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「シンギュラリティな夢」 後編
翌日の放課後。
結局、○○は事情を鑑みて大したペナルティが付くことはなく、説教だけで済んだ。
○○「…。」
○○は廊下を歩いていた。
彩「○○さん。」
○○「!」
そこに彩が現れた。
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○○「小川さん…。」
彩「申し訳ございません。私のせいで…。」
○○「俺は…小川さんは侮辱されてるのが許せなくて…気が付いたら…。あいつらの言うことなんか気にしなくていいからね?」
彩「はい…。」
○○「俺は小川さんのこと、大切なクラスの仲間だと思ってるから。うちのクラスに来てくれてありがとう。小川さん。」
彩「…!」
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彩(何でしょう、このざわめきは…。私は…。○○さんは…。)
○○「…小川さん?」
彩「あ、い、いえ、何でもありません。おかしいですね、機械のはずなのに。失礼します。」
彩は一礼すると去っていく。
○○「…。」
美空「○○。」
彩と入れ違いに、美空が現れる。
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○○「美空。」
美空「話があるんだけど、いいかな。」
○○「ん?あぁ…。」
二人は校舎裏に来た。
○○「それで、話って何?」
美空は神妙な面持ちで話し始める。
美空「○○、らしくないよね。あんなに取り乱して人を殴ったりなんて。」
○○「それは…クラスの仲間である小川さんが侮辱されたから…。」
美空「本当にそれだけ?」
○○「…!」
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彩「いけない、いけない。○○さんがいない間に共有された連絡事項を伝えに行ったはずなのに、伝えずに帰ってきてしまいました…。一体なんで…。私はアンドロイドなのに…。やはり先日突き飛ばされたときにどこか損傷したのでしょうか…。」
そこで彩はクラスの女子を見つける。
彩「すいません、○○さんを見ませんでしたか?」
女子「ん?○○?」
女子2「○○くんなら、さっき美空ちゃんと一緒に校舎裏に行ったの見たよ。」
彩「校舎裏ですね。ありがとうございます。」
彩はぺこりと頭を下げて校舎裏に向かった。
彩「校舎裏に着きましたが…○○さんはどこに…。」
とそこに、○○の声が聞こえる。
○○「何が言いたいの?」
彩「!」
彩は○○を見つけるが、美空との話し中であり、そこから感じる雰囲気からかとっさに建物の陰に隠れた。
美空「単刀直入に聞くよ?○○って───」
「あーやのこと好きなの?」
○○「!」
彩「!!」
美空「その反応、やっぱりそうなんだ…。」
○○「だったら何か問題あるのかよ。」
美空「わかってるの?あの子はアンドロイドなんだよ?人間に限りなく近いとはいえ、機械なんだよ?人間同士と同じ恋愛は成立しないんだよ!?」
○○「わかってるよ!!」
美空「だったら…!」
○○「でも好きになっちゃったものはしかたないじゃないか…!」
美空「○○…。」
○○「俺だってこの気持ちをどうしたらいいかわからないんだ…!」
その会話を聞いていた彩は建物の壁に脱力したように寄りかかる。
彩「ようやくわかった…。私のこの感覚、いえ、『感情』は…。」
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その時だった。
ドォン!!!
突如響く、爆発音。
学校で起こりうるはずもないその轟音に、彩も、○○も、美空も音のした方を見る。
彩「!?」
○○「何だ今の音!?」
美空「とにかく行ってみよう!」
○○「あぁ!」
○○達が駆け付けると、そこには2階部分が炎上している校舎があった。
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周囲に人だかりができ、教師が必死に校舎の生徒や野次馬を避難させようとせわしなく動いている。
○○「あれは、家庭科室と理科室!?」
美空「何があったの!?」
女子「家庭科室のガス管がガス漏れしてたらしくて、その状態で隣の理科室で科学部の人たちが火をつけちゃったらしいの!」
○○「おいおい…。」
その前方には、彩がいた。
彩「…!」
するとそこに、避難誘導をしていた教師に女子生徒が縋り付く。
女子生徒「先生!助けてください!まだ中にミユキが残ってるんです!」
教師「落ち着け!もうすぐ消防士の人たちが来る!」
女子生徒「それじゃ間に合わない!」
それを聞いていた彩。
彩はすぐに校舎に目を向ける。
イヤホンのランプが点滅し、彩の目にあたる機械が変化する。
彩「スキャン開始…!」
ピッピッピッピッ…!
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彩は校舎内に生体反応を見つける。
彩「いた!」
彩は走り出し燃え盛る校舎へ入っていく。
そして、それを目撃した○○。
○○「小川さん!」
○○も彩の後を追って校舎に入っていく。
美空「○○!」
走り出した○○を見て美空も追いかける。
しかし、教師に行く手を阻まれてしまう。
教師「ダメだ!離れて!」
美空「でも○○が!○○!○○!!」
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彩は走っていた。
彩「待っててください!今行きます!」
○○はそれを追いかけていた。
○○「小川さん!待って!げほっ!」
○○は煙を吸いながらも彩に声をかけるが、彩は聞こえていない様子で駆けていく。
やがて彩は理科室の扉を開けると、隅の方にしゃがみこんでいる女子生徒に駆け寄る。
彩「助けに来ました!ミユキさん、ですね?」
ミユキ「はい…!」
意識は朦朧としているが、ミユキは返事をし、彩の肩を借りながらふらふらと立ち上がる。
そこに○○も追って合流する。
○○「生存者…!?小川さん!」
彩「○○さん!お手伝い願えますか!?」
○○「うん!もちろん!」
二人で両肩を支え、出口へと急ぐ。
しかし、一同が廊下に出たその時だった。
○○達の行く先の壁がガラガラと音を立てて崩れ落ちようとしていた。
彩「!」
彩はそれに気づくと崩れてきた壁を盾にして支え、瓦礫が道をふさぐのを食い止める。
彩「ぐっ…!!」
○○「小川さん!!」
彩「○○さん!早く先に進んでください!」
○○は唇をかみながら先へと進む。
ある程度進むと、彩の方を振り返る。
○○「小川さん!小川さんも早く!」
彩「いえ、私は無理です。」
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○○「!?」
彩の発言に○○は驚く。
○○「どうして!!」
彩「ここを離すわけにはいかないからです。分析したところ、ここが崩れると、最終的に校舎の大部分が倒壊します。そうしたら、外にいる皆さんにも被害が行き、二次災害になってしまいます。」
そう喋っている彩の頬に火の粉が当たり、彩の人工皮膚が燃え、鉄の部分が露出する。
○○「でもそれだと小川さんが!!」
彩「○○さん。」
やわらかい声色に○○は今度は別の意味で驚く。
彩「私は、どうやら人間の心をラーニングしすぎてしまったみたいです…。」
○○「いきなり何言ってんだよ…!小川さん…!」
○○はミユキをおろして走り出すが、そこに火が燃え広がり、○○と彩の間を阻まれてしまう。
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○○「うっ…!小川さん!」
彩「私は、○○さんと話すたび、何か胸のあたりがうずくような感覚に襲われました。ずっと何かしらのエラーだったと思っていましたが、たった今、やっと、その正体がわかりました。」
彩「私は…○○さんが好きでした。」
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○○「…!!」
彩「私は人間の心を学び、○○さんに恋をしていました…。」
○○「ぐっ…!」
燃え盛る炎の中、彩自身も燃えながらの告白。
○○は涙をボロボロと流していた。
○○「俺も!!俺も小川さんが好きだ!!大好きだ!!」
彩「ふふっ、嬉しいです。」
彩はそれを聞いてニコッと笑う。
それは○○が好きになったあの笑顔だった。
すると、彩の目から一筋の水滴が流れる。
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彩「涙…?いや、冷却用の水が流れたのですか…。でもなぜ…。」
そして、理解したように○○の方を見る。
彩「これが悲しいということなんですね…。○○さんともう会えないのが悲しい…。」
○○は嗚咽している。
彩「私も人間に生まれたかった…。○○さんと普通の恋がしたかった…。」
○○「人間もアンドロイドも関係ない!小川さんは小川さんだ!!」
○○は涙ながらに叫ぶ。
彩「最後に一つだけ、お願いがあります。」
○○「…?」
彩「最後に一度だけ、『彩』って呼んでください。」
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○○は涙をぬぐって無理やりながらも笑顔を作る。
○○「彩…大好きだよ…!」
彩「…嬉しい。
○○さん。今まで、ありがとう。」
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そのタイミングで、さらに炎が燃え広がり、完全に彩を飲み込み、○○から見えなくなった。
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○○「彩!!」
ミユキ「けほっ…。」
そこにミユキがせき込む声が届き、○○はハッとする。
自分は彩にこの子を託された。
彼女を救わなければならない。
○○は彩を飲み込んだ炎とミユキを交互に見ると。
○○「…ぐぅぅっ!!」
ミユキの肩を持ち、出口へと向かった────。
ミユキは出てすぐに教師が介抱し助かった。
外にはすでに消防隊が到着しており、消火活動が始まるところだった。
出口から出た○○は、抜け殻のようだった。
美空に「あーやは?」と聞かれたが、無言で首を横に振ると、それ以上は聞いては来なかった。
消防士「消化完了!これより突入する!!」
その声で、○○の目に光が戻る。
○○「彩…彩!!」
○○は立ち上がり、消防士より先に校舎に入っていく。
消防士「あ、おい君!!」
消防隊が後を追って突入する。
○○は彩と別れた理科室前の廊下に急ぐ。
そして…立ち止まる。
そこにいたのは、黒焦げになり表面がほぼ焼けた、鉄の『人型』が、瓦礫を支えて立っている姿だった。
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○○は変わり果てた愛する者の姿を見て、再び涙を流して崩れ落ちる。
大声で、泣いた。
そして、その後ろを追って消防士がその光景を目にする。
先頭にいた隊長らしき男が、○○と目の前にいる『人型』を見て、何があったのか、おおよそを理解する。
隊長「…勇敢なアンドロイドに!総員敬礼!!」
その号令で消防隊が、一斉に敬礼をし、彼女の栄誉をたたえた。
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そこから、数年がたった。
○○は大学の研究室で、とある実験を試みようとしていた。
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彼の目の前にいるのは、女性をモデルにした『人型』。
そのこめかみに、カードを装填するスロットが開く。
○○は鍵付きのケースから一枚のカード型の部品を取り出す。
○○「…。」
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隊長「君。」
○○「はい…。」
隊長「あのアンドロイド、いや、君の大切な友人の中で、これだけが綺麗に燃え残っていた。あの子の遺品だ。君に渡しておくよ。」
○○「これは…。」
それは、端子のついたカード型の部品。
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この時代において、○○はこれが何かを知っていた。
それは、メモリーカードだった。
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時は戻り現代。
○○はそのカードをスロットに挿入し、スロットを閉じる。
そしてその瞬間、目の前の機械は音を立てて起動する。
『システムを起動します』
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目を開けると、そこは見慣れない景色だった。
(ここは…どこ?)
そんな疑問を持ちながら顔を上げると、そこには、見知った顔がいた。
少し大人な顔つきになっていたが、目の前のその人を自分は知っていた。
彩「○○さん…?」
○○はその声を聴いて○○は涙ぐみ、唇を震わせる。
すると、研究室のドアが開く。
美空「○○~、機械工学の教授から資料が…。」
その瞬間、美空は資料をポトリと落としてしまった。
美空は目に涙を浮かべ、手を口元に充てる。
美空「○○…やったんだね…!」
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彩「私は…。」
○○はその言葉をさえぎってぎゅっと彩に抱き着いた。
○○「おかえり…彩。」
彩は驚きながらも、ニコッと笑って抱き返す。
彩「ただいま。○○。」
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「シンギュラリティな夢」 終