BF影響下でのAKQゲームを考える ~ポカチェステⅥを例に~
はじめに
今回は、以前から疑問に思っていたBF影響下のNuts/Air モデルにおける、バリュー/ブラフ比やディフェンス頻度に関して、ポーカーチェイスステージⅥのprize配分を用いて、Chip EVとの比較および卓状況による比較を行います。
ICM、BF、RP、AKQゲームって何?という方は以下を含め良い記事がたくさんありますのでご参照ください。
AKQゲーム (Chip EV)
今回は以下のようなAKQゲームを考えます。
BFを考慮する前に、まずは一般的なChip EVをもとにしたモデルを考えましょう。
IPのbetに直面した時、OOPの利益はfoldすると0、callして勝てば+2、負ければ-1です。
OOPの必要勝率を$${x}$$とすると、
$${2x = 1-x}$$
$${x = \frac{1}{3}}$$
より、OOPの必要勝率は33.3%です。
IPのQのbet頻度を$${x}$$とすると、
$${\frac{1}{3} = \frac{x}{x+1}}$$
$${x = \frac{1}{2}}$$
より、Qのbet頻度は50%です。
IPの利益はQでcheckすると0、betしてfoldされると+1、callされると-1です。
OOPのcall頻度を$${x}$$とすると、Qのbet EVが0になるような$${x}$$は、
$${(1-x)-x = 0}$$
$${x = \frac{1}{2}}$$
つまり、OOPは50%の頻度でcallするのが均衡となります。
以上をまとめると、Chip EVにおいては、
・IPはAを100%の頻度で、Qを50%の頻度でbet
・OOPは50%の頻度でcall (必要勝率33.3%)
が均衡となります。
AKQゲーム (BF考慮)
例1. 残り4人の場合
まずは、以下のような状況を考えます。
ポーカーチェイスステージⅥは補正無しで1位から順に(35, 21, 7, -7, -21, -35)のポイントを獲得するようなprize設定となっています。
ICMの線形性より、残り$${n}$$人における$${x}$$位のprizeが$${n-x}$$であると考えてよいです。
この時、プレイヤー$${i}$$のもつスタックを$${a_{i}}$$とすると、プレイヤー$${i}$$の期待値は、$${\sum_{j \neq i}\frac{a_{i}}{a_{i}+a{j}}}$$で計算できるという嬉しい性質があります。
以下のようなサイトを用いて計算してもいいのですが、せっかくなので最初はこれを用いて値を求めてみます。
スタックが40, 30, 30, 20の時の期待値はそれぞれ、$${\frac{38}{21}, \frac{107}{70}, \frac{107}{70}, \frac{17}{15}}$$です。
また、スタックが60, 30, 30, 0の時の期待値はそれぞれ、$${\frac{7}{3}, \frac{11}{6}, \frac{11}{6}, 0}$$となります。
つまり、OOPの期待値はfoldすれば$${\frac{17}{15}}$$、callして勝てば$${\frac{7}{3}}$$、負ければ0であり、OOPの必要勝率を$${x}$$とすると、
$${\frac{7}{3}x=\frac{17}{15}}$$
$${x=\frac{17}{35}}$$
より、OOPの必要勝率は$${\frac{17}{35}}$$ = 約48.6%です。
IPのQのbet頻度を$${x}$$とすると、
$${\frac{17}{35} = \frac{x}{x+1}}$$
$${x = \frac{17}{18}}$$
より、Qのbet頻度は$${\frac{17}{18}}$$ = 約94.4%です。
IPの期待値はQでcheckすると$${\frac{17}{15}}$$、betしてfoldされると$${\frac{38}{21}}$$、callされると0であり、OOPのcall頻度を$${x}$$とすると、Qのbet EVが0になるような$${x}$$は、
$${\frac{38}{21}(1-x) = \frac{17}{15}}$$
$${x = \frac{71}{190}}$$
より、OOPは$${\frac{71}{190}}$$ = 約37.4%の頻度でcallするのが均衡となります。
以上をまとめると、例1の状況においては、
・IPはAを100%、Qを94.4%の頻度でbet
・OOPは37.4%の頻度でcall (必要勝率48.6%)
が均衡となります。
Chip EVと比較して、bluff頻度、必要勝率が大きく増加、call頻度は大きく減少していることが分かります。
例2. 残り3人の場合
続いて、以下のように残り人数が3人になった状況を考えてみましょう。
平均スタックは例1と同様に30bbです。
特に変更がない点に関しては表記を省略しています。
ICM Calculatorの結果より、OOPの期待値はfoldすれば0.7333、callして勝てば1.667、負ければ0であり、OOPの必要勝率を$${x}$$とすると、
$${1.667x=0.7333}$$
$${x=0.440}$$
より、OOPの必要勝率は約44.0%です。
IPのQのbet頻度を$${x}$$とすると、
$${0.440 = \frac{x}{x+1}}$$
$${x = 0.786}$$
より、Qのbet頻度は約78.6%です。
IPの期待値はQでcheckすると0.7333、betしてfoldされると1.238、callされると0であり、OOPのcall頻度を$${x}$$とすると、Qのbet EVが0になるような$${x}$$は、
$${1.238(1-x) = 0.7333}$$
$${x = 0.408}$$
より、OOPは約40.8%の頻度でcallするのが均衡となります。
以上をまとめると、例2の状況においては、
・IPはAを100%、Qを78.6%の頻度でbet
・OOPは40.8%の頻度でcall (必要勝率44.0%)
が均衡となります。
Chip EVと比較すると、ブラフ頻度、必要勝率が増加、call頻度は減少しているものの、その変化の大きさは例1よりは小さいことが分かります。
BFが例1よりも小さいために、このような結果になるのですね。
例3. 残り6人の場合
続いて、以下のように残り人数が6人になった状況を考えてみましょう。
平均スタックは例1と同様に30bbです。
ICM Calculatorの結果より、OOPの期待値はfoldすれば1.9333、callして勝てば3.667、負ければ0であり、OOPの必要勝率を$${x}$$とすると、
$${3.667x=1.9333}$$
$${x=0.527}$$
より、OOPの必要勝率は約52.7%です。
IPはAとQを同じ割合でしか持っていないため、ブラフを50%以上の割合で含めることはできず、この状況でOOPは必要勝率を満たすことができません!
したがって、例3の状況においては、
・IPはAを100%、Qを100%の頻度でbet
・OOPは0%の頻度でcall (必要勝率52.7%)
が均衡となってしまいます!
この結果だけだと味気ないので、IPにブラフハンドとして「J」を追加した例3'の状況を考えることにしましょう。
例3と同様に、OOPの必要勝率は約52.7%です。
IPのAでのbet頻度を1とし、Q、J全体でのbet頻度を$${x}$$とすると、
$${0.527 = \frac{x}{x+1}}$$
$${x = 1.11}$$
より、IPは一例としてQで11.0%、Jで100%の頻度でbetすることになります(Q、J全体として頻度を守ればよくその内訳は影響しません)。
IPの期待値はQ、Jでcheckすると1.933、betしてfoldされると2.952、callされると0であり、OOPのcall頻度を$${x}$$とすると、Q、Jのbet EVが0になるような$${x}$$は、
$${2.952(1-x) = 1.933}$$
$${x = 0.345}$$
より、OOPは約34.5%の頻度でcallするのが均衡となります。
以上をまとめると、例3'の状況においては、
・IPはAを100%、Qを11.0%、Jを100%の頻度でbet
・OOPは34.5%の頻度でcall (必要勝率52.7%)
が均衡となります。
例1よりもさらにBFが大きく、ブラフ頻度、必要勝率がさらに増加、call頻度はさらに減少していることが分かります。
Chip EVにおいてIP側はどんなにスタックが多くてもブラフを50%以上含めることはできませんが、BF影響下ではそのような制約もなくなるということですね。
例4. 卓にショートがいる場合
さて、続いては以下のように卓にショートがいるような状況を考えてみましょう。
残り人数、平均スタックは例1と同様であり、あらかじめIPには「J」を持たせておきます。
流石に冗長になってきたので、計算過程は今後省略します。
結果をまとめると、例4の状況においては、
・IPはAを100%、Qを15.1%、Jを100%の頻度でbet
・OOPは32.7%の頻度でcall (必要勝率53.5%)
が均衡となります。
例1よりもChip EVと比較して変化が大きく、卓にショートがいるかなど卓状況によっても戦略が大きく影響を受けることが分かります。
例5. OOPがIPにカバーされている場合
さて、続いては以下のようにOOPがIPが大きくカバーされているような状況を考えてみましょう。
結果をまとめると、例5の状況においては、
・IPはAを100%、Qを3.3%、Jを100%の頻度でbet
・OOPは35.8%の頻度でcall (必要勝率50.8%)
が均衡となります。
例1と比較して、ブラフ頻度、必要勝率が増加、call頻度は減少しています。
ICM pressureがブラフキャッチャー側であるOOPに非対称にかかることによって、このような結果になったと考えられます。
例6. IPがOOPにカバーされている場合
最後に、以下のようにIPがOOPに大きくカバーされているような状況を考えてみましょう。
ICM Calculatorの結果は例5のものを参照してください。
結果をまとめると、例6の状況においては、
・IPはAを100%、Qを0%、Jを70.4%の頻度でbet
・OOPは43.4%の頻度でcall (必要勝率41.3%)
が均衡となります。
例1と比較して、ブラフ頻度と必要勝率が減少、call頻度は増加しているのが分かります。
例5とは対称的に、ポラライズする側 (IP) がより消極的な戦略を、ブラフキャッチャー側 (OOP)がより積極的な戦略をとるようになりました。
まとめ
以下が結果をまとめた表になります。
例2~6の各値は例1よりも大きいものを赤字で、小さいものを青字で表記しています。
最後に
長々とした備忘録のような記事になってしまいましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。
ポカチェステⅥを題材に、BFによってChip EVと比較してどの程度の変化があるのか、また、卓状況がどの程度影響するのかを定量的に示せたという点で今回は一つ満足しています。
今回示したのは特定の状況におけるリバーのNuts/Air モデルの均衡であり、これを直接プレイに活かすことは難しいかもしれませんが、何か少しでも参考になるところがあれば幸いです。
ポカチェはブラフがない…などの言説もよく見るところですが、この結果を見るとまた別の見方ができるかもしれませんね。
質問、ご指摘等ありましたら、XのDMまでご連絡いただければ可能な限り対応させていただきたく思います。
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