「夢幻」
俺は夢を見ていた。
誰かの声が聞こえる気がした。
誰かが、俺に話しかけている気がした。
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俺は目を覚ました。
辺りを見回す。
何か、長い夢を見ていた気がする。
だが、内容を思い出せない。
何か、壮大で忘れてはならないような夢だった、気がする。
いや、今朝見た夢の話なんてどうでもいい。
今日は高校の入学式だ。
朝食を済ませ、まだ着慣れないブレザーに身を包む。
そして最寄りの駅で電車を待つ。
今日からこれが毎日のように繰り返すルーティンとなるのか。
そんなことを考えていた。
すると、横から誰かに話しかけられた。
??「あの〜…。」
○○「はい、何ですか?…あっ」
話しかけてきたのはとある女子だった。
それも、俺と同じ高校の制服の女子バージョンを着ている。
身長は低めで、顔の整った子。
??「もしかして、乃木坂高校の生徒さんですか?」
○○「はい、一年生です。そういうあなたも…ですよね?」
それを聞いた瞬間、その子はパッと顔を明るくした。
??「はい、私も一年生なんです!」
??「じゃあ、敬語はいらない…かな?」
○○「そう、だね。これからよろしく。えっと…?」
??「あ、ゴメンゴメン、いきなり話しかけて名前を名乗ってなかったね」
??「私は川﨑桜っていうの。よろしくね!」
○○「俺は奥田○○。改めてよろしく」
桜「奥田くん、ね!」
桜「奥田くんはこれから3年間この駅から?」
○○「そう、そのつもり。川﨑さんも?」
桜「そうなの!だから最寄り駅からいきなり同じ学校の生徒を見つけたのが嬉しくて、思わず話しかけちゃって…。」
彼女は少し恥ずかしそうに笑いながら言った。
かわいい。
反射的にそう思った。
桜「ねぇ、この駅から行くの、なんか私達だけみたいだし、せっかく同級生なんだから、これから一緒に通わない?」
○○「えっ…!?」
いきなりの誘いに困惑した。
桜「ダメ…かな?」
○○「いや、ちょっとビックリしただけ…!」
○○「全然ダメじゃないよ!行こう!一緒に!」
ヤバい、こんな必死になって、引かれちゃったかな…。
桜「よかった!早速友達ができて嬉しい!」
その心配は杞憂に終わり、彼女は笑って答えてくれた。
友達。その響きが心地よかった。
○○「俺もだよ、これから入学式で心細かったから少し安心した」
アナウンス『間もなく××行きの電車が参ります、黄色い線の内側に…』
そこからは川﨑さんと他愛もない話をしながら電車に揺られて学校のある駅、そしてそこから学校まで行った。
門の前まで来ると、昇降口の前にクラス表があった。
だが人がごった返している…。
川﨑さんが少し困った表情になる。
桜「うわぁ…これはみるのに苦労しそうだなぁ…。」
○○「…。」
○○「俺が川﨑さんの分も見てくるよ!ここで待ってて!」
川﨑「え、いいの?」
○○「全然、じゃあ行ってくるね!」
そして少しした後川﨑さんの元に戻る。
○○「川﨑さん!俺たち同じクラスだよ!4組!」
桜「え、ホントに!?」
2人で教室に行くと、なんと2人とも前後の席だった。
○○「そっか、俺は奥田で、川﨑だから…。」
桜「出席番号順にした時隣になるんだね〜!」
桜「私達、何かと縁があるのかもね!」
彼女が少しイタズラっぽく笑う。
俺はその笑顔に胸がドキッと音を立てたのを確かに感じていた。
そこからはあっという間だった。
入学式を済ませ、クラスの人達と少しずつ交流し、また川﨑さんと一緒に最寄り駅まで帰った。
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…テ。
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俺は毎日川﨑さんと一緒に学校に通っていた。
そして彼女と話をし、彼女のことを知るうちに、俺は彼女のことが好きになっていた。
彼女に惚れていた。
遠足で一緒の班になっていろんなところを探索した。
体育祭でツーショットも撮った。
そして秋の文化祭の時、俺は彼女に想いを伝えた。
文化祭が終わってお互いクラスTシャツを着た状態。
俺は川﨑さんを誰もいない時間まで教室に残ってもらっていた。
○○「俺、川﨑さんの事が好き…なんだ」
○○「だから…俺と、付き合ってください」
彼女は一瞬硬直して驚いていたが、すぐに満面の笑みで笑い、
桜「まさか奥田くんの方から告白してくれると思わなかったなぁ…。」
桜「いつ告白しようかなって迷ってたから…。」
○○「え、じゃあそれって…。」
桜「これからは彼女として…よろしくね?」
○○「…うん!」
そして、彼女の提案でツーショットを撮った。
付き合って初めてのツーショット。
お互いのスマホのホーム画面をそのツーショットにする、なんてこともした。
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…キテ。
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クラスメイトA「奥田くんと桜ちゃんついに付き合ったんだって〜?」
クラスメイトB「もう毎日まだ付き合ってないのがおかしいってぐらい一緒にいたもん、やっとって感じだよね〜!」
○○「え、そんなに一緒にいたかな?」
○○「ゴメン、俺、鬱陶しかった?」
クラスメイトA「無自覚だったの?もう無意識で一緒にいたんだ〜?」
桜「私は全然、毎日君と話せて嬉しかったよ?」
桜「それと…」
川﨑さんはグッと俺に顔を近づけて言った。
桜「これからは…『桜』って呼んで?○○♪」
○○「わ、わかった…かわ、桜」
クラスメイトA「キャー!ニヤけちゃう!」
クラスメイトB「何今のやり取り〜!青春〜!」
俺達は顔を少し赤くしながら笑い合った。
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…ン。
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桜「○○〜!頑張れ〜!」
○○「!!…よし、お前ら気張っていくぞ!」
クラスメイトC「奥田、お前わかりやすすぎな笑」
クラスメイトD「まあまぁ、ここで勝って、○○が彼女のとこに胸張っていけるようにしようぜ」
クラスメイトE「ホント羨ましいよなぁ、あんな可愛い子が彼女とかさ…。」
○○「残り3秒…いけーっ!」
ガンッ!ガコン!
審判「ゴール!スリーポイント入って…ここで試合終了!4組の勝ちです!」
クラスメイトC「よっしゃー!優勝だ〜!」
クラスメイトD「お前スゲェよ奥田!お前今日のMVPな!」
○○「いや、俺もあそこで入るとは…!」
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桜「やったー!逆転ー!」
クラスメイトA「最後の最後にスリーポイントだって!奥田くんカッコいい!」
○○「桜〜!」
桜「?」
○○「✌️」
桜「もう…恥ずかしいなぁ笑」
クラスメイトB「顔はすっごく嬉しそうだけど?笑」
桜「えぇ〜?そんなこと、あるかも…笑」
クラスメイトB「あるんかい!笑」
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その日の帰り道。
桜「今日の○○、すごくカッコよかったよ」
○○「ハハッ、ありがとう」
○○「じゃあ、さ…」
桜「?」
○○「ご褒美…欲しいな」
そう言って、俺は顔を桜に近づける。
だがすんでのところで、彼女に鼻をちょんと触られて止められる。
桜「今はまだだーめ」
○○「えぇ〜」
桜「…この後、時間ある?」
○○「もちろん」
桜「フフッ…じゃあこのまま帰るのは私の家だね?」
○○「…だね」
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…ヲ…ケテ
…ャン
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時期はまた移り、12月24日。
彼女の両親は旅行に行ったそうで、夕食どきには俺は桜の家にいた。
○○「メリークリスマス、桜」
桜「メリークリスマス、○○」
カチン
俺たちはジュースが入ったグラスを鳴らして乾杯した。
○○「でも、ホントにいいの?ご家族と過ごさなくて」
桜「今年は…○○と過ごしたいなって思ったから…。」
○○「…俺も同じだよ」
桜「私達、ホントに気が合うね」
○○「そうだね。ホントにどこまでも同じ」
○○「桜」
桜「何?」
そして俺はスッとラッピングされた箱を差し出した。
桜「これは…?」
○○「クリスマスプレゼント。開けてみて?」
桜が箱を開けて
桜「わぁ…綺麗。」
俺が桜にあげたのは指輪。
○○「高校生のお小遣いだから、そこまで高くはないんだけどさ…。」
桜「こういうのはお金じゃないよ、○○」
桜「それに今、私すっごく嬉しい!」
彼女は満面の笑みでそう言ってくれた。
○○「そっか、よかった」
俺は安心感からか首をさすると…
桜「あれ?それ…」
○○「あ、気づいた…?」
○○「おんなじやつ」
俺は手を見せる。
俺は桜にあげたものと同じ指輪をつけて来ていた。
○○「お揃いの品、っていうの、こういうの」
○○「やってみたいなぁ、って」
桜「○○…。」
桜「ねぇ、私にもつけて?」
そう言って桜は手をこちらに差し出す。
○○「わかった」
俺は彼女の細い指に指輪を付ける。
まだ、薬指にはつけないけど。
○○「はい、できたよ」
桜「わぁ…どう?似合う?」
桜は顔の側に手を持って来て聞いて来た。
○○「よく似合ってるよ」
桜「やった、嬉しい」
桜「ありがとうね、○○」
桜「最高のクリスマスになった!」
○○「喜んでもらえてよかったよ」
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オ…カラ…ケテ…。
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○○「あっという間だったねぇ、この一年」
桜「うん、あっという間だったけど、凄く濃くて楽しい一年だった」
桜「○○のおかげでね」
○○「俺だって、桜のおかげですごく楽しかったよ」
桜「それはよかったよかった」
桜「ねぇ、○○?」
○○「うん?」
桜「大好き」
○○「…!」
突然の告白に驚いて照れたけど、向き直って言う。
○○「俺も大好きだよ、桜」
○○「これからも…よろしくね?」
桜「うん、よろしくね!」
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…ャン。オ…ャン。
…マシテヨ…。
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俺たちはそこからも関係を深めながら日々を過ごしていった。
何回もデートに行ったし、お互いの家に遊びに行ったりもした。
カップルらしく、手を繋いだり?腕を組んだり。
後は…ハグに…キスとか…。
ただひたすら、桜との楽しい日々を送った。
その間、学年が変わってクラス替えもあったけど、奇跡的に俺たちはまた同じクラスになって、お互いに抱き合って喜びあったりもした。
俺は、桜が大好きだった。
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オネ…ヲ…マシテ。
オネ…オ…チャン。
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………。
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…俺は、2回目の文化祭を終えた数日後、桜を家に呼び出していた。
桜「やっぱり○○といると落ち着くなぁ」
○○「…桜」
桜「何?そんな深刻そうな顔して」
○○「なんで俺、『3回分の文化祭』の記憶があるの…?」
桜「……。」
桜は俯いた。
○○「こないだ桜と付き合って一年たったねって言いながら文化祭を過ごしてた時、頭の中に記憶が浮かんできたんだよ」
○○「去年のでも今体験してるのでもない、全く別の文化祭の記憶」
○○「学校の教室とかは同じだったけど、そこに桜はいなかった」
○○「ううん、文化祭だけじゃない、体育祭も、遠足も、普通の授業も、何故か今まで過ごして来たものとは全く違う光景の記憶が頭の中にある」
桜「…夢とごっちゃになってるんじゃない?」
○○「ううん…これは確かに夢じゃなくて記憶」
○○「わかるんだ、なんとなくだけど」
桜「…そっか」
○○「それにね、最近、どこからか声が聞こえるんだ」
○○「頭の中に、直接」
○○「俺は、この変な記憶と声の正体を知らなきゃいけない気がするんだ…。」
○○「ねぇ桜、もしかして何か知ってるんじやない?」
○○「俺に今、何が起こってるのか」
しばらく沈黙が続いた後、桜は顔を上げて答えた。
その顔は俺がよく知るあの優しい笑顔だった。
桜「大丈夫だよ」
桜「思い出すことなんてないんだよ」
○○「…えっ?」
桜はそういうと、優しく俺のことを抱きしめた。
桜「ここなら、どんな時だって笑っていられるから」
桜「『向こう』の事なんて、考えなくて良い」
○○「向こうって…?」
そこまで言うと桜はそっと俺から離れた。
桜「…そろそろ潮時かな」
桜「『向こう』とも時期が被るとこだったし、○○の方も危ないかもとは思ってたけど…。」
○○「ねぇ、さっきから『向こう』って何?」
○○「さっきから何を言ってるの!?桜!」
桜「次はもっともっと楽しい世界にしてあげるね」
桜「『向こう』の事なんて一切思い出すことのない、『向こう』の事を考えようなんて二度と思わないぐらい、凄く凄く楽しくて幸せな世界に」
すると突然、桜が眩しく白い光に包まれた。
いや、桜だけじゃない、周りが全て眩しく白い光に包まれていく。
視界が真っ白になる。
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…キテヨ…イチャン。
…イダカラ…マシテヨ…。
あぁ、またこの声だ…。
何度も俺に話しかけてくる、君は一体誰なんだ…?
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俺は目を覚ました。
辺りを見回す。
何か、長い夢を見ていた気がする。
だが、内容を思い出せない。
何か、壮大で忘れてはならないような夢だった、気がする。
いや、今朝見た夢の話なんてどうでもいい。
今日は、『高校の入学式』だ。
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ピッ…ピッ…ピッ…。
ガラガラガラ…
規則的かつ無機質に音がなる部屋に、一人の少女が扉を開けて入ってくる。
少女は高校の制服を着ており、手には花束を持っていた。
その少女の名は、奥田いろは。
いろは「今日も…か…。」
彼女の視線の先には、ベッドに横たわる兄の姿があった。
いろははそんな兄の手を取り今日も話しかける。
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医者(体の方はもう健康に戻っています。)
医者(飛び降りた時に損傷した足の骨も、打った頭も完治しています)
医者(しかし、残念ながら依然お兄さんは昏睡状態のままです。)
医者(恐らくですが、お兄さんの意志が、目を覚ますことを拒絶しているのです)
医者(生きようとする意思が著しく弱まっているのです)
医者(このまま目を覚まさなければ…体はたとえ健康でもいずれ限界が来て、最悪…。)
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いろは「お兄ちゃん…お願いだから目を覚ましてよ…。」
いろは「お兄ちゃんを虐めてた奴らなら、お兄ちゃんが遺した証拠を決定打に逮捕されたから…。」
話すうちにいろははいつの間にか泣いていた。
いろは「だから、もう…怖いものなんてないから…。」
いろは「だから…起きてよ…。」
いろは「戻って来てよ…お兄ちゃん…。」
いろは「うぅっ…うぅ…。」
いろはの声に兄が、○○が目を開けることはなく、嗚咽する彼女の横では心電図が無情に、無機質にピッ…ピッ…と音を立て続けていた。
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朝食を済ませ、まだ着慣れないブレザーに身を包む。
そして最寄りの駅で電車を待つ。
今日からこれが毎日のように繰り返すルーティンとなるのか。
そんなことを考えていた。
すると、横から誰かに話しかけられた。
??「あの〜…。」
○○「はい、何ですか?…あっ」
話しかけてきたのはとある女子だった。
それも、俺と同じ高校の制服の女子バージョンを着ている。
身長は低めで、顔の整った子。
??「もしかして、乃木坂高校の生徒さんですか?」
○○「はい、一年生です。そういうあなたも…ですよね?」
それを聞いた瞬間、その子はパッと顔を明るくした。
??「はい、私も一年生なんです!」
??「じゃあ、敬語はいらない…かな?」
○○「そう、だね。これからよろしく。えっと…?」
??「あ、ゴメンゴメン、いきなり話しかけて名前を名乗ってなかったね」
??「私は川﨑桜っていうの。よろしくね!」
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「夢幻」 終
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