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宝石の国はSFなのか?
SFとはscience fictionの略称である。日本語に直すと空想科学、科学っぽいあり得ない話(空想)をに面白おかしく展開していく創作する作品群である。アトム、ドラえもん、ガンダム、BTTF、サマーウォーズなどなど、SFは多岐にわたる。分野分けしてもハードSF、時間SF、サイバーパンク、ディストピア、ロボット、宇宙人(ファーストコンタクト)、破滅SF、言語SF、時代改変ものなどなど数えきれないほどの分野がある。
SF界隈で最も論争になる議題は「SFの定義」である。どこまでをSF作品として定義し、どこからがそれ以外かという論点だ。そんなん簡単だろと一見思えるが、実際は相当困難である。
例えばアンパンマンはSF作品と言えるだろうか。アンパンマンはフィクションだ。存在するわけがない。でもサイエンスであるかといえば、98%は違うだろう。しかし2%ほど、議論の余地がある。アンパンマンは水に濡れると弱くなり、食べると美味しいなど若干科学っぽい要素が存在する。だからアンパンマンがSFでないとは言い切れない。
有名な議論で言えば、スターウォーズとガンダムはSFではないなんて話がある。どっかの誰かさんが言い始めたが、SFなら科学的議論が存在していなければSFでなかなんとか言ってたらしい。要約すれば、ハードSFにどっぷり浸かったSF原理主義者(?)がテキトーに機械がビュンビュンしている派手な作品を見せられて、これは自分の思うSFじゃない!とブチギレていた感じだ。
とまあこんな感じでSFの定義はしょっちゅう議論になる。まあ最近だとそんなめんどくさい議論をやめて広義でまとめて全部SFという言葉が用いられている。どこまでがSFかなんて一々気にする人間の方が少ないのは自明だろうし、とりあえず広い意味で取っておいた方が後々楽だろう。
今年の日本SF大賞がさっき発表されていた。「宝石の国」が大賞を受賞したとのことだ。
は??????????
え????宝石の国ってSFだったの??
私はSFを程々に嗜んでいるはいるが、言われてみるまで宝石の国はSFだなんて考えたことがなかった。驚愕の事実だ。でも、あのSF大賞の審査会がSFなのだと言ったらそうなのだろう。でも、そもそも宝石の国はSFの文脈で書かれていないはずだ。一体全体どういうことなのだ。
なにせ宝石の国の文脈は仏教だ。1から100まで仏教の話をして、その中での宝石の輝きと極楽浄土と人間と救済を描いている作品だ。序盤こそ宝石等の成長、関係性という一般人でもとっつき易い話しが展開される。しかし、中盤に差し掛かると宝石たちへの残酷な展開が始まり、人間に近づくフォスについての描写が続き、終盤では人間の醜さを描き、宝石や月人の天国、輪廻からの脱出、新世界の創生を描いて物語は終わる。
私はどの辺がSFなのだと素直に思った。だって科学要素が1ミリもない。仏教についてしか描かれていないではないか。ということで別視点から考えてみる。
SFの手法の一つに、ある仮定を予め行なってその上で物語を動かすという手法がある。例えばBTTFはタイムマシーンがあるという仮定、ガンダムでは人口増加によって地球からコロニーへ住まいを移すという仮定、アニメのPSYCHO-PASSではシビュラシステムという仮定などだ。これら仮定から物語が組み上げる手法はSFでは多用される。作品によっては第一の仮定から第二、第三の仮定へと移り、最終的に我々の住む世界とは異なるSOWの溢れる世界がついには展開される。だからこそSFは面白いのだ。
では話を戻そう。宝石の国は作者のインタビューによると、この物語の原点は“宝石は極楽浄土飾る装飾でしかなく、仏様に救われない存在だ”と気付いたことから着想を得たとのことらしい。主人公がフォスフォフィライトなのは、美しい色を放つ一方で宝石としては機能しないほどに脆いからだったのだと。そして、描かれた世界は”極楽浄土を飾る宝石を生命体と仮定して“その宝石たちの生き様と死について描いた物語なのだ。これは正にSFの手法だ。装飾品でしかない宝石を生命体にするという仮定から、宝石達の救済描くことを通して人間とその醜さ、美しさを描き、新たなる極楽浄土を創作したのだ。物語でフォスフォフィライトが散々な目に遭ったのは、仏教では救われる筈のない存在だからだ。そんなフォスフォフィライトを救済することで物語は終わる。なんて美しい終わり方なのだ。
宝石の国は紛れもなく最高のSF作品だ。描かれたのは地獄ではない、純粋で美しい天国だ。
興味を持ったのなら是非全巻読んでほしい。(ダイマ)
実はアプリ版で読んでたから全巻持っていないのだが、これを機に電子書籍版を全部持っておこうと思う。いつかまた読み返せるように。