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「ストーカー」

いつもの朝。

俺は登校のため電車に揺られていた。

○○「ふぁぁ…。」

ここであくびをするのも、いつものこと。

高校が近所なら今もまだベッドの中なんだろうかなどと考えるのも、いつものこと。

女性「この人!痴漢です!」

そう、痴漢ですと言われるのも、いつものこと……

……は?

○○「はい!?痴漢!?」

真横には俺の腕を掴んで高々と上げる女性。

女性「すっとぼけないで!私のお尻触ってたでしょ!しかもあんた制服って、高校生なの!?アンタみたいならガキのうちから痴漢とかサイッテー!」

○○「いやいやいやいや!私触ってないですよ!?本当ですって!」

女性「じゃあこの腕は何なのよ!」

○○「知らないですよ!あなたが急に私の腕掴んだんでしょ!?」

女性「はぁ!?そんな見え透いた嘘!!」

○○「本当ですって!」

サラリーマン「とりあえず、ね?二人とも次の駅で降りましょ?とりあえずそれまでは私がこの人のこと押さえとくんで。」

サラリーマンが割って入って俺の腕を掴んでいるが、言葉とは裏腹にパワーが優しくない。

絶対犯人だと思ってる。

なんか掴んでるっていうより固め技で拘束しに来てるし。

○○「本当にやってないですって…。」

その次の駅に着いた瞬間だった。

もう既に連絡が行っているらしく、駅員が2人既に扉の前に待ち構えていた。

扉が開いた瞬間、被害者の女性と先ほどのサラリーマンと通りすがりが3人ほど俺を押さえながら電車から押し出す。

駅員さん2人はサラリーマン達からパスされる形で俺を拘束。

もう完全に犯人扱いだ。

被害女性「この!変態!クズ!サイッテー!」

そう喚きながらハンドバッグで俺を袋叩きにする被害女性。

あぁ、俺が何をしたっていうんだ。

俺は何もしていない。

なのに痴漢に間違われて逮捕、このまま高校は退学か?いや、はたまた刑務所か?

なんでこんな事に…。

??「あの〜…!あの!すいません!」

その声に全員が声のした方向を振り向く。

そこにいたのは1人の女子高生。

なんと俺と同じ制服。

てかこの人知ってる。同じクラスの川﨑さんだ。

川﨑「その人、触ってないですよ?」

被害女性「はぁ!?なんなのアンタ!私はね!コイツに触られた直後に!コイツの腕を!」

川﨑「私!!」

被害女性「!」

川﨑さんはいつもからは想像できないほど大声で被害女性を黙らせた。

川﨑「私、動画撮ってたんで。」

被害女性「え?動画?」

川﨑「見ます?ほら。」

川﨑さんがスマホで動画を再生すると、俺や駅員さんを含めた全員がそのスマホに集まり、動画を眺める。

川﨑「ほらほら、彼の手元映ってる。偶然横にいるあなたのお尻も、あ!ここ!」

川﨑さんが動画を止めると、確かに被害女性はお尻を触られていたが、それをしていたのは俺の隣、つまり被害女性のふたつ隣にいた中年のおじさん。

そしてその直後、おじさんは手を引っ込め、その代わりに被害女性は俺の腕を掴んで…

被害女性(映像)『この人!痴漢です!!』


駅員「このおっさんが真犯人か…!」

駅員2「にしてもこいつ、誰なんでしょうか…。まさか、さっきの電車に乗ったまま逃げちゃったんじゃ…。」

川﨑「あ、このおじさん知ってる。」

駅員2「えっ!?本当かい!?」

川﨑「だってさっき私達と一緒にどさくさに紛れて電車降りて。ほら。」

川﨑さんが指を指し、全員がその方向を見ると、まさに今、駅の改札に続く階段を降りようとしている動画のおっさんの姿。

こちらを警戒していたのか、我々とそのおっさんとでばっちり目が合う。

中年男性「ひっ…。」

駅員2「いたーー!!真犯人!!」

被害女性「待ておらーー!お前が触ってたのかーー!!」

サラリーマン「捕まえろー!」

中年男性「ひええええっ!!」

おっさんと駅員さん達の大捕物劇が始まり、俺たちはそれに取り残される。

川﨑「というわけで、この人は触ってません、無実です。」

駅員「あ、はい!無実の人を危うく痴漢で警察に突き出すところでした、本当に申し訳ありません…。」

○○「いえいえ!良いんですよ!潔白が証明できたんで!あの、俺たち、もう良いですか?登校中なんですよ。」

駅員「あ!あぁ〜!そうですよね!制服ですもんね!もう大丈夫です!お気をつけて!」

その言葉を最後にお互い会釈を交わして別れ、ホームには俺と川崎さんが残る。

再び電車が来るのは…5分後か。

○○「いやぁ、助かったよ川﨑さん。本当にありがとう。」

川﨑「ううん、気にしないで!」

○○「今度何かお礼させてよ。」

川﨑「えぇ〜そんなの良いのに〜!」



○○「あのさ、ひとつ聞いて良い?」

川﨑「うん!全然いいよ!何〜?」

○○「何で動画回してたの?」

川﨑「え…。」

○○「いや、痴漢が起こるってわかるわけじゃないし、なんで動画回してたのかなって。」

川﨑「…。」

○○「…。」

川﨑「…電車遅いねぇ、あと5分か〜。」

○○「いや誤魔化せないよ?」

川﨑「実はいつも撮ってるんだよね…○○くんのこと。」

○○「あぁなるほど、いつも撮ってるのか〜……え?いつも撮ってるの?」

川﨑「うん、いつも撮ってる。○○くんいつも同じ車両の同じ位置に来るんだもん、待ち構えやすくて。」

○○「それ、盗撮だよね…?てか何で…?」

川﨑「いやぁ…そのぉ…えと~…。」

川﨑さんは動揺からか提げていたカバンを持ち直すが、その拍子にカバンから茶封筒がポトリと落ちる。

どうやら封が開いていたらしいその封筒から零れ落ち散らばったのは…全て俺の写真。

しかも全てカメラの方を向いていない。全部盗撮写真。

友達と話しているところ、下校して家に入るところ、夏の体育の着替えで上裸になってクールシートで体を拭いているところまで撮られている…。

川﨑「はわわわわわわ…。」

焦った様子で写真を拾い集める川崎さん。

川﨑「ふぅ…。」

○○「…。」

川﨑「そういえば今日の英語ってさ~…」

○○「いやいやいや!!無理無理無理!!この流れでそれで話逸らすのは絶対無理だよ!?」

川﨑「あ、やっぱり…?」

○○「え、もしかしてさ…川崎さんって、俺のストーカーだったの?」

川﨑「え、そんなことないよ!?ただ○○くんを眺めて、写真をコレクションして、夜中にその日撮った写真を眺めて至福を感じながら眠りについてるだけだよ!精神安定剤みたいなだけ!」

○○「立派なストーカーだよ…。家ついてきてるし着替え撮られてるし…。」

川﨑「いいカラダしてるよね~、この写真を手に入れてから夜中に…あ、なんでもない。」

○○「ちょっと待って今なんて言おうとした…?」

川﨑さんはちらりと上目遣いでこちらを見る。

普段ならドキッとする女の子の仕草なのだが、今の俺には恐怖でしかない。

川﨑「…聞きたい?」

○○「ごめん、やっぱいい。」

川﨑「さっきさ、お礼してくれるって言ったよね?」

○○「え、うん…言った…。」

嫌な予感。

ストーカーに対して命令を聞く機会を与えてしまった。

川﨑「ならさ、桜の彼氏になってよ。」

○○「あ…。」

告白。

普通なら驚きもするしドキドキもした事だろう。

だが今目の前でその発言をしているのは家まで尾行し何十枚何百枚の盗撮写真を持つストーカー。

ドキドキも何もあったものではない。

どうしたものか…。

○○「ちなみに、それを断った場合は…?」

川﨑さんはスッと前方の線路を指差す。

川﨑「2分後に私がそこでミンチになります♪」

○○「うわぁ…。」

川﨑「さぁ、どうする?」

川﨑さんは可愛い。

今も俺を見つめる上目遣いもストーカーでさえなければ十分に彼女にしたいぐらいに可愛いけども…。

○○「えぇ…。いやぁ…。」

川﨑「よし!わかった!」

彼女はクルリと前方に向き直り、線路に向かい前進し始めた。

〇〇「え、え、え、ちょ!ちょっと!」

アナウンス『間もなく電車が参ります、黄色い線の内側に下がってお待ちください…』

間一髪彼女の腕を掴む。

〇〇「ちょっと待ってって!」

川﨑「うん?付き合ってくれるの?」

〇〇「ええと…それは…。」

川﨑「残念。じゃあね。」

彼女はまた線路に歩き出そうとする。

〇〇「わかった!わかった!付き合おう!彼氏になる!なるから!ね!?だから戻ろう!?」

川﨑「ホントに?」

〇〇「うん!ホントホント!💦」

川﨑「私のこと好き?」

〇〇「もちろん!好きだとも!💦」

川﨑「はい!いただきました〜!」

〇〇「…へ?」

そう言って彼女がポケットから取り出して高々掲げたのは、スマホ。

川﨑「今の愛の告白、録音したからね♪」

〇〇「録音!?」

川﨑「これで正真正銘、私の彼氏だね?〇〇くん?」

〇〇「嘘でしょ…。」

プシュー…。

アナウンス『駆け込み乗車はおやめください…』

そのタイミングで電車が到着し、扉が開く。

が、何も情報が頭に入ってこない。

川﨑「さ、学校遅れちゃうよ?早く乗ろ?私の大好きな〇〇くん?」

〇〇「何の冗談だ、これ……。」

俺の「いつも」は、この時をもって、崩壊の音を立て始めた…。





川﨑「スキの形は人それぞれ♡」




「ストーカー」

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