【文献レビュー】高齢者・障害者交通研究の意義と今後の展望
お久しぶりです。ちゃちゃまるです。
今回の文献は、清水浩志郎さんが書いた「高齢者・障害者交通研究の意義と今後の展望」です。1995年に土木学会論文集No.518から提出されています。
キーワード:review, transportation planning of elderly and disabled
1.はじめに
日本の平均寿命は著しい伸びを見せており、高齢化は一段と進行しつつある。総務省が発表した平成5年10月1日現在の推計人口約1億2500万人に対して、65歳以上の高齢人口は1687万人と総人口の13.5%を占めた。
それと対峙して、14歳未満の年少人口の減少が著しく、総人口に占める割合は16.7%と過去最低となった。
人口の高齢化は先進国共通の傾向であるが、日本における高齢化現象は、とりわけその進行速度が急速であることに特徴がある。こうした現象は、今後とも続く傾向にあると言われ、来世紀初頭には4人に1人が高齢者、3世帯に1世帯が65歳以上の高齢者世帯という世界のどの国も経験したことのない超高齢社会になるものと予測されている。しかも、こうした日本での高齢化現象は、地域的偏向を伴い大都市域では低く、地方で高くなる傾向にあるともいわれている。
地域交通計画的観点からいえば、来るべきハイクオリティー、ハイモビリティー社会における高齢者・障害者交通の位置づけと高齢者のニーズに対応した交通環境の提供が重要となる。そのため、いかなるシステムを構築するのか、それに向かって社会資本の内容や規模をどのように考えるのか、さらに、高齢者・障害者の社会参加需要が社会資本の整備にどの程度の影響を及ぼすのかなど、解決の急がれる多くの課題を有していると言える。
2.高齢者・障害者交通の研究視点
高齢者・障害者交通の基本的視点は、「移動制約者」「移動困難者」「交通貧困者」等と言われるこうした社会階層の人々の交通行動時の交通制約障壁を排除する、バリアフリーを保障するということになろう。欧米諸国では、社会・政治的課題として既にその報告で進んでいるといえる。すなわち、欧米諸国における高齢者・身障者のための交通政策の現hん点となっているのは、「全ての人々にとって、年齢や障害などを理由にした差別があってはならない・そのための諸政策は、法律によって保障される」というノーマライゼーションの理念に基づいており、交通政策はもちろんのこと、生活全般にわたる諸政策が実施している。
また、一方で、高齢者とか障害者という用語が、福祉行政の中で定義され、議論されていることも関連するが、交通環境計画という分野にこの社会階層をそのまま持ち込むことは難しい。それは、65歳以上の高齢者層にも一般の健常者と何ら変わらない交通行動をおこなえる元気な老人もいるとか、また移動上の交通制約を受けない障害者もいるからである。その結果、交通環境計画上必要な施策が明確にならず、こうした階層の人々に対する7適切な対策が漠然とし、最も多く制約を受ける障害者の生活権書く7歩のための施策が最優先されることになる。
さらに、問題解決を困難にしている原因として、高齢者・障害者の交通問題は従来の計画手法では十分説明できない部分の多いことが挙げられる。それは高齢者・障害者交通までは「時間価値」の概念が明確でなく、今までの「多量、迅速」の第一義とした交通とは本質的に異なる。また、その制約条件も多岐にわたることから、高齢者交通計画手法に対して、正確に経済的な効果を得ることは難しい。それらの多くの原因は、現在のところ高齢者・障害者交通の実態把握の分析不足やそれに対する我々の問題意識、関心の低さにあるのかもしれない。そのために、問題の所在現れた現象面から対症療法帝に解明するという従来の手法ではなく、対照から分析し、その問題を構造化することが必要である。
これらをまとめ、研究の視点として、このテーマの社会的特徴である高齢化、交通主体の移動理念、社会全体の目標、街づくり、施策の実現のための条件といった5つの観点からキーワードとしてまとめると以下のようになる。
➀高齢化からは「質の高い交通システムの量的整備」
➁交通主体からは「ノーマライゼーション」
➂社会の活性化からは「社会参加」
➃まちづくりからは「計画理論の構築と体系の確立」
➄実現性からは「国民的・市民的合意形成」
これらの視点は、相互に関係を持っている。施策の質と量を財源制約の中でどのように調整するか、とくにノーマライゼーションという権利概念に基づく評価要素と、将来多くの人が受益者となる7社会的最大便益という評価要素との間の調整はこれからの課題である。
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