最後の講義
気学鑑定をしている時、依頼人の方から時折「なぜ気学を学ぶようになったのですか?」とたずねられることがある。振り返って考えると、その理由の多くは、先生の影響が大きい。私は先生に積極的に話しかけたり、質問したりすることは出来なかった。覚えてもらおうとか、直接相談しようとも思っていなかったから、先生の記憶にはほとんど残らない生徒だったと思う。でも、私にとって先生のあり方は、人とはどのような存在かを考えるうえで、強く影響している。
私が最後に先生から講義を受けたのは、先生が他界される2年ほど前だったと思う。先生が毎年執筆されている本の版元主催のセミナーだった。いつも受けていた講座にくらべると、気学に初めて触れる方たちの割合が多い印象だった。
一通り先生が講義した後、質疑応答の時間があった。手を挙げた人も、初めて気学に触れた人のようで「私はこういう星の人間だと先生は説明されましたが、先生が仰るほど私自身の性格は素晴らしいものではありません。これはどう考えたら良いでしょうか」という内容の質問だったと思う。質問者に対して先生は「昔こんな出来事はありませんでしたか」と、いくつか事例を出しながら確認していった。過去に辛い体験をお持ちで、その経験が今の自分の行動や性格に影響していることが、いくつかの簡単な質問から見えてきた。
質問者に対して、先生は「あなたの感じるそのズレは、これまでの辛い体験を通して出来たものです。今まで本当によくがんばってきたね。あなた自身は何一つ悪くないよ。でも心の持ち方を変えることは出来るから、変えたいと思ったら学びにいらっしゃい」と、大粒の涙をポロポロこぼしながら答えられていた。気付けば会場の半分くらいの人がもらい泣きをしていたし、あの時のことを思い出すと、今でも私はこみ上げるものがある。
すでに先生はかなり体調が優れず、その日も病院から会場へ来られていて、車椅子で移動しなくてはならない状態だった。しかし、初めて出会った質問者の奥底にあった悩みや葛藤をすくいとり、一切質問者を責めることなく向き合っておられた。「あなたは何一つ悪くない」「必ず変われます」という先生の言葉に質問者はどれだけ救われただろう。きっと先生のメッセージは、質問者の人生に影響を与えたに違いない。
先生は常々「一流の人間はどんな人のどんな相談にも希望を与えるものである。相談者に恐れや不安の感情を与える人間は三流以下。常に一流を目指しなさい」と仰っていた。残り少ない人生の時間の中で、先生は一流の人としてのあり方を見せてくださった。先生の弟子の一人として、これからも依頼人の方の希望と喜びに繋がる鑑定をしようと思うし、先生の持っていた人間力に少しでも近付きたいと思うのである。