第42話 終末戦争 200年前の記憶 2
サンタ・ブラックが引き抜いたのは、超科学文明を誇っていたアトランテック大陸の中心に植えられていたサンタ・ツリーでした。
上空に開いた次元の穴は、地上にある建造物を破壊して、次々に吸い込んでいきます。
人類の代表としてアトランテック軍の兵士たちは最後まで抵抗を続けていたのですが、ここで完全な敗北が決定してしまいます。
なぜなら戦いを続行しようにも、アトランテック大陸そのものが沈没を始めたからです。
飛空艇で脱出しようにも、空には次元の穴が開いているので逃げようがなく、地上では地震と地割れが続いていて車やバイクも使えません。
八方ふさがりの状態で、大陸は住民たちを道連れにして、大津波に呑まれながら海の底へと沈んで行くことになります。
与えられた非常に短い時間の中で、どれほどの数の人間やアンドロイドが、アトランテック大陸から脱出できたのかは不明です。
ちなみにですが、ネネの相棒である「サンダー・ボルト」は、このアトランテックにある研究所で開発された人工知能搭載の軍用バイクです。
量産型の機体をベースにしてはいますが、ネネの父サンタ・クリスによって新しいアイデアが詰め込まれた最新型の実験モデル機となっています。
さて、サンタ・ブラックですが、空中に浮かんで次元の穴に引き寄せられていくサンタ・ツリーの幹の上に立ち、獣のような咆哮をあげています。
このまま次元の穴に吸い込まれていくように見えるのですが、さすがに油断はできません。
ネネの父サンタ・クリスは、自らが開発途中であった「小型宇宙探査船」に乗り込み、サンタ・ブラックへの体当たりを試みます。
その衝撃でブラックは、次元の穴の渦の中へと消えて行きました。
しかし成功に喜んだのも束の間、最悪の事態が発生します。
クリスの探査船は衝突の反動で制御不能になり、近くに開いていた別の次元の穴に吸い込まれてしまったのです。
その頃、地上のサンタ達は、残った6本のサンタ・ツリーに持てる全ての力を注ぎこみ、何とか暴走を食い止めることに成功していました。
そしてツリーの力を借りながら、上空に開いてしまった複数の次元の穴を閉じることに専念します。
何とか全ての穴を塞ぐことには成功しました。
しかし、更に最悪の事態が待っていました。
全ての力を使い果たしてしまったサンタ・ツリーは、その代償として1本また1本と枯れ始めていったのです。
ネネの祖父サンタ・クロースは、残ったツリーの力をかき集め、天上界に避難させたネネの母サンタ・ルチアへと緊急メッセージを送ります。
『サンタ・クネヒト(サンタ・ブラック)は、異次元の狭間へ追放した』
『クリスは、行方不明』
『サンタ・ツリーは、全て枯れる』
『新しい苗木は、ノルン三姉妹に頼むし・・・な・・・ ザーザーザー ・・・ぶつんっ』
ついに全てのサンタ・ツリーが枯れてしまい、通信は途中で途切れてしまいます。
2年ぶりにあった連絡で、いきなり夫が行方不明になったことを知らされたサンタ・ルチアは、さすがに動揺を隠せませんでした。
その通信を横で聞いていたサンタ・ネネは、あまりの出来事にただ呆然とその場に立ち尽くしています。
ネネの祖父サンタ・クロースですが、膝をつき、天を仰ぎながら号泣していました。
それも当然のことで、同時に弟のサンタ・クネヒト(サンタ・ブラック)と、息子のサンタ・クリスを失ったのです。
しかもサンタ・ツリーが枯れてしまったために天上界への道が閉ざされてしまい、娘や孫たちと会えなくなってしまったからです。
後に彼は「私の長い神生の中で、最悪の日だった」と語っています。
サンタ・クロースは自分が住んでいる北の国「ニクス」へ帰ってからも、長い間ふさぎこむことになります。
いつもの優しい笑顔は、すっかり消えていました。
そんな彼を支え続けてくれたのは、ネネの祖母サンタ・マリアでした。
一方で原初神たちは、この終末戦争の時に何もしていなかったわけではありません。
サンタ・ブラックとは直接対峙はしていませんが、人間界に溢れそうになっていた悪霊の討伐に手を取られていました。
不条理に死ぬことになってしまった人間の魂は、「恨み、嫉妬」を募らせてしまいます。
その結果、悪霊となってしまう者達が爆発的に増加したのです。
本来は冥界にある裁判所で裁判を受け、有罪の判決が下された魂は、悪霊の認定を受けて地獄界へ送られるのが通常の流れです。
しかし一気に数十億人単位で死者が発生してしまったために、裁判所も地獄界もパンク状態になったのです。
結果として悪霊は地獄界では捌ききれなくなり、人間界に溢れることになりました。
悪霊の最も厄介な点は、生きる者達への嫉妬や逆恨みで、地獄への道連れを作ろうと魂を奪いにくるところです。
つまり悪霊を放置しておくと、ますます死者が増えることになります。
この時に原初神の中で最も活躍したのは、「道化師のオレンジ」でした。
もともと彼女に与えられている役割とは、異世界からの侵略者を駆逐して人間界を守ることです。
ジャック・オー・ランタンを配下とした「ワイルドハント」というグループのリーダーを務めています。
人間界と他の異世界は重なり合うように存在しているのですが、普段は次元の壁で遮られているために、お互いの世界を行き来することは困難です。
しかし10月31日の夜だけは、その次元の壁が薄くなります。
そこを狙って悪しき者共が、毎年のように人間界に侵入して来るのです。
今回は月のルーナもオレンジとペアを組んで、全国を駆け回っていました。
彼女は特に月が出ている夜になると、最高のパフォーマンスを発揮します。
悪霊が出没する時間帯は夜ということもあり、ある意味で悪霊討伐に向いているのかもしれません。
しかし原初神の中にも、被害は発生しています。
地球の環境を破壊されまくった影響は思いのほか大きく、原初神の女神「大地のガイア」が倒れてしまったのです。
サンタ・ブラックが暴れまわることで、大地の形や位置が変わるほどの大規模な地殻変動が起こっています。
それが、深刻なダメージになっていました。
あれから200年経過した今でも、ガイアはまだ眠りから目覚めません。
原初神「時のユイナ」「終焉の奈落」「月のルーナ」たちが地球の異物を廃棄する「掃除屋」稼業を始めようとした真の目的は、病巣となってるものを取り除くことで、ガイアの復活を手助けしようとしているからでした。
つづく
【あとがき】
この小説の題名は「赤と黒のサンタ」です
ちょっと背景が、ややこしくなってきた気がするので・・・
死後に人間の魂がどうなるのかの「世界の理」を書いておきます
1.死後の魂は、肉体を離れて「冥界」へと行きます
2.冥界の裁判所で「善霊」と「悪霊」に振り分けられます
3.善霊は天使たちが迎えに来て、天使界へと移されます
4.天使界で過ごした後、再び人間界で生まれ変わります
ただし前世の記憶は消去され、新しい人生を過ごすことになります
このサイクルを「輪廻転生」と呼びます
5.悪霊は、地獄界へ堕とされて刑罰を受けます
6.悪霊は、刑期を終えても生まれ変われることは無く、消滅します
つまり人間の死後の魂には「2つのルート」が用意されているわけです
これだと魂の数は減る一方で、人間は増えないのでは?
いえ、また別の理があるので増えます
人間の魂は「分霊」によって、また別の新しい魂を作り出します
これが世界人口がどんどん増えていく理由です
全てAI生成画像です。「leonardo.Ai」さんを利用させて頂いてます