キーエンスのように自社で製品を企画するメーカーであり、提案は主に製品が中核となります。
少し脱線しますが、メーカーの場合は何よりもやはり製品・サービスが中核となります。
売れない製品・サービスを無理して販売すればするほど、顧客からのリピートはなくなりビジネスは先細りとなります。
製品・サービスが中核ですから、誰に何を売るのかというWHATの議論が重要で、顧客の困り事を収集する仕組み作りが課題になります。
ただし、短期的には今ある製品やサービスを売らないと会社が成り立たないので、営業は顧客ニーズの探索と既存製品の押し込みという相反する行動を取る必要が出てきます。
一般的には、短期は長期を駆逐しますので営業は既存製品の押し込みに走り、とにかく売れそうな顧客を数多く訪問することとなり顧客ニーズの探索がおざなりになりがちです。
従って、誰が顧客ニーズの探索を行うのかが課題となります。
また、製品開発面では技術者は技術開発に長けているものの、市場規模や販売可能性という視点は抜けがちとなり技術的に優れたものを作りたがるので、マーケティングの視点から歯止めをかける必要もあります。
受注型メーカー
受注型メーカーとは、自動車部品や機械加工部品などのように顧客の図面や仕様に合わせた製品を作成するメーカーのことです。
以前、自動車の部品メーカーが集まってマーケティングの会合を持ったことがありますが、どうやって作るかという「HOW」な議論は活発なものの、何を作るかという「WHAT」の議論は非常に弱いという印象を持っています。
受注型メーカーに共通する特徴だと思います。
この受注型メーカーは、自社で企画しているわけではないので顧客に対する解決策の提案は不得意です。
自社で企画した製品を販売するという意識が薄く、「薄く作ることが得意」とか「品質が良い」など技術やノウハウが自社の売りとなります。
そうなると必要なことは、何が自社の強みなのか、何が自社のノウハウなのかをしっかりと理解することです。
それがはっきりしないと、顧客に提案する自社の強みや解決策が見いだせません。
また、ノウハウは個人ノウハウつまり暗黙知になることが多いので、ノウハウの形式知化と共有化が必要となります。
なお、受注型メーカーは取引している顧客の要望に答えるのが継続取引の条件となりますので、どの顧客と取引するかによって自社の体質が決定します。
品質やコストに厳しい顧客と付き合えば、それに対応する企業体質となります。
従って、どの顧客と付き合うのかは受注型メーカーに取って非常に重要なことになります。
受注型商社ディーラー
ここで言う商社とは、メーカーの代理店や特約店としてメーカー品を販売している業態です。
このような業態は、メーカーの販売代行か御用聞き営業かに二分されます。
大手メーカーの代理店となれば、そのメーカーの製品知識には優れてはいるもののメーカー側からの要望に沿った行動となるため、その製品の販売に飛び回ることになり顧客ニーズに対して提案するという概念は薄くなりがちです。
また、大手の顧客ではアポを取って訪問する事が常識ですが、小さな顧客や地方の顧客ではいまだに飛び込みや無目的な訪問でもあってくれる顧客が存在します。
そうなると、訪問するネタも考えず訪問する御用聞き営業マンが存在します。
個人的には、メーカーの提案とは製品開発であり、商社は顧客の困り事に対して解決策を探索し提案することが役割だと思っています。
しかし、すでに記載しているようにメーカーの代理店機能を行おうと思えばその商品を販売することに注力することになり、顧客の情報を収集しようという行動が希薄になります
一方御用聞き営業マンが存在するのも事実で、営業マンからするとこれが一番楽な行動パターンとなります
一度定着したこの行動パターンを変えることは、非常に難しいとも言えます。
自社の役割をメーカーの販売代理店ではなくお客様の問題解決を探索することであるこれを宣言して取り組むことをここから始めるということが必要になります。