「目が覚めたら乃木坂4期生の○○でした」 第6話
ある朝突然女、しかも乃木坂4期生になっていた××(現世の名前:○○)。
4期生としてのレッスンが終わった後、メンバー数人で食事に行くことを持ちかけられる。
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賀喜「これからみんなでご飯食べに行かない?」
田村「夕飯の時間には早くない?」
時計を見ると16時半を回ったばかりだ。
賀喜「でもあんまり夕食どきだと空いてなかったりするし、もしかしたら顔バレする確率も高くなるかも」
田村「そっか、じゃあ今行こう」
賀喜「○ちゃんも行こう、○ちゃんのためのご飯だからね」
○○「おれ…じゃないや、私のため?」
《5時前、某ファミレス》
賀喜「5名で。」
店員「5名様ですね、かしこまりました。」
○○はやっと、目の前に乃木坂4期生たちがいる光景に目が慣れてきた。
というよりは、ずっと驚いたり動揺してる状態に精神が疲れたのかもしれない。
席に座ってしばらくメニューを眺めた後店員を呼んだ。
店員「ご注文をお伺い致します」
賀喜「じゃあ、このミニピザで」
遠藤「私はこのナポリタンで」
田村「私はハンバーグかな」
早川「私はこのドリア」
賀喜「○ちゃんは決まった?」
○○「ステーキハンバーグセットでサイドメニューのライス大盛り、あと山盛りポテトとソーセージ&チキンを」
一同「えっ!?」
○○「あっ…というのは無しで、このレギュラーハンバーグを…。」
賀喜「ビックリした…。」
××(しまった、つい男の頃のメニューを口にしてしまった…。)
賀喜「ドリンクバー頼んだからみんな取ってこよ!」
遠藤「はーい!」
○○「うん」
田村「はい、ストローとグラス」
早川「ありがと〜」
田村「ところでさ、○、その服装はどうしたの?」
○○「それ、かっきーにも突っ込まれたんだけど…。」
○○の服装は今朝と変わらずデニムジャケットにジーパンのままだ。
田村「お見立て会では違う服着ようね…?」
○○「…そんなに変?」
賀喜「てことで、○ちゃんはどんな人だったかみんなで話していこう!」
田村「○ちゃんの?」
賀喜「そう、○ちゃん言ってたでしょ、名前と顔はわかるけどどんなことをしたか覚えてないって」
遠藤「言ってた〜」
賀喜「だからね、今の○ちゃんにとって私たちって、知ってる人だけど知らない人みたいな、どこか余所余所しい感じになってると思うの」
遠藤「うん、確かに一歩引いて話されてる感じする」
早川「時々敬語出かかってるし」
××(バレてた…。)
賀喜「こっちだけ一方的に思い出持ってるのに○ちゃんは何もわからないって可哀想だからさ、みんなから○ちゃんとの話をするだけでも違うかなって」
田村「こうやって話すだけでまた新しい思い出にもなるしね」
○○「でも、入ってまだ間もないんなら思い出なんて呼べるものないんじゃ…。」
田村「そんな事ないよ?」
田村「研修期間含めるともう結構みんな一緒にいるし」
早川「空いた時間とかレッスン後とかたくさん話するもんな〜」
○○「へぇ…。」
まだ知り合ってそこまで経ってない人達とここまで絆を深められるというのは、さすが女子といったところか。
早川「じゃあせーらから話そうかな〜」
賀喜「OK、お願い!」
早川「せーらはな、○ちゃんが財布忘れた時に自販機でジュース奢ったんやけど、そしたら次の日にこーんな大きな箱のお菓子プレゼントしてくれてん!」
田村「そうそう、結局その場でみんなに配って一緒に食べたんだよね!」
早川「そうそう!美味しかった〜!」
○○「へぇ〜!」
××(律儀で良い子だったんだな)
遠藤「私は…中々人に声がかけづらくてね、それである時みんなに話があったんだけどどうしたら良いかわからなくなってた時に、○ちゃんが気づいてくれてみんなを呼んでくれたの」
遠藤「ちょっと荒療治だったけど、ありがたかったなぁ」
××(活発な面もあったんだな…。)
賀喜「私は逆に、スタッフさんからの質問用紙を書いてる時に、『かっきー、私の消しゴム知らない?』って聞かれてね。でもその時実は○ちゃん手にその消しゴム持ちながら話してて!」
田村「そうそう、帽子被りながら帽子どこだっけって探してたこともあった!」
××(ちょっと抜けてるんだな…。)
そういった調子で、メンバーからの○○の話はポンポンと出てきた。
数ヶ月の間にできた思い出にしては十分過ぎる量だった。
みんな曰く、今日いない他のメンバーもこんな風にエピソードを持っている、らしい。
××(律儀で、活発で、協調的で、優しくて、常に人のためを考えていて、時に少しおっちょこちょい…。)
そこまで話していて、××はあることに思い当たった。
××(俺と、真逆だ…。)
おっちょこちょい、は真逆なのかどうか知らないが、人との関わりを知らず、内向的で、協調性がなく、常に自分のためを考えている。
元々乃木坂になりたいと前の世界で望んだのも、就活から逃れたい、こんな風に歌って踊って楽しく稼ぎたいという利己的な欲望からだった。
そんな自己分析をしていた一方で、××はずっと「変わりたい」と内心感じていた。
利己的過ぎる自分が嫌で、誰かのために何かに全力になれる誰かが羨ましくて。
でも自分の性格って思ったより根深くて、意識するだけじゃ中々変わらなくて。
だから気がついたら利己的な思考ばっかりしてて。
××は自分の華奢な掌を眺めて考える。
××(もしかしたらこの子は、俺の理想的な姿なのかもしれない…。)
神様はどういうわけか、××の乃木坂になりたいという望みを叶えつつ、理想の人物像まで果たした人間の体に魂を移し、この世界に組み込んだらしい。
何か自分を試しているのか、それとも他に意図があるのか。
××(…もしかしたら、何か変われるのかもしれない。)
××(どうせ元に戻る方法もわからないし、やれるだけやってみよう)
××(乃木坂として、4期生○○ ○○として)
○○「みんな」
一同「ん?」
○○「これからよろしく」
田村「何?今更改まっちゃって〜!」
遠藤「まゆちゃん、○ちゃんは記憶がないから…。」
早川「私たちは『これからも』やけどな〜」
賀喜「うん、よろしく!」
各々が笑って返事をしてくれた。
第6話 終 つづく