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若いということ

大学2年生のとき、初めて一人で海外へ出かけた。せっかく行くなら何か目的をと、ワークキャンプに参加しようと決めた。飛行機の乗り方もよく分からず、行った先のこともよく調べず、何となくバックパックを買い、旅行代理店にフライトをとってもらって、目指した先はタイだった。機内で読もうと買っていたガイドブックもタイ語の会話帳も、見事に預け荷物に入れてしまうくらい、当時の私は旅慣れていなかった。手荷物検査場の前で「何でこんな決断しちゃったんだろう」と泣きべそをかきながら、不安でいっぱいの中出発した。それくらい若くて、無謀だった。

ワークキャンプは現地集合・現地解散が原則である。通常、首都から離れた田舎が集合場所になることも多い。私が行ったのも、タイのバンコクからずっと離れた東北部、もう少し行けばラオスとの国境に近いくらいの都市だった。その街の鉄道駅が集合場所だった。

国内線で移動しようと、バンコクの空港の搭乗口付近にあるベンチで待っていた時、タイ人の女性と一緒にいた日本人の男性が声をかけてきた。周りはほとんどタイ人ばかり、ぽつんと若い日本人女性が一人、不思議に思ったのだろう。考えてみれば、空港に着いてからどう移動して、どこに宿泊するかすら、私は決めていなかった。目的地に到着するのは夕暮れ時、行き先は一緒だから一緒に食事をとって、予約している宿に空き部屋があればそこに泊まったらどうかと提案してくれた。その人のおかげで、美味しい屋台の食事に安全な宿、さらには翌日の鉄道駅までのタクシーまで、手配してもらうことができた。

その人とは別れ際に、メールアドレスを交換した。帰国予定の日程を伝えたら、その後も無事かどうかの連絡をくれたりと、本当に心配してくれた。ワークキャンプで出来た友達と過ごし、すっかりタイに馴染んで何事もなく帰国した私は、そんなに心配しなくても大丈夫だよ、私ももう大人なんだし…と思いながら、やり取りしていたことを覚えている。

国際交流の仕事をしている中で、日本を離れて海外へ飛び出す若い人たちにたくさん出会ってきた。彼らの挑戦を応援してきたし、実際に渡航する彼らは、あの時の私に比べてずっと準備が出来ていると思う。それでもやっぱり思うのだーどんなに一人で調べて、努力して準備してきたとしても、あなた一人の力でここまで来たわけじゃないんだよ、あなたが思う以上に、あなたの無事を願っている人がいるんだよ、と。

私もあの頃はどこか、一人で何でも出来る、何とかなると、肩で風を切って歩いていた。あの人のお世話になったことも、とてつもなく幸運な出会いだったな、で済ませていた気がする。でも今この年になって、赤の他人にもかかわらず、あの時心配してくれたあの人のことを本当にありがたく思い出している。年を重ねるごとに、感謝はジワジワと深まっていく、そんな気がしている。


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