ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド/春馬さんがおしえてくれたこと
まずこの舞台作品について、春馬さん(当時29才)が語った言葉から紹介したいとおもいます。
「一人の男が汚れなき瞳をもった少女の純真さに浄化されていくお話しで、とても美しいストーリー。
『ザ・マン(この男)がクレンジングされていく、その心の機微を繊細に演じてくれる俳優でなければ、役を演じ切ることはできないので、ぜひ三浦さんにやってほしい』という熱い思いをプロデューサーにつたえられて、お受けすることにしました」 2020.2.28 「Deview」
ストーリー
『STAGE SQUARE44』2020より
男をキリストの生まれ変わりだと信じて守ろうとする子どもたちと、脱獄した犯人として追い詰める大人たち。
その中で生まれる、傷ついた男と孤独な少女との間の不思議な絆。人種や宗教問題も絡んでくる難解なストーリーを、普遍的な「対比」と「純愛」のドラマとして浮かび上がらせる、白井晃の演出手腕が光った舞台。
ダイジェスト舞台映像(約2分半)
しかし本来なら3月7日に初演を迎えるはずだった公演は、新型コロナウイルスの流行によって、3度繰り返し中止決定された。ようやく2020年3月20日からはじまった公演は、政府と東京都の自粛要請によって27日の昼と夜をもって、突然の千秋楽となった。(予定していた53公演のうち、11公演開催)
前回は、CDBさんがマチネ(昼公演)の観客として、舞台あいさつのもようを語られたものに触れさせていただいた。
そして同日の、
小山内伸さんのソワレ(夜公演)観劇と評論
「三浦春馬は人間が根源的に持つ二面性あるいは複雑性の表現において卓越した俳優だ」
演劇評論家の小山内伸さんは、三浦春馬の過去の舞台である『地獄のオルフェウス』(2015)で初めて三浦の演技に瞠目した。そして『キンキーブーツ』(日本初演2016/再演2019)、『罪と罰』(2019)、そして本公演をつづった、「追悼・三浦春馬」を寄せた。(『悲劇喜劇November2020』)
「聖と俗の対比、善と悪の二面性を演じた」
「三浦は美声を殺して故意にしわがれた声で武骨な男を演じた。ソロ・ナンバー『独白』では切実さをにじませる一方、子どもたちにせがまれて歌う寓意のない寓話『アニー・クリスマス』では喜悦感すら醸し出した。
こうした背反性を生きる姿は三浦の真骨頂だった。
カーテンコールの挨拶では、最後とあってか俳優たちが感慨を込めて素顔で語った。三浦が座長としてキャスト一同の厚い信頼を集めているさまがよく伝わって来る、実に温かい舞台挨拶だった。
まさか、あれが見納めになるとは思いもよらなかった。まだまだ、いくらでも先があったはずだ。
本当に惜しい人材を私たちは失ってしまった。」
多くの人に心から惜しまれる姿こそ生き様の証
日本を代表する俳優の一人として、ドラマ・映画・舞台・ミュージカル等幅広く活躍。演技力に加え、卓越した歌唱力とダンスの技術により「表現者」とも称される。(wikipediaより)
・キャストのことば
白井晃さん(演出家)「天性なんじゃないかと思うけど、その場の空気を温かくしてくれる」
生田絵梨花さん「よく笑う方で、ふざけたりもしますし、人間的な魅力がいっぱい詰まった方。なんでも受け入れてくれるよっていうんですかね。いろいろ教えていただきたいと思っています」
多岐川装子さん「毎回トライし続ける座長の背中を見て、わたしたちは頑張れたのに、『自分が強くあれたのは、子どもたちとみんなの存在があったからこそ』なんていうし…また泣いちゃうよ。真に美しい心をもっている座長の元で作品を作れたことを心から誇りに思いたい」
長谷川開さん「春馬くんが稽古中から本番期間も努力しつづけ、立ち向かう姿をみて、彼から毎回感動をいただいています」
安野とも子さん (衣装担当)「ボロボロのシャツを両手で広げて、『素敵な衣装をありがとうございます』とおどけて笑ってくれた…そのさわやかな笑顔の気配は立ち去った後も、ずーっとそこに残っていた」
・ブログより
1.blog.goo「観劇記録用」2020.3.23【三浦さんの表情はくっきりはっきりしています。声もパワフルで、舞台を初めて拝見しましたが好きです】
2.ameba blog haruma`s kitchen
2020.3.24/第1幕【『独白』圧巻の熱演、熱唱に劇場中が引き込まれていた】
3.29/第2幕【低音の魅力発見!/なんてザ・マンの苦悩する芝居がうまいんだ/演出の白井さんが今回一番見せたいもの、といっていたー『誰も、わたしを、俺を、見てはくれなかったーあなたのようには』/成熟してきたなあ。いままで様々なミュージカルを長い事見てきましたけれど、あんなに、演技でも歌でも魅せられる人って他にいないと思います。贔屓目もあるけど】
3.chika-tabi 2020.3.22【(観劇)1回目と2回目の味がちがう。さすが三浦春馬さん/ハイトーンも低音も美しかった】
4.Hatena blog「切り裂く興奮で呼び覚ます君よ」2020.4.12【ぜひ、映像化・音源化を希望したい。限られた人の目にしか触れられなかったのは非常に残念なので】
5.super.wpx きの茶 もすらん 2020.3.31【とても好きな作品でした。子どもが多く出てきた/収入的にも精神的にもたいへんな中、どれほどの覚悟で開演し、また中止の決定をしたのかを考えると胸が痛くなります/多くを語る作品ではなく、結末をふくめて観客の想像にゆだねる部分が多かったが、最後に美しい愛と祈りを感じた】
受賞
・WOWOW presents「勝手に演劇大賞2020」
2021年3月31日 本作品に対して、ミュージカル部門/作品賞ならびに共演者の生田絵梨花さんに女優賞が贈られた。
・「SEVEN HEARTS 演劇大賞2020」主催:阪清和
2021年5月9日 ミュージカル部門 【主演男優賞】最優秀賞受賞 三浦春馬(ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド~汚れなき瞳~)
インタビューより
2019.12.7 OmosanSTREET
「舞台、エンターテインメントは、ほんとうに生きている人間しかできないことなんですよね。機械で造ることのできない感動があると思います。
そしてその尊さは、やはり全部が上手に循環する、つまり平和でないと成し遂げられないというか、感じられない、感じ取れない。」
ーAI対人間、の構図に真っ向勝負するような、第一声ですよね。AIでは感情が表現できないのですからー
2019.9.19 fashionpost
「(舞台を身近に感じてほしい)もっと若い世代から、ご年配の方まで、観て、感じてほしい。そして産業としてきちんと潤ってほしいんです。」
2018.12.5 関西ウォーカー
「この舞台を観るためにバイトがんばった、とか家族みんなであの舞台を観たねっていう、思い出作りをもっと特別視してほしいという思いがあります。それがもっともっと元気な演劇界につながって行けばいいな。そのひとつの歯車になりたいと思う。」
―そのために、テレビも映画も頑張っていきたいという発言を何度もしていますねー
2020.2.7『日経ウーマン』3月号
「実際には、まだまだ経験や努力が必要。でも、やりたいと思ったら挑戦すべきだし、そのためには行動して準備をしていくしかない。
ブロードウェイでどんな作品に出たいのか、具体的な僕も見えてきています。」
ー春馬さんは目標をまわりに公言することについて、「目標を明示して、そこに挑戦していく」、アスリートに例えたりしています。
そして、著書『日本製』(2020)の巻末インタビューに、そのひとつとしてどんな役で海外のステージに立ちたいかを語っている個所があり、ブロードウェイで23才の時に観た『アリージャンス』というミュージカルで日系二世が主人公として描かれたものをあげていました―
その他
(この舞台を想像し、脳内変換するためのいくつかの資料)
・『ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド』ORIGINAL CAST RECORDING(1999)サウンドトラック/ミュージカル界の巨匠アンドリュー・ロイド・ウェバー作品の楽曲
・原作の映画化(1960年/イギリス)DVD『汚れなき瞳』
こちらは、スワロー役に相当するキャシーは子役として登場する。しかし、ひたむきにザ・マンを信じるそのこころによって、男は涙をながし改心して自首していくのだった。(ミュージカル版ではスワローを守るために外に出し、納屋に火をつけて中にはいっていく、という悲劇的な演出がされている)
・YouTube 舞台録画(2013.5.25/イギリス)Airbrush Productions-Full Performance(約2時間)
ー子どもたちがたくさん出てきて、その姿に元気づけられましたー
ーそして上記の2つを観たときに、やはりザ・マンの表情、動作、雰囲気に注目しました。すべて(恐れ・喜び・絶望・救い)に、感情の機微、繊細な表現を求めてしまいました―
日本版が観られたらいいです。たくさんのかたが希望されているように思います。
最後に
「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド」という同名の曲はテーマソングともいえ、スワローの亡くなった母がよく口にしていたそうです。
その意味は、「解放する」「手放す」。劇中でスワローの父福井晶一さん、そして生田絵梨花さんが歌われていますね(ダイジェスト版)。
春馬さんがわたしたちに残してくれたこの作品から、何をうけとったらいいのか、と考えてみました。
そして、「解き放つ」ことだと受け止めました。
日本語訳を記してくださったもの(前掲のHatena blogから)を引用させていただきます。
あの風に 吹かれてごらん
空高く翼広げ 解き放たれよう
友よ 決して離れない
あなたのしるし すべて受け止める
そう 最後まであなたのそばに
「ホイッスル・ダウン・ザ・ウィンド」より
付記
本日、7月18日は三浦春馬さんの4回目の祥月命日にあたります。
あらためて、敬意と感謝を捧げます。