「シンギュラリティな夢」 前編
20XX年。
日本は驚異的なアンドロイド技術の発展により、様々な職種にむけたアンドロイドが開発、そして普及することになった。
介護アンドロイド、医療アンドロイド、警備アンドロイド、宅配アンドロイドに小売店やレストランの店員アンドロイドまで作られた。
そしてこんにち、さらなる新たなアンドロイドがここに試験運用されようとしていた。
ここは東京の某地域。
普通の高校生、○○は朝、学校に向けて登校していた。
美空「おはよう!○○!」
○○「おはよう、美空。」
美空「ねぇねぇ、今日うちのクラスに、転校生が来るらしいよ!」
○○「へぇ、高校生になっても転校生なんて来るもんなんだね?」
美空「ねー、珍しいよね!どんな子が来るのかな!」
○○「さぁ、どんな子だろうね?」
美空「かわいい子だったら、○○はその子にぞっこんになっちゃうのかなぁ??私っていうかわいい子を差し置いて!」
○○「いや何彼女ムーブしてんの、そもそも美空は彼女じゃないでしょ。」
美空「ぶー…。」
そんな話をしながら学校に着く。
転校生はどんな人だろう。
○○もそんなことを考えていたが、まず大きな前提から間違っていたことを知ることになる。
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○○を含め、クラス全員が口をあんぐりと開けて固まっていた。
目の前では噂の転校生が担任によって紹介されている。
問題はその転校生だった。
見た目は人と何ら変わらない。
しかし、最近の社会を経てきた全員がわかっていた。
耳についたイヤホン状の機械。
目の前にいるのは、
アンドロイドだ、と。
担任「ということで、転校生の小川彩さんだ。えー…気が付いているかもしれないが、小川さんは、アンドロイドだ。」
男子「な、なんで高校にアンドロイドが?しかも生徒型の…。何の意味があるんですか?」
担任「高校生型アンドロイドは大きく意味があるんだ。
高校生に実態を見るためにいかにもなカメラをそこら中に設置していると、気持ち悪いしみんな警戒して通常の生活ができなくなっちゃうだろ?だから、生徒に交じって生活させて、現代の高校生の実態を生徒目線で見たり、今の高校生のカリキュラムを分析して、改善について研究する資料にするんだ。」
その解説にクラスは「へぇ~」と納得する。
担任「それに小川さんはいわゆる試作品のCPU、いわば機械の脳が使われていてな。高校生の多感な感情を学習して、自分のAIを強化していくんだ。」
彩「皆さん、こんにちは。今日からこのクラスでお世話になります、アンドロイドの、小川彩です。よろしくお願いします。」
彩は丁寧にあいさつする。
所作は人間と何ら変わらない。
○○「…。」
その時、彩がちらりと○○の方を見た。
○○と目が合う。
その時、彩は○○にニコッと微笑んだ。
○○「!」ドキッ
担任「まぁ、アンドロイドとはいえ、クラスメイトなのには変わりない、みんな、仲良くするように。」
「「はーい」」
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女子「小川さん!あーやってよんでいい?」
彩「あーや、それは私の名前ですか?」
女子2「いいね!ニックネーム!」
女子「よろしく!あーや!」
彩「あーや、わかりました。私の呼び名としてインプットいたします。」
女子「あーや固すぎ!面白いけどさ!」
美空「さっそく人気者だね、アンドロイドの彩ちゃん。」
○○「…。」
美空「○○?」
○○「ん、え?」
美空「どうしたの?大丈夫?」
○○「あ、あぁ、平気平気。」
美空「○○も気になるの?彩ちゃん。」
○○「まぁ、ね。」
美空「じゃあ行こう!」
美空が○○の腕を引っ張る。
○○「え、ちょ、ちょっと!」
美空と○○は人の集まりをかき分けて彩の前に躍り出る。
彩「?」
美空「初めまして!私は一ノ瀬美空!で、こっちは幼馴染の○○!」
彩「美空さんに、○○さんですね。よろしくお願いします。」
美空「ねえねえ彩ちゃん!私たちとお友達にならない?」
〇〇「『たち』って…俺も!?」
美空「当たり前じゃん!高校生のことを知るなら、友達はいたほうがいいよ!ね!彩ちゃん!いいでしょ?」
彩「お友達…嬉しいです。よろしくお願いします。」
彩はニコッと笑った。
目の前にいるのは機械であるという偏見があるかもしれないが、とても表情が豊かだと感じられる。
○○「あ、あぁ、よろしく…。」
そんな彩の笑顔に、○○は何とも言えない心の疼きを感じていた。
担任「さぁ、一時間目は体育だ!みんな準備しろ~!」
「「はーい!」」
体育の時間。
「ランニング~」
「「あーい」」
○○「あれ?小川さんも走るの?アンドロイドなのに?」
彩「はい。消費カロリー量や、現在の気温を分析し、皆さんの安全を守る参考にします。皆さんのように疲労はしませんが。」
○○「なるほど…。」
教師「そこ!おしゃべりしない!」
○○「あっ、はい…。」
今日の授業は、陸上競技。
50m走の測定。
○○は測定係としてゴール地点でタイマーを持っている彩を見ると、より一層気合を入れる。
〇〇(小川さんが見てる…頑張ろ!)
「位置について、よーい、ドン!」
○○は勢いよく走りだす。
彩「○○さん、さっきのランニングで体力を削られているはずなのに、なぜあんなにも必死に走っているのでしょうか…?筋肉の活動量が活発です。」
そしてゴールする。
彩「おめでとうございます○○さん。○○さんの春に測定した50m走の結果を検索した結果、今回タイムが0.5秒も伸びています。」
○○「ちょ、検索したの!?恥ずかしい…。」
彩「いえ、○○さんのタイムは日本の男子高校生の平均を超えていますから。恥ずかしがることはありませんよ。」
○○「あ、あぁ、そうなんだ…。」
彩「これからもこの調子で、頑張りましょう!」
彩はまたニコッと笑って、ガッツポーズをしてくれた。
○○「お、おう…!ありがとう!」
○○はまた胸のあたりをうずかせながら答えた。
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美術の時間。
美空「彩ちゃん!こっちこっち!」
彩「こちらに参加してもよろしいのですか?」
美空「もちろん!友達でしょ!」
彩「ありがとうございます。」
その後、美術の教師から今日の課題について説明される。
彩「この作品を作ればいいのですか?」
○○「うん、そうだよ。」
彩「承知しました。分析と過程の検索を開始します。」
彩は眼を閉じて、耳のイヤホンがちかちかと点滅し始める。
○○「そこまでしなくていいよ!?教科書そのままに作る必要はないんだよ。本人の個性が出せればいいんだから。」
彩「本人の個性…ですか?」
彩は検索をやめて○○を見る。
彩「彩には個性がありません。アンドロイドですから。」
○○「あー…そっか…それは難しいね。そうだ、彩ちゃんって人のためにこうして学校に来たんでしょ?じゃあ自分のおかげで笑顔になる人たちのことを考えてみなよ!」
彩「なるほど…理解しました。やってみます。」
彩はその後、見事な芸術的な絵を完成させた。
人々が手と手を取り合いながら生きていく様子がありありと書かれながらも、どこか美的センスを感じる。
クラスメイト「わー!あーやすごーい!」
クラスメイト「すごい良い絵!私これ好き!」
美術教師「うん、人間の幸福な社会を望む様子がよく伝わるね!」
彩「ありがとうございます。上手くできていたようで嬉しいです。」
○○「やったじゃん!小川さん!すごくいい作品ができたね!」
彩「○○さんのおかげです。ありがとうございました。」
○○「いやいや、俺は何もしていないよ。彩ちゃんの個性がよく表現できた、それだけだよ。」
その時、彩がきょとんとした顔をする。
彩「個性、ですか…?私に…?」
○○「うん?どうかした?」
彩「い、いえ…。」
彩は、自分の中に、アンドロイドとして存在しないはずの、違和感を感じていた。
○○「俺もこの小川さんの作品好きだな。なんか雰囲気がいいっていうか。」
彩「好き…ですか。ありがとうございます。」
ピピピ…。
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その後数日経つと、彩はすっかりクラスに馴染んでいた。
アンドロイドであるというハンデが嘘のように、普通に、人間の転校生のようだった。
〇〇「おはよう、小川さん。」
彩「おはようございます、〇〇さん。」
美空「おはよ!あーや!」
彩「おはようございます、美空さん。」
美空「今日体育あるのかぁ…しんどいぃ…。」
彩「そんなこと言わず頑張りましょう。美空さんのソフトボールの実力は徐々に伸びていますから。」
美空「へ〜!そうなんだ!よし、美空頑張る!」
彩「ふふっ…。」
彩はまた笑った。
しかし、そんな彩を見て〇〇は少し気になった。
いつものプログラミングされてるようなニコッとした笑顔じゃなく、彩が心から笑ったように見えた。
〇〇(そんなわけ、ないか…。)
でもそれ以上に、自分はその笑顔が…。
美空「よし!今日も頑張るぞー!おー!」
彩「おー!」
「「アハハ…」」
クラスメイト達から笑いが起きる。
〇〇もそんな光景を微笑ましく見ていた。
とそこに、男子が重そうな荷物をもって教室に入ってくる。
男子「よいしょ…。」
三箱ほど段ボールを積み上げて抱えており、もはや前も見えていない。
彩はそれに気が付くと男子に駆け寄った。
彩「大丈夫ですか?手伝います。」
そういって一番上の段ボールをひょいっと持つ。
男子「あっ!それは一番重いやつ!」
男子が心配したのもつかの間、彩はそれを軽々と持ち上げた。
彩「私は女子がモデルですが、アンドロイドですので。力はありますよ!」
男子「お、おぉ…。」
女子「あーやかっこいー!」
クラスメイト達は彩に拍手を送る。
彩を交えたクラスは、そんな平和な日々を過ごしていた。
しかし、そんな彩とクラスメイト達をにらむ影。
「ちっ、アンドロイドのくせに人間のふりしてチヤホヤされやがって…。」
「機械ふぜいが調子のるなよな。」
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そこからさらに数日後のことだった。
ドン!
強い物音と共にクラス中の注目が集まる。
そこにいたのは、床にうずくまる彩と、それを見下ろすクラスの男子3人だった。
そう、男子が彩を突き飛ばしたのだ。
その光景を見て〇〇や美空、クラスメイトの女子数人が彩に駆け寄る。
美空「あーや!大丈夫!?」
彩「大丈夫です。システムに損傷はありません。」
女子「ちょっと!何であーやを突き飛ばしたりなんてしたの!」
男子「生意気なんだよ!アンドロイドのくせに!」
女子「は…?」
男子「俺たち人間に作られたただの鉄クズのくせに、人間のフリして俺たちと一緒にいることが許せない。機械は機械らしく俺たち人間様の下にいればいいんだよ!」
女子「あり得ない…!サイテー!」
男子「お前らだってそう思ってるんだろ?」
女子「そんなこと思ってない!あーやはクラスメイトだもん!」
男子「だったらお前らおかしいぞ!お前らだっていつも色んな機械を生活の中で使ってるだろ!
男子2「それが人型になった途端クラスメイトだとか機械じゃないとか、お前らの常識はどうなってんだ!?」
女子「それは…。」
男子「なぁ!わかっただろ!?そいつはクラスの仲間なんかじゃない、ただの鉄くずで、人間の道具なんだよ!」
バキィッ!!
鈍い音が響いた。
男子が床を転がる。
男子が見上げると、そこにいたのは、肩で息をしながら、額に青筋を立てた○○だった。
○○「お前今なんて言った!!!」
〇〇が大声で怒鳴る。
美空「○○!落ち着いて!」
○○はハッとしたように自分がしたことに対して冷静になる。
まるで誤作動でも起こしたかのような顔をしている。
そんな○○を見て、彩は驚いていた。
彩「○○さん…?」
彩が○○に話しかける。
○○「小川さん…大丈夫?」
彩「はい、私は大丈夫です。」
○○「よかった…。何か損傷があったらどうしようかと…。」
○○は胸をなでおろし表情が緩む。
彩「!」
そんな○○の安心した顔を見て、彩はまたもや胸の疼きを感じた。
彩(私は一体、この人に何を感じているのでしょうか…。○○さんを見ると、胸が…。これは、エラーでしょうか?)
ピピピ…。
彩「すいません。ありがとうございます。」
○○「うん…!」
そんな光景を見て、美空は心配そうに顔をしかめていた。
美空「○○…。」
「シンギュラリティの夢。」 前編 終
後編に続く。