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【観劇】ブロードウェイミュージカル「ニュージーズ」をみて、ピュリツァーさんについて考えた

2024年10月9日から29日まで、東京・日生劇場にて上演されているブロードウェイミュージカル「ニュージーズ」を観劇してきました。

日生劇場のリス🐿️ちゃん

ニュージーズとは新聞を販売している少年たちのこと。物語は1899年の夏にアメリカ・ニューヨークを舞台に、街で新聞を売りながら“その日暮らし”をする若きニュージーズたちが、新聞の卸売値を一方的に引き上げる新聞社と戦い、自分たちの生活と権利を守り抜こうとする…というものです。主人公の青年・ジャックを岩崎大昇(美 少年)さんが演じています。
ディズニーミュージカルらしく、大きな瞳と体躯でジャックを表現しきった岩崎さんはもう本当にすばらしかったのですが、演技のことは素人なので個人的な感想は割愛します。

本編映像が公開されていたので貼っておきます。新聞売るぞ〜♪

劇中で、100部で50セントだった新聞の売値を60セントに吊り上げ、ニュージーズたちを苦しめるのは、新聞「ワールド」のオーナーであるジョーゼフ・ピュリツァー氏。物語の中では、いわゆる少年たちの敵として描かれています。今回は俳優の石川禅さんが演じています。(最高)

ところで「ピュリツァー」って名前、聞いたことありませんか?
わたしのなかのピュリツァーさんって、そういう少年たちをいじめているようなイメージではなくて「ピューリッツァー賞をつくったすごい人」なんですよね。ピューリッツァー賞とはアメリカにおいてすぐれたジャーナリストや文学・作曲などに贈られる権威のある賞のことです。日本人が授賞したこともあります。

だから、めちゃくちゃ悪いやつに描かれていて新鮮でした。なんか、アタイの知っているピュリツァーさんと違くね?と。

そこで「ニュージーズ」という作中で描かれていたちょっと(いやかなり)イヤなやつであるピュリツァーさんについて、調べてみました。ニュージーズ本編のネタバレ的なものも多少含んでいますので、まだ見てないよ!という方はご注意くださいね。

そもそもピュリツァーって何者?

ピューリッツァー賞の公式サイトに彼の生い立ちが紹介されています。

ジョーゼフ・ピュリツァー氏(Joseph Pulitzer)は、1847年にハンガリーで生まれたのち、1864年にアメリカに移住。少年時代をハンガリーで過ごしているわけですね。ハンガリーでは19世紀に産業革命がおこり、のちに他国に移り住む人が増えたそうですから、ピュリツァーがアメリカにきた理由にも影響しているのかもしれません。

ジャーナリストから経営者に

その後、ジャーナリズムの道に進んだピュリツァーは、新聞社を買収し「セントルイス・ポスト・ディスパッチ」紙のオーナーに。自らも編集者として携わりながら、大企業の不正などに対する追及・糾弾を繰り返して民衆を味方につけていきます。その後、「ニューヨーク・ワールド」紙を購入。このワールド紙が赤字を出し続けた結果、卸売りを値上げすることに…。そして、ニュージーズとの衝突が起きるんですね。

ニュージーズのパンフレットでは「いきすぎた資本主義の象徴として描かれる」と紹介されていますし、ミュージカルなので誇張されている部分もあるとは思います。ですが、彼がもともと不正を糾弾する立場のジャーナリストだったということを頭に入れてみてみると、また違った見方ができそうです。

ここまで書いて思い出したのですが、そういえば劇中のピュリツァーって「めっちゃ金持ってるよ!」みたいな演出があまりないんですよね。オーナーなのに。
ジャックに対して問題をお金で解決しようとしてみせたり、専用(?)のバーバーで身だしなみを整えているシーンこそあれど、ゴージャスな服!ダイヤ!女!酒!キャバレー!みたいな、ミュージカルにありがちなお金持ち描写があまりなかったような。
会社は赤字で苦しいけど、ジャーナリズムの火を消してはいけない。そのために新聞の卸売値を上げたり、社会の要人たちにナメられないように身なりを整えたりしていたのでしょうか。
ピュリツァーなりにオーナーとしていろいろ考えるところがあったのかも。いやでもクラッチーにいじわるしたのは許さんぞ。

主人公・ジャックから影響を受けた?

ワールド紙はセントルイス・ポスト・ディスパッチ紙と同様に、大企業や公職の不正や汚職を多く取り扱い、その是非を社会に訴えかけていきます。実際にピューリッツァー賞ではいくつかある部門のうち「公益」にまつわる部門がもっとも権威があるとされているので、このあたりにもピュリツァーの強いジャーナリスト魂を感じます。

ところで、ニュージーズの主人公であるジャックは美術家としての才能を持ち、劇場の壁画や、ヒロインであるキャサリンの肖像画を描くシーンが多く出てきます。そして、彼の才能は、値上げに対してストライキを決行する少年たち、そしてそれを見守る大人たちを突き動かし、社会を大きく変えていきます。(もちろんジャックの人柄によるところも大きいですよ!)

物語のキーになる絵というのが、大きく描かれたピュリツァーが、その靴底で小さなニュージーズたちを今にも踏みつぶそうとしているもの。これ、風刺画そのものなんですよね。

ピュリツァーはこの絵を見て「なかなかよく描けているじゃないか」というんです。自分が悪く書かれている絵ですよ!?そしてピュリツァーはひらめきます。これを使って、さまざまな不正を絵におこし、新聞に載せることができないか?と。
当時、まだまだ写真は貴重ですからね。その場、ジャックには新聞のために絵を描くことを断られますが…。

結局、ワールド紙は風刺画やイラストを用いるようになったそうです。悪者にされながらなお、ジャーナリズムのために頭をはたらかせるピュリツァー…!

さらに劇中では、ニュージーズのストライキを鎮静化させるためにわざわざお出ましになったセオドア・ルーズヴェルト州知事(当時)に「知事はんのところで起きている秘密のやりとりを絵にして新聞に載せたらおもしろそうどすなあ」(意訳)みたいなことを言うわけです。そして一瞬たじろぐ知事。ピュリツァーさん、お強いよお。

実際、風刺画は爆発的に流行します。そして、世界の風向きや世論を変えていきます。よく世界史の教科書で見たことがあるはず!

世界史をちゃんと勉強しておけばよかった

ニュージーズは実話に基づいているといわれていますし、実在した歴史上の人物がたくさん出てくるので、観劇中も「あ!なんかこの人(の名前)、教科書でみたなー」という既視感的なものを味わいました。

が、世界史をほとんど通ってこなかった身。この時代のアメリカが、どんな社会問題をはらんでいたのか?この時代のジャーナリズムがどうなっていたのか?少年たちの貧困問題はどうだったのか?なんて、もちろん考えたこともありませんでした。

主役であるニュージーズたちの敵・ピュリツァーを深堀りすることで、物語により奥行きが出ますし、ひとつひとつのせりふや歌詞、表情に至るまで、新たな発見があるような気がします。勉強しなおしてから、もう1回みたいな~~~!アラン・メンケンは最高だぜ。

ジャックのその後については、劇中で描かれませんが、ピュリツァーとタッグを組んで、絵の才能をジャーナリズムに捧げる…的な未来もあったりするのでしょうか。いや、あってほしい。キャサリンと一緒に20世紀のジャーナリズムを切り拓いてほしい。

まだまだ知らないことだらけなので「ミュージカルが好きな人のためのやさしい世界史」的な本があれば、ぜひ教えてください。

※岩崎大昇さんの「崎」は正確にはたつさきです。

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