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結婚は宝くじに当たるようなものと聞いたが、実際はどうよ7話

「今日はストレッチをしましょう。」
精神科のリハビリの一環として、作業療法士が手本を見せながら、患者と一緒に音楽にあわせてストレッチをする。
音楽は癒し系の、アジアの音楽がかけられた。
看護師は患者の隣に座り、一緒に参加する。
その看護師の中に、風子がいた。
「山田さん(仮名)、体を動かすと気持ちよいですよ。
一緒に参加しましょう!」
患者の山田に声掛する風子。
「えー眠たいのにー無理矢理出された。」
と不満を言われたが、結局は参加している患者の山田さん。
不満をいいつつ、結局最後まで参加していた。
精神科のリハビリプログラムは、脳外科や整形外科とは違い、患者とリハビリスタッフでの一対一の作業はほとんどしない。
集団で参加して、指導している人は1~数人、サポートに看護師や看護助手が入っている。
だから、作業の途中から参加しても良いし、途中で抜けても良いごとになっている。
つまり、参加することに意味があるという具合だ。
山田さんはリハビリのストレッチが終わる頃には、スッキリした顔で表情も豊かになっていた。
その姿をみて、
「誘ってよかったな」
と安心する風子。
リハビリプログラムに参加した様子を、リハビリスタッフと看護師で情報交換をして記録する。
この患者はどんなことが好きなのか?とか、
どんな対応して、どんな反応があったとか、
シャイだと思っていた患者が、実は作業に集中して、病気の症状が(幻覚、妄想など)気にならなくなったとか、リハビリの大切さをしみじみ感じている風子がいた。
他の人の記録をみて、患者の情報収集をしていると、
「一人の患者でも、見る人によっては感じかたが違うのかもな。」
と感じていた。
これは、結婚相手を探すことも、同じことが言えるんだろうなーと。

 「ピーッ!」
自宅で夕飯を食べていると、必ずレモンは風子の頭の上に乗って鳴くのが習慣だった。
「あんた、その場所、好きよねー」
テレビをつけて観ているが、レモンが風子の目をくちばしで突っつき始めた。
当然、テレビを集中して観れない。
「この子、なんで私の目をいつも突っつくのかしら?」
不思議に思っていると、ぴょんぴょんとはねながら、風子の右手まで移動してくる。
風子の右手の親指は、大きな逆剥けが出来ていた。
レモンはその逆剥けをくちばしでむしり、モグモグと食べてしまった。
「やだ、何してるのレモン!」
風子が驚いて、レモンを見つめる。
「つーか、私、インコに食べられた?」
と笑う風子。
レモンは首をかしげていた。

 数ヶ月が過ぎた。
変わらず、婚活は、紹介の話が来なく、行き詰まっていた。
仕事も、レポートなどやることが増え、休日も仕事をしているような状態であった。
さらに風子は担当の患者に、手を焼いていた。
毎日、13時30分に患者の困り事や、これからのことについてのカンファレンスが行われた。
そんな中に、20歳代の男性、病気で感情のコントロールが出来ず、他の職員をつかまえては、
「話を聞いてほしい」
といい、話す内容も、母親が自分に構ってくれないという内容だった。
そのため、業務に支障をきたし、職員間で本当に困っていた。
患者の名前は、館 充(たち みつる 仮名) 22歳。
気持ちのコントロールが出来ず、大声をあげたり、壁を蹴って破壊し、物を壊したりしていた。
病気のきっかけは、高校生の時に友達と階段のそばでプロレズごっこをして、階段から落ちて頭を打って救急車で運ばれ入院。
外傷性精神障害と診断された。
風子は担当看護師として、毎日話を聞いたが、解決策もなく、充の怒りのコントロールも制御出来なかった。
毎日、充の話を聞き、サービス残業。
婚活どころではない。
直属の上司は何もしない。
充の母親は別の病院の看護師をしていて、本人が怖く本人の言いなりであった。
金をくれと言われれば、言う通りにしてしまう。
父親は、充の暴力に耐えられず失踪して何年もたつ。
充の話を別の看護師が、カンファにかけた。
「館さんのせいで、業務がすすまない、担当看護師は何もしない。」
その日、風子は休みでいなかった。
病棟主任が面倒くさそうにいう。
「俺もそう思ったわ。桜田さんはなにもしない。」
役職者として、あり得ない発言をした。
男好きの副主任も加勢する。
「本当に、館さんは評価出来る部分もあるのに、桜田さんはわかっていない。」
書記である看護師は、そのやりとりをオブラートに包まず、そのままカンファレンスノートに記載した。
結果は良い意見も出たようだが、ノートには風子の悪口しか書かれなかった。
 数日後ー
副主任が風子に声をかけた。
「桜田さん、館さんの対策についてこの前カンファレンスしたから、ノートみてね」
と。
「あ、はい、ありがとうございます」
ーー私が困ってたから、話し合ってくれたんだわ。ありがたい。
早速、ノートを読んでみる。
「!?」
ーーえ?なに?これ、私の悪口じゃない?
問題な看護師?
ワナワナと手が怒りで震える。
「副主任、これ、どういうことですか?」
怒りをあらわに、尋ねた。
「え?なに?」
不思議そうな表情で、近寄ってくる副主任。
「ここのどこに、対策が書いてあるのですか?」
カンファレンスノートを開いて、副主任の目の前に出す風子。
「え?なにこれ?」
副主任は冷や汗をかいている。
「いや。知らないよ。こんな内容。」
顔を青ざめ逃げる副主任。
風子は涙を流しながら、怒り狂った。
「師長にいってやる!」
口で言っても証拠がないと信じてもらえないと判断し、改ざんされないよう、カンファレンスノートをコピーして、自分が用意したノートに、副主任の態度も書き加えて師長に渡した。
「こめんなさいね、私が休みの日に、カンファレンスで、こんな話になってたなんて。」
師長はすぐに謝罪してきた。
主任、副主任、書記には注意したという。
「3人とも、申し訳なさそうにしていたわよー」
そうは言うが、風子には直接の謝罪すらない。
風子は激昂して、師長同席の元、カンファレンスでこのことをはなした。
3人とも申し訳なさそうにしていたが、謝罪は3人ともなかった。
その日の帰り際、廊下で副主任と2人になった。
副主任は風子の耳元で囁いた。
「あんた、そんなにしつこいから結婚できないんだよー」
と、ニタニタしてる。
副主任はバツイチであったが、再婚して若い旦那様がいる。
唇を噛み締め、固まる風子。
副主任は、鼻歌を歌いながら、玄関に向かう。
「あんな女でも、2回も結婚できるのね。」
皮肉を言いつつ、風子も帰っていく。

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