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方位と親心

私の実家は広島である。「ロックダウン」の話が周囲から聞こえ始めた頃、帰郷も考えた。今定職にも就いていないし、とりあえず実家に戻れば生活費が浮くし、今後のことも経済面で余裕が出来る。そう思い、実家の母に相談をした。

その頃はまだ今ほど感染者は増えていなかったが、母の反応は超が付くネガティブだった。帰ってきても居場所はないよ、本当に帰りたいなら父さんに頼み込まなきゃ難しいよ、私は口添えできない、云々。しかし、私が引っかかったのは、やっと3人で落ち着いて暮らせるようになったんだから、、という言葉だった。

3人とは、両親と祖母(父方)のことだ。私が上京して4年が経とうとしているが、3人と犬1匹で、やっとうまくやれるようになってきたのに、ということなのだろう。私は実家に戻っても、お荷物にはなれど力にはなれない、ということかな、と思った。

9年前も、私は実家に頼ろうとしたことがあった。しかしその時も受け入れてもらえなかった。悲しくて、辛くて、毎日心が痛かった。親って普通、子供が困ってたら無条件に助けてくれたり、味方になってくれるもんじゃないのかと思っていたが、うちは違っていた。あの時の記憶がふと脳裏をよぎった。

気学は9年でひと回りである。吉凶の方角も変わらない部分がある。当時の私は岡山から広島に、今回は東京から広島に帰ろうとしていた訳で、方位で言うと東から西へ移動しようとしていた。しかし、今年も9年前も、西は凶方位なのだ。一見冷たい親だと思ったが、よくよく方位を確認して、帰郷のタイミングを見直すことにした時、もしかするとこれも親心なのかも…とふと思った。もしあの時、母に口添えをお願いできていたら、おそらく方位のことなど気にすることなく広島に帰る手配を進めていただろう。

今、学生を中心に、多くの東京在住者が地元に「疎開」を始めたと聞いている。ウィルスのことも、方位のことも、結構気になっている。


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