生産財マーケティング 強みと解決策の提案
生産財マーケティング 顧客ニーズの再整理
生産財(対組織販売)マーケティングとは、「顧客のニーズと提供する強み・解決策とのマッチング作業」と定義することができます。
前回も顧客ニーズに触れていますが、個人のニーズとは異なる生産財マーケティングの顧客ニーズについて再度整理します。
(1)経済性の追求
生産財で言う顧客ニーズは、経済性の追求です。
顧客にとっての経済性の追求の基本は「QCD+S」になります。
Q(Quality)C(Cost)D(Delivery)は、ご存知の通り不良低減やコスト削減、生産性向上や短納期対応などですが、+SのSとは、新製品開発、Safety(安全)の語呂合わせです。
(2)潜在ニーズと顕在ニーズ
ニーズは表に出ていない潜在ニーズと既に表面化しており解決すべき課題として認識されている顕在ニーズがあります。
しかし、状況によって潜在ニーズは顕在化しますし、顕在化ニーズも状況が変われば優先順位は変わります。
(3)継続的取引の基盤は信頼
特に既存の仕入先で何か問題が発生しない限り、既存の仕入先から顧客は購入します。
もし、問題がないにも関わらず仕入先を変更して問題が発生すれば、この変更の意思決定を行った人の責任問題になりますから、仕入先変更はそれほど起こりません。
逆に言えば、何か問題を発生させている仕入れ先があればそこは競合にとって狙い目になります。
つまり、問題や状況変化がなければ顧客は仕入先を変更しないので、問題や状況変化の発生により初めて顧客からの引き合いが発生するという、受け身型・待ちの姿勢になりやすい形態であると言えます。
生産財マーケティングとは
生産財(対組織販売)マーケティングとは、「顧客のニーズと提供する強み・解決策とのマッチング作業」ですので、顧客ニーズの状態に応じてアプローチは異なります。
きっかけは、顧客からの引き合いとこちらからの提案の2つとなります。
(1) 業界全体及び個別企業の顕在ニーズ
当たり前ですが、ニーズが表面化されているのですから、その解決策を提案します。ただし、すでに表面化して解決されていないものですから、そう簡単に解決策があるとはいえず、かつ競争は厳しいと言えます。
個別企業や小さいセグメントグループのニーズの方が提案しやすいと言えます。
(2) 業界全体及び個別企業の潜在ニーズ
顧客のニーズが潜在的である要因はいくつかあります。
① 顧客の戦略や方針上優先順位が低い
この場合は、提案しても検討される余地はかなり低いと言えます。
従って、外部環境及び内部環境変化を収集し、変化が発生した段階で即提案することが必要です。
ただし、顧客側が解決することによって得られる経済的メリットを低く見積もっている場合は、解決の際の経済的メリットを示して提案することは可能です。
② 顧客が問題をそもそも認識していない。
これは顧客側の知識不足であり、ずっとそのやり方を続けているとか過去解決を試みたが解決策がなかったので諦めているというものです。
かなり前ですが、ある企業の工場で業務改善を行ったところ、現場への指図書の他に2枚ほどA3の用紙が添付されていました。
現場に「この用紙は必要なのか?必要とするならそれはどの部分でその理由はなにか?」と聞いてみたところ、不要であることが判明し年間で一千万ほどのコスト削減になったことがあります。
これは業務改善の事例ですが、改善意識が低いと事ほど過去のやり方を踏襲していますので、このような場合には、実際の解決事例を盛り込んだ提案書とプレゼンを行うことが必要となります。
個々は提案の大きなチャンスですし、経済的メリットが大きいほど顧客へのインパクトは大きくなります。
③ 現時点では、全く問題がない
現時点では問題がないのですから、営業マンが打つ手がなくなるとよく言う「訪問頻度アップ」を行っても何も効果は得られません。
ただし、未来永劫ニーズがないとは言えないので、顧客の外部環境変化及び内部環境変化情報を収集して、いち早く対応策を提案していくことが必要となります。
以上を踏まえるとアプローチの仕方は以下のようになります。
① 顧客ニーズが顕在化している
「このような問題の取り組んでおられますよね」→「このような対策があり、このような実例があります」
至って単純で、問題と解決策のマッチングという形です。
② 潜在ニーズを顕在化させる
「このようなお悩みをお持ちでは有りませんか」→「このような対策があり、他社ではこれによってこのような経済的メリットが生み出されました」→「実例はこのような内容になっています」
これも、「問題と解決策のマッチング」ですが、経済的メリットを打ち出して潜在ニーズの顕在化を図ります。
③ 外部環境変化及び内部環境変化によって提案の余地が発生した
「このような状況では有りませんか」→「このような問題を解決したいと考えていらっしゃいますか」→「このような対策があり、このような実例もございます」
これは、「背景情報と問題のマッチング」と「問題と解決策のマッチング」という2つの側面があることを覚えておいてください。
強みの提案と解決策の提案
消費財では提案活動は主にネットも含めた広告宣伝になりますが、生産財の場合この活動は主に営業マンという人的媒体を通じて行われます。
その理由は、幅広い業種の顧客に対応するためには提案内容が多岐にわたるので、広告宣伝では追いつかないという側面があること、品質面の信頼性という側面から知名度がない企業からは宣伝広告だけですぐには購入しにくい(特に日本の顧客では)という2つの側面があるからです。
従って、有名で信頼性位高い評価を受けている企業が、わかりやすい用途の製品をネットでPRするということは、生産財でも有りえます。
例えば、GEが医療機械を大手の病院にまずメールでPRし、反応があった病院に営業マンが訪問するというやり方を取っていますが、これはこれでOKだと思います。
ただし、ここでは強みと解決策を分けて考えていこうと思います。
(1) 強みとは
会社の戦略として決定されており、その戦略実行に向けて体制や仕組みができていれば、強みとして定義できると思います。
単純に言えば、誰もがあの会社の強みはこれだと明言できるものです。
通販のSHEINでしたらその安さでしょうし、キーエンスなら商品開発ということになるでしょう。
業界全体の顕在ニーズ及び潜在ニーズに対応するのは、この強みの部分です。
(2) 解決策とは
解決策とは、顧客の個別の悩みに対する解決方法のことです。
熱で劣化するという場合に、耐熱性が高い製品を提案するという場合がこれに該当します。
顧客の生産ラインや製品の使用状況、過去のクレーム履歴などベテランになればなるほど様々な情報を持ちノウハウを貯めています。
このノウハウから解決策が生み出されます。
提案というがそう簡単にできるものではない
提案するというのは簡単ですが、そう簡単に提案できるものでは有りません。強み及び解決策について、その原因を整理してみます。
(1)強みについて
強みは、その会社の戦略・方針として明確になっているのなら、顧客の顕在ニーズ及び潜在ニーズに対してPRできます。
しかし、多くの企業では「自社の強み」がはっきりしていません。
顧客に「何故当社から購入しているのですか」と聞いても、はっきりした回答を得られないことが多々あります。
「長い付き合いだから」「うちの事をよくわかってくれているから」「問題がないので安心できる」等、継続的取引をベースにした回答であることが多いです。
つまり提案のベースとなる強みがはっきりしないのです。
(2)解決策について
「顧客の顕在ニーズ及び顕在ニーズに対して解決策を提案する」
これはいたって、当たり前のことでこれを営業研修で聞いても何も前に進みません。
顧客ニーズに対して提案を行えるフレームワーク話法として、SPIN話法があります。
これは、S(Situation):状況質問、P(Problem):問題質問、I(Implication):示唆質問、N(Need-Payoff):解決質問 の4種類の質問を会話に取り入れるものですが、あくまでもフレームワークであり、中身は自分で考えるしかありません。
少しイメージしてみましょう。
お客様に提案する際には、大まかには以下のような流れになります。
Q:「このような状況では有りませんか」→Q:「ではこのようなことでお困りになっていませんか」→Q:「ではこのような製品はいかがでしょうか」
おわかりのように、「表題がついている箱」があるだけで中身は空っぽです。
従って、知っているけど使えないという状況になるわけです。
ある企業の開発に方が次のようにおっしゃっていました。
「何か問題は有りませんか。お困りごとを解決するように上から言われていまして・・・。」と営業マンは聞いてくるが、その後対応策を提案してくれた会社は今まで1社もない。
何故そうなるのか?
解決策に関する大きな問題は以下の2点となります。
(1) 解決策が個人のノウハウにとどまる。
営業のノウハウは前に記載していますが 実は2つに分解できます。
一つは、Q:「このような状況では有りませんか」→Q:「ではこのようなことでお困りになっていませんか」という、状況変化と問題発生に関するノウハウです。
顧客ニーズとの関係でいうと、どんな外部環境変化及び内部環境変化があったら、どのような潜在ニーズが顕在化するかというノウハウのことです。
もう一つは、明確になった顧客ニーズに対してQ:「ではこのような製品はいかがでしょうか」と手もちの解決策を提案することです。
実は、顧客ニーズに合う解決策を提案することは簡単なことでは有りません。
なかなか解決できないのでニーズとして残っているともいえ、どれだけ解決策を知っているのかということもノウハウの一つになります。
問題は、この2つのノウハウが個人に蓄積されており、組織として共有されていないということです。
共有されないのですから、提案は個人任せ・個人の力量次第となります。
(2)ノウハウはあるが一部欠如している
個人にノウハウが貯まると記載しましたが、上記の2つのノウハウのうち、どんな外部環境変化及び内部環境変化があったらどのような潜在ニーズが顕在化するかというノウハウが欠如していることが往々にしてあります。
何故かといえば、「こんな悩みがある」と相談されれば解決策を探すか又は考えるかしますが、「何故そのような悩みが発生したのか」という背景情報までは聞かないのです。
つまり、外部環境変化及び内部環境変化とニーズの顕在化に関する背景情報が少ないまま活動していると言えます。
この背景情報がないということは、変化が起きて顧客から相談されるまで待つしか無いということになりますので、提案することが待ちの姿勢となります。
では、どうしたら良いのか。
次回以降整理していきます。