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海外企業はアパレル製品のリセールをどのように行っているのか?

こんにちは!
二次流通ビジネス支援サービス『selloop』アナリストの圓山です。
普段は、クライアント様におけるリユース品買取ビジネスの企画サポート担当として活動しております。

この記事は、新たにリユース品の売買ビジネスへの参入を検討している企業のご担当者様を対象としております。

この記事では、海外のアパレルブランドのリセールについて解説します。
衣料品の二次流通の市場規模が拡大している中、日本で衣料品のリユースといえば、古着屋やフリマサイトが主流です。しかし海外では、アパレルブランドが自社でリセールを行っており、再販を通じて新規ユーザーの獲得や顧客単価の向上などにつながっています。
今後、日本でもリセールが進んでいくと考えられる中で、海外企業のリセール事例は参考になるかと思います。

1.日本と欧米のリセール市場の動向

日本、米国、欧州では、それぞれリセールに対する人々の意識やリセールの方法に違いがあります。

米国では、衣料品の二次流通市場規模は年々拡大しています。中古衣料市場に関する調査「Thredup Resale and Impact Report2021」によると、2021年の市場規模は約360億ドル、2025年には約2倍の770億ドルに拡大すると推定されています。
近年では、アパレル等の小売企業が自らユーズド品や返品商品を回収・再販する、リユース事業が広がってきています。こうした市場進化の背景には、Z世代を起点としたリセールファッションへの関心の高まりがあると考えられています。
2021年のメルカリ再販レポートでは、アメリカ人の88%が今後1年間に、ユーズド品を購入する可能性があると言われており、Z世代とミレニアム世代を中心にリセールファッションの需要が高まっていることが分かります。

欧州においても同じく、高い環境意識を背景にリユース市場が進化してきています。例えばフランスでは、2022年に『衣類廃棄禁止法』が施行され、国全体で取り組みが行われています。『衣類廃棄禁止法』は、新品の衣類を焼却や埋め立てによって廃棄することを禁止し、寄付やリサイクルによる処理を義務付けるものです。
ボストンコンサルティンググループの調査で、約60%の消費者が「リユース事業を展開しているアパレルブランドからより多く購入する」と回答しているように、サステナビリティやSDGsに対する消費者の意識が高く、リサイクル素材を使ったアップサイクルファッションや、環境に配慮した製造工程を重視するエシカルなファッションが注目されています。
こうした潮流のなか、米国同様にアパレルブランドが自らリユース事業に取り組む例も増えています。

日本では、着なくなった服はリサイクルショップやフリマサイトで売ったり、行政の拠点回収を利用したりする人が多いと思います。このように、日本で「衣服のリセール」といえば、古着屋やフリマサイトで売買するのが主流です。
最近では、着なくなった服をショッピングセンターやアパレル店舗で回収してリサイクルや再販という取り組みは徐々に出てきています。例えば、イオンスタイル、アーバンリサーチ、パタゴニア、アルペングループなどが、このような取り組みを行っています。
しかし、日本国内の事例は少ない上、実施形態も「回収のみで買取は無し」や「一部店舗・期間限定」といったものが多いことを踏まえると、日本におけるリユースの広がりにはまだまだ大きな伸びしろがありそうです。

2.アパレルブランドのリセール事例 

欧米のアパレルブランドにおけるリユース事業の事例は増えてきていますが、その方法は様々です。そこで、アパレルブランドが主体となってリセールビジネスをしている事例を3つ紹介します。

The Iconic

1社目は、The Iconic(以下、Iconic)です。
Iconicは、ファッション用品、スポーツ、美容、キッズウェア、家庭用品を取り扱うオーストラリア最大のファッション通販サイトです。1,000を超えるブランドをパートナーに持ち、ソーシャルメディアには100万人のフォロワーがいます。また、NPSが88ポイントと、顧客ロイヤルティがとても高い企業です。

Iconicは、”AirRobe”というリセール支援を行うプラットフォーマーと提携して「ユーザーが買い物に責任をもってもらい、商品のライフサイクルを延ばす」ことを目的に、フリマサイトの”メルカリ”のようにブランドサイトでユーザーがリセールを行えるようにしています。
Iconicのブランドサイトで購入した商品をサイト上でワンクリックするだけで、リセール(またはレンタル・リサイクル)を行えます。

ユーザーがリセールを行うまでのプロセスは、以下の通りです。

  1. Iconicのオンラインサイトの商品ページで「Add to airrobe」をクリックして『Circular Wardrobe』に商品を登録をします。『Circular Wardrobe』は、購入履歴のように過去に購入した商品を一覧で見れるものです。登録は、AirRobeのアカウントがあればショッピングカートに入れる際にワンクリックで商品の登録ができますし、アカウントを持っていなくても購入後に登録ができるようになっています。

  2. ユーザーは、購入した商品を手放したいときに、Circular Wardrobeで「リセール」「リサイクル」「レンタル」から選択します。

  3. リセールorレンタルを選択した場合、商品の状態、再販・レンタル希望価格などを入力します。

  4. リセール等の選択をして登録をするとユーザー画面では、CO2排出量・水・繊維廃棄物がどのくらい抑制できるのか見ることができます。
    ユーザー画面では、
    ・19kgのCO2排出量=携帯電話を6年間毎日充電する量
    ・95リットルの水=シャワーを7分余分に使うことに相当する量
    ・1kgの繊維廃棄物、そして毎年1トンの埋立処分量

    とリセール等を選択することで、何にどのくらい環境貢献ができているのか見ることができるようになっています。

  5. 指定した価格でリセールまたはレンタルがされると、ユーザーは希望価格の83%の代金を受け取ることができます。

出典:CASPERMAGAZINE

Iconicのリセールは、ブランドサイトですべて完結します。そのため、ユーザーは着用済みのファッションアイテムを再販するために様々なプロセスを手作業で行う必要がありません。また、Iconicにとっては、再販・レンタル・リサイクルに関する運営やリスクは、委託企業のAirRobeが請け負ってくれるのがメリットです。

Iconicは、自社でリセールビジネスに取り組むことには4つの効果があると述べています。

  1. 「衣類の埋め立て廃棄」というオーストラリアにおける大問題の改善に寄与するユーザーに環境を意識した買い物を促すことができる

  2. ユーザーに環境を意識した買い物を促すことができる

  3. リセールを選択したユーザーに再購入を促すことができる

  4. ユーザーが予想再販価格をもとに予算より高い商品に手が伸ばせるようになることで、顧客単価が向上する

【参照】

以上のように、自身が着用していた衣服をワンクリックでリセールできるという気軽さと、環境問題の改善に貢献できていると感じられる体験が、Iconicのリセールビジネスの成功要因ではないでしょうか。

なお、Iconicではリセールだけでなく、『Giving Made Easy』という不要衣服の寄付プロジェクトを行っています。これは、ユーザーがプリペイドの郵送ラベルをダウンロードし、ポストに入れるだけで寄付ができるプロジェクトです。自社衣類のリセールだけでなく、ブランド問わず不要な衣服を廃棄に回さないように、ユーザーに寄付を行う選択肢を与えています。『Giving Made Easy』により、すでに25,000kg以上の繊維製品が埋立処分をせず再利用されており、かなり多くのユーザーが参加しているのが分かります。

REI

2社目は、REI(アールイーアイ)です。
REIは、全米最大のアウトドアショップで、アメリカ人なら誰でも知っているアウトドアブランドです。アウトドア用品やアパレル・フットウェアのリテール事業の他に、自社ブランドのプロダクトの企画・開発も行っています。また、アウトドア用品のレンタル事業や中古アウトドア用品のリセール事業も展開しています。

REIのリセール方法は、2つあります。
1つ目は、「Re/Supply」プログラムです。
このプログラムは、ブランドのメンバーシップである『REIメンバー』限定で店頭と郵送で下取りを行い、店頭およびオンラインで中古品として販売するものです。
REIメンバーは、返品および下取りに出したい商品を店頭に持ち寄るか郵送します。商品を返品された際に状態と品質を確認し、下取りの場合には、元の小売価格の50%を提示されることがあり、REIギフトカードが提供されます。REI メンバーによって返品または下取りされた商品のうち、使用頻度が少なく転売可能な場合は、リセールアイテムとして、クリーニングと検査を行い、店内のガレージセールコーナーまたは、REI good&used(中古商品専用のeCommerce)で、元の価格の約半分で販売されます。

2つ目は、「返品商品の再販」です。
REIでは、購入に満足せず返品されたもので新品・未使用であれば店舗で再度販売するという方針をとっています。
REIでは、そもそも購入から1年以内であればREIメンバーであるなし関わらず、返品が可能となっています。REIの返品ポリシーを見ると、いくつかの例外を除いて購入日からメンバーは1年以内、非メンバーでも90日以内なら、返品交換or返金が可能です。ただし、顧客の過失による劣化や損傷、経年劣化はもちろん対象外となっています。1年以内という長期間の間、返品可能なブランドは珍しいのではないでしょうか。
参考として、同じアウトドアブランドのThe North Faceの返品条件は、アメリカは「オンラインでの購入日から60日間」、日本は「商品到着後10日以内」「未使用品(室内での試着のみ)」「吊りタグ・化粧箱など商品付属品の紛失・破損のない商品」となっています。
返品された商品の状態の見極めは、レジに立つスタッフたちの主観に任されています。返品商品のうち、新品・未使用品であればそのまま店内に戻され、再度販売されます。中古品であればリセールアイテムとして、店内のガレージセールコーナーまたは、REI good&usedで販売されます。

REIでは、自社のリセールビジネスの効果は2つあると述べています。

  1. 自社リコマースビジネスが 2021 年に前年比で 86% 成長している

  2. アパレルやアウトドア用品の出荷・クリーニング・再商品化は、新しく生産するよりも二酸化炭素の排出量が 平均50% 少なくなっている

【参照】

こうした成長や社会的効果を踏まえて、REIは協業企業のTROVEとともにリユース事業の拡大に取り組んでいます。下取り実施店舗は、いまや170店舗に及びます。
下取りプログラムを拡大する理由を、REIのサーキュラーコマースディレクターはこのように語っています。

『REI co-opに、ひいてはアウトドアに、より多くの人々を迎え入れるための強力なツールとして、リコマースビジネスを考えています。また、既存のお客様も、新しいアクティビティを始めるために中古品を利用されるケースが多くなっています。初めてテントを買う、初めてバックパックを買うなど、多くの方が中古品を利用されています。REIは、より多くの人に外で自然を楽しんでもらうために、中古を強力な手段として考えています。』

modernretail

さらに、REIで働く新隼人さんは、noteの記事でこのように語っています。

自分自身や周りの友人を見渡しても、自然との距離が近い人ほど気候変動やサステナビリティへの関心が強い。そうした人が多く集まるアウトドア業界は既にリセール事業を受け入れ、発展させていく土壌ができているからです。

REIで働きながら見る、米国アウトドア市場(2) - リセール3.0

このように、REIのリコマースビジネスの成長の背景として、アウトドアブランドのユーザーはサステナビリティに関心が強く、リセールを受け入れやすいという事情もあるのかもしれません。

Eileen Fisher

最後は、Eileen Fisherです。
Eileen Fisherは、オーガニックなど天然素材にこだわり、シンプルで機能的でありつつ流行に左右されないアパレルブランドです。2021年時点で61 店舗を展開、さらに300を超えるデパートで販売されています。

Eileen Fisherは、”Trove”という企業と提携して、自社の衣服をユーザーから回収し『Eileen Fisher Renew』というECサイトでリセールを行っています。
Eileen Fisherの購入者は、商品(例えば、着古した服や破れたもの)を店頭に持ち寄るか郵送すると、どんな状態のものでも1着5ドルのリワードクレジットを受け取れます。受け取ったクレジットは、Eileen Fisherの新しいアイテムやリセールアイテムの購入時に利用できます。
回収された衣類は、Eileen Fisherの専門家によって汚れや着用感などの検査や素材選別をされ、状態の良いものはクリーニングを行い『Eileen Fisher Renew』で販売されます。簡単な修繕が必要な衣類は修繕が行われ、修繕では対応できないほどダメージの大きい衣類は、芸術作品やクッションカバー、壁掛けなど、別のアイテムにアップサイクルされます。
リセールの他にも、女性、少女、環境を支援する非営利団体に着用可能な状態の衣服を寄付をしています。

Eileen Fisherは、『衣服の回収からリユース品の再販』までのすべての工程を自社で行っています。さらに天然素材を使用するというように、一次流通から環境配慮を考えていることが分かります。こういったブランドイメージに共感したユーザーが集まることがリセールビジネスを拡大できている1つの要因ではないでしょうか。

Eileen Fisherはこうした取り組みを通して、2009 年以来 190万着以上の衣服を回収できています。また、近年の実績としては、21年3月に回収した衣料品は約1万9000点です。これは、1月の約6000点、2月の約8000点から増加しており、より多くのブランドユーザーが参加していることが分かります。

【参照】

Eileen Fisherは、自社の取り組みには3つの効果があると述べています。

  1. リセールによって新規ブランドユーザーを獲得できる
    実際にEileen Fisher Renewの半分のユーザーは、初めてEileen Fisherのアイテムを購入する消費者でした。

  2. ユーザーは、CO2eの削減を可視化できる
    2019年以来、リセール品を購入することで、ユーザーは平均 2.91 kg の CO2e 削減・平均 0.64 ポンド(約290g)の埋め立て廃棄物を削減できているとのことです。

  3. LTV(顧客生涯価値)が上昇する
    Trove社によると、Eileen FisherのLTVが107%に上昇したと言われています。

【参照】

3.まとめ

アパレルブランドのリセールビジネスを紹介してきました。
Z世代のリユースファッションへの需要の高まりや環境配慮を背景に、アパレルブランドによるリセールが増えており、そこには差益以外のさまざまな効果があることがわかりました。
3社の事例を踏まえて、アパレルブランドがリセールビジネスに取り組むことで、4つの効果が期待できそうです。

  1. 商品の廃棄を減らすことで、環境問題の改善に寄与する

  2. 顧客接点を増やし、再購入を促進することで顧客あたり収益を向上させる

  3. 顧客ロイヤルティの形成・向上を促す

  4. リセール品の購入をきっかけに新規顧客を獲得する

今後も衣料品の二次流通市場は成長していくと予想されています。
その中で、アパレルブランドがリセールを行うことには大きな意義があるのではないでしょうか。

4.二次流通支援サービスのご紹介

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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