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「邪を打ち払うほどの愛」

僕は高校生だが、神社の神主を務めている。

といっても、商売をしているわけではないので、特に常に神社にいる必要はなく、基本的に無人、高校にも問題なく通えている。

そして僕が引き継いだのは神社だけではない。

誰かに触れて回ることでもないから黙っているけど。実は僕は霊媒師でもあるんだ。

この世には妖怪と呼ばれるものが実在する。

それを退治し、人知れず平和を守っているのが、僕たち霊媒師だ。

そんな身分を隠しつつ、今日も僕は神社の落ち葉清掃に努めているのだが…。

??「○○~!」

やれやれ、今日も来た。

○○「今日も来たのね、美空。」

美空「もちろん!だって○○のこと大好きだもん!」

○○「はいはい。そりゃどーも。」

彼女は幼馴染の美空。同じ高校な上に近所に住んでいて、放課後や休日はこうやってほぼ毎日この神社に遊びに来る。

美空「はい!昨日クッキー作ったの!食べてね!」

○○「えー!ありがとう!おぉ、美味そう!」

美空「どう?美空に惚れ直した?」

○○「ん~どうだろうね~。」

美空「もう!いっつもはぐらかす~!」

○○「あはは…。」

○○(ごめんよ美空、美空の気持ちに応えてあげたいけど、いつか僕が霊媒師であることも隠しておけないと考えると、決心がつかないんだ…。)

美空「じゃあ私は向こう掃除してくるね!終わったら一緒に課題しよ!」

○○「あぁ、ありがとう!」


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神社に裏側にて。

美空はとぼとぼと歩きながら独り言を言っていた。

美空「もう。どうやったら○○に好きになってもらえるのかなぁ…。」


【私が手伝ってあげましょうか?】

突如、声が聞こえた。

美空「え…!?だ、誰…!?」

美空がそういうと、目の前に青い炎が現れた。

人魂。そうとしか言いようがない。

【うふふ、怖がらなくてもいいわ。私は、そうねぇ、あなた達人間でいうところの、妖怪。】

美空「妖怪…?そんな、まさか…。」

【あなた、あの男の子を自分のとりこにしたいんでしょ?私が手伝ってあげる。】

美空「え、本当に…!?」

【ええ、もちろん。その代わり、あなたの体を少しだけ貸してくれたらいいの。本当に少しだけよ。どう?】

美空「…私は…。」




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サァァ────…

ヒュンッ…。

○○「!」

○○はピクリと反応し、掃除の手を止める。

○○「妖気!近い!」

○○が気配の方向を見ると、美空がとぼとぼとこちらに歩いてきていた。

美空?「…。」


○○「美空、ごめん、緊急事態なんだ…!今すぐここを離れて…!」

美空?「○○…?」

○○「美空…?」

美空?「私ね、あなたのことが好きなの。私のものになって。○○。」

○○「美空、今はそんなこと言ってる場合じゃ…!」

美空?「○○!!」

そういうと、美空は○○に抱き着いてきた。

だが、抱き着かれる直前。

ヒュンッ…。

○○「!!」

○○はとっさによけた。そして距離をとる。

美空?「○○?何で避けるの?」

○○「お前、美空じゃないな?」

美空【うふふ…やっぱりバレちゃうのねぇ、いつの時代も霊媒師って厄介なものだわぁ。】

○○「お前、妖怪化け狐だな?美空の体から出て行け!」

美空【それは無理ねぇ、彼女は自ら望んでこの体を私に明け渡したんだから。】

○○「ふん、どうせまた都合のいいようなことを吹き込んで体を渡させたんだろ。」

美空【この子はね、あなたのことがだーい好きで、あなたにも自分を好きになってほしかったそうよ?それなのにあなたは振り向いてくれなかった。
そこで私があなたを落としてあげると一言言ったら、コロッと体を貸してくれたわ。まさか相手が霊媒師とは思わなかったけどね。】

〇〇「化け狐、お前の習性は知ってる。体を貸せなんて言っておいて返さず永遠に憑依するつもりだろ。」

美空【いいえ、ちゃんと返すわ?100年後ぐらい、こいつの寿命が尽きる時ぐらいにね!】

〇〇「そんなこっだろうと思ったよ。絶対に許さない!」

その声と共に、〇〇は「縛」と書かれたお札を美空、もとい化け狐に投げた。

美空【うっ!】

美空の体は狛犬の石像に叩きつけられ拘束される。

〇〇「悪鬼よ!その憑依せし体を解放し出でよ!破ァァァッ!!」

〇〇が五芒星を結び美空の体にぶつけるが、それは弾かれて消滅してしまった。

〇〇「何!?」

美空【ふふっ、残念だったわねぇ。】

〇〇「くっ、美空との体の結びつきが強くて技が効かない…!」

美空【そうよ、この子が強い意志で私との結びつきを解こうとしない限り、あなたは私を祓うことはできない。さぁ、大人しく私の虜になりなさい!この人間もあなたも一生飼い慣らしてやるわ!】

〇〇「美空…!」

〇〇は歯噛みしたが…。

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【この子が強い意志で私との結びつきを解こうとしない限り…】

【この子はあなたのことが…】

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フッと体から力が抜ける。

そして、深呼吸をした。

〇〇「美空。聞こえてるか?」

美空【?】

〇〇「美空は小さい頃から僕にずっと優しくしてくれた。どんなに僕が壁を作っても変わらず接してくれた。本当はとっても嬉しかったんだ。」

美空【いきなり何を…。】

〇〇「でも僕は霊媒師だ。妖怪と戦うことも珍しくない。だから、もしも、美空が僕のそばにいるせいで、妖怪の被害に遭ってしまったら、僕のせいで君が危険な目に遭うかもしれないと思ったら、怖かったんだ!
君が僕の中でより大切な存在になっていくのが!僕の君に対する愛が強くなるのが怖くて!それを封じ込めた!」

美空【無駄よ!この子の意識は深いところにある。声なんか聞こえてないわ!】

〇〇「でも、そうやって壁を作ってたのが、逆に美空を傷つけてたんだよね…ごめん。僕は考え方を改めた。君の愛を受け入れないのは僕の怠惰だった。君を守るなんてのはその言い訳でしかなかった。
これからは君の愛を全部受け止める!僕の近くにいることで君が危険な目に遭っても、必ず僕が守る!」

ピクッ…。

美空の指が動いた。

美空【!?】

〇〇はそのまま、美空の体に歩み寄った。

美空はまだ拘束されたまま、動くことはできない。

〇〇「だから戻ってきて。美空。」

そして美空の顎を指でクイっと上げて。

そっと、キスをした。

数秒間口づけを交わした後、唇を離す。

美空「…〇〇。」

〇〇「美空…。」

その瞬間、美空の体からドス黒いオーラと青い炎が弾き出される。

化け狐の人魂【ぎゃああああああっ!!】

〇〇「出たな!化け狐!」

人魂【バカな!コイツの心は深層意識の中にあったはず!あり得ない!】

〇〇「いいことを教えてやる!

"愛は時に理屈を越える"んだ!!」


〇〇は人魂に向かって飛びかかる。

そして、彼の手は五芒星が刻まれ強く光っていた。

〇〇「悪・霊・退・散!!」

〇〇の拳は人魂を貫く。

人魂【あああああああ!!バカな!この私が!二度も人間ごときに!!おのれ霊媒師ぃぃぃ……!!】

そんな恨み言と共に、人魂は無に還り、消えた。

そして、美空の体が解放される。

〇〇の放ったお札は、妖怪以外には機能しない。

振り向いて美空の姿を捉えた〇〇は美空の元に戻り、強く抱きしめた。

〇〇「美空…。無事でよかった…!」

美空は軽く驚くも、〇〇を抱きしめ返す。

美空「〇〇…。ありがとう。助けてくれて。」

〇〇「ううん、ごめんね、今まで。」

美空「いいの。さっきの〇〇の言葉、全部聞こえてたよ。嬉しかった。」

〇〇「あっ…!」

〇〇はついぞ先ほどの自分のセリフを思い出し、赤面する。

〇〇「いや、あれはその…!勢いのまま出ちゃったっていうか…!いや嘘じゃないんだけど…!えと…!」

美空「ふふっ…。」

美空は狼狽える〇〇の頬に触れた。

〇〇のしどろもどろが止まり、2人は見つめ合う形になる。

美空「〇〇。」

〇〇「美空。」

そして2人は顔を近づけ、いま一度、お互いの愛を確かめる口づけを交わした。

魑魅魍魎を打ち払うほどの、強い愛を、お互いに注ぎあったのであった…とさ。




「邪を打ち払うほどの愛」


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