第43話 悪霊があふれる街があります
「そうだ!さっきまでドールの街に行ってたんだけどさ」
「人間界に出て来たばっかりなのに、もうウロチョロしてんのかよ」
「あそこ、けっこうヤバイことになってきてるよ」
道化師のオレンジが、突然おかしなことを言い出します。
最初はまたいつもの軽口かと思ったルーナでしたが、オレンジが珍しく神妙な顔つきをしているので、ちゃんと話の続きを聞くことにしました。
「さっき幹部のゴートマンの話したでしょ」
「あぁ、あの分身するとか、しないとかの奴だっけ」
「いや、分身しますけど」
「そうだっけ?」
「ルーナ姉ちゃん、話が進まないから」
「すっ すまん」
ルーナは、いつものノリで喋ってしまい、怒られてしまいました。
それだけオレンジは、マジメな話をしようとしているみたいです。
「えっと、落ち着いて聞いて下さい。実は・・・」
「はい」
「ドールの街に・・・」
「うん」
「悪霊さん達が、いっぱ~い います」
「は!?」
200年前にサンタ・ブラックが大暴れした終末戦争で、世界中にあふれ出『数億単位の悪霊』を、ルーナとオレンジのペアで討伐しまくった夜の事は忘れようと思っても忘れられません。
原初神にとって悪霊は、たいした強さではありません。
しかし「悪霊は集団になると、攻撃力が異常に跳ね上がる」という現象があることを、終末戦争の経験を通して初めて思い知らされることになっていたのです。
月のルーナが最もビビったのが、数万の悪霊が合体して出来た「巨大な悪霊」が、いきなり何体も出現した時でした。
剣で数千回も切り付け続け、やっと全ての巨大な悪霊が消滅した時には、オレンジとルーナはお互い背中合わせで地面に座り込んでしまったほどに疲れ切っていました。
集団で襲い掛かって来る悪霊は、それだけ手ごわい相手だったのです。
「今回のはドールの街だけだから、規模は小さいよ。でも放っておくとさ、街から悪霊が溢れ出すことになりそうな勢いなんだよね」
「それって、サンタ・ブラックの差し金なのか?」
「たぶん新しい幹部が、人間界に侵入してきたんだと思うんだけど」
「幹部が、ドールの街に潜んでたのか」
「それがね、探したんだけどさ、幹部連中の姿はどこにもなかったんだよ」「でもさすがに大量に悪霊が湧くのは、不自然だろ。その幹部は、どこか違う場所に潜伏してて、悪霊を街へと誘導してるんじゃないか?」
「なるほど、それありえる」
「その予想が当たってるならいったいどんな奴なんだろな、その幹部って」
「誰が来てるのかは、さっぱりわからないな。でもさ、悪霊を操る奴なんて、いなかったはずなんだけどな。う~ん」
戦いにおいて正体不明の敵ほど、やっかいなものはありません。
オレンジはサンタ・ブラックの幹部「ゴートマン」の能力を知らないままに戦いとなり、不覚にも眠らされて捕縛されたという苦い経験があります。
オレンジは、話をつづけました。
「主犯格の幹部を見つけ出して、大元を叩かないと悪霊は増え続けるよね。でも今のところ潜伏場所は、見当もつかないわけで。だからまずは先にドールの街にあふれてる悪霊を、何とかした方がいいと思う」
月のルーナは、難しい顔をしているオレンジに、こう提案しました。
「じゃーさ、私と一緒に悪霊退治やればいいだけの話じゃね?」
しかしオレンジは、ルーナの顔をチラっと見た後、腕組みをしながら何やら考えています。
悪霊退治は今の彼女には、とても都合の悪い何かがありそうです。
いろいろ考えてみた結果、あることにルーナは気付きました。
「あっ わかった!オレンジが悪霊退治しちゃったら、他の幹部の邪魔をしたってことになるよな」
道化師のオレンジは無言のまま、コクリと1回うなずきました。
どうやらルーナの予想は、正解だったようです。
確かに同じサンタ・ブラックに仕える幹部でありながら、仲間の邪魔をしてることがバレてしまうと、裏切り者として扱われることになります。
「そこで!姉ちゃんに、頼み事があります~!」
「いきなり、何だよ」
オレンジは、すくっと立ち上がると、まるでサーカス団の道化師がやっているようなおどけたダンスを踊り始めました。
呆気に取られて見ていると、いきなりダンスを止めて突拍子もない口上を述べ始めたのです。
「さてさて、真夜中のサーカス団の次回公演のお題目は【サンタ・ネネと月のルーナがドールの街で悪霊退治の巻】です。皆様こうご期待のほどを」
ドドーンという音と共に、カラフルな紙テープと紙吹雪が舞い上がります。
どこから出したのか、色とりどりの風船がいくつも空中に浮かんでいます。
しかもトドメとばかりに、白い鳩が何羽も空に飛び立ちました。
いきなり悪霊退治を押し付けられて、きょとんとしてしまった月のルーナ。
おそらく彼女のこの表情が「鳩が豆鉄砲を食らったような顔」というのだと思います。
そんなサーカスの宣伝のようなものを見せられているルーナの頭の上には、いつの間にか白い鳩が1羽とまっていました。
つづく
【あとがき】
この小説の題名は「赤と黒のサンタ」です
少しドールの街と、ネネとオレンジの関係性について思い出してみます
ドールの街は、最近までサンタのトナカイ「ルドルフ」達が拠点にしていた交易が盛んな街です
現在はネネの手紙とプレゼントをサンタ・クロースに届ける依頼を受けて、移動している最中なので街にはいません
道化師のオレンジはネネに「真夜中のサーカス団 次の公演予定地は、ドールの街」だと大嘘をついてます
実際には、サーカス団そのものが存在していません
オレンジはサンダー・ボルトに、ドールの街まで半日の時間をかけて送ってもらってます
つまり街までは、結構な距離があります
なのになぜ、こんなに早くオレンジは、この浜辺に戻って来れたのか?
オレンジが今、ネネと顔を合わせると「いろいろと説明がつかないこと」が多すぎて、せっかく作った友達関係が壊れかねません
ちなみにオレンジがネネに言っている最大の「大嘘」は、自分が妖精だって自己紹介で言ってしまっていたことです
その理由は「原初神」だと名乗ってはいけないという鉄の掟があったからなのですが、おそらく「女神だ」とわざわざ言い直す必要はないと思われます
なぜならネネは小さなことは気にしない性格をしているので、そもそもオレンジが妖精だって話は最初から覚えていません
しかし
ネネは食べ物の恨みだけは絶対忘れないので、そのへんは注意した方がよかったりします
同時に食べ物で受けた恩も、絶対に忘れないようです
全てAI生成画像です。「leonardo.Ai」さんを利用させて頂いてます