「目が覚めたら乃木坂4期生の○○でした」 第14話
ある朝、目が覚めると女の体、しかも乃木坂4期生の17人目になっていた××(現世名:○○)。
唐突に自分の身に起こった事象を受け入れながらレッスンをこなし、ついに4期生お見立て会本番の日を迎えた。
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いよいよ迎えたお見立て会当日。
言うまでもなく、昼から当日リハがあった。
今まで幾度となく繰り返してきた練習だが、どこか重苦しい雰囲気が漂い、皆んなぎこちない様子だった。
緊張からくるものに違いなかった。
いや、普通に進みすぎて皆んな落ち着いている、という方が逆に不気味なので、当たり前ではある。
4期生達はみな、メモなどを今一度見返し、念入りに己の身振り手振りを確認する。
昨日まではちゃんとできていた事までできるか不安だと急に言い出し焦り出す者もいた。
そんな当日リハーサルも開場の約2時間前には終わり…、
マネージャー「はい、じゃあこの後はメイクだけしておいて本番まで待機しといて!」
4期生「はい!」
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××(そういえばメイクなんてした事ないな…。)
という○○の心配は杞憂に終わった。
4期生のメイクは事前に待機していたスタイリストが全員分行ってくれた。
そういえばファンだった頃にも乃木坂のメイクはセルフかスタイリストさんかで別れているということを聞いた気がする。
だがゆくゆくは全員自分だけでできるようにしなければならない、と。
××(うーん…メイクの事も勉強しなきゃだろうか…。)
××(正直メイクに使っている道具と習字の筆の区別がつかないぐらいには疎いんだが…。)
××(眉毛を描くアレは鉛筆にしか見えなくて普通に筆記に使って母親に怒られたこととかあったし…。)
などと考えているうちに…
スタイリスト「はい、これで完成かな」
スタイリスト「今日は素材としてのあなたが求められるから、メイクは軽めにしといたよ」
○○「うわぁ…。」
××(ノーメイクでさえ可愛かったのに、メイクするとここまでになるか…。)
スタイリスト「フフッ…。」
○○「?…どうかしました?」
スタイリスト「いや、自分の顔に見惚れてる人って珍しいなぁって…笑」
○○「あっ…。」
途端に顔を伏せてしまう。
言われてみれば絵面的にはそうだ。
××(ホントは俺の顔じゃないけどな…。)
××(いや、今は俺の顔か…。)
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日が傾きかけてきた頃。
武道館周りには徐々に人だかりができ始めた。
そして、大きく掲げられた「乃木坂46 4期生 お見立て会」の看板。
矢久保、柴田、○○の3人は自分達のことがバレない程度に少し遠くの物陰からその様子を見る。
柴田「うわぁ、凄い人だかり…。」
○○「ほんとに。あんな数の人があんな集まってるの見たことないよ」
矢久保「あれ、全部私達のお見立て会見にきてくれた人かな?」
柴田「そうじゃない?」
○○「平日の夜だっていうのに、意外と暇な人が多いんだな…。」
矢久保「こら、滅多なこと言うもんじゃないよ!」
柴田「きっとお仕事早く終わらせたり、学校お休みして来てくれたりしてるんだよ」
○○「ごめん、失言だった…。」
○○「でも、それだけ期待されてるんだよね…。おれ、私達…。」
その言葉に二人は顔をこわばらせた後、もう一度会場前の人だかりを見る。
横で矢久保がゴクリと喉を鳴らすのが聞こえた。
○○「…頑張ろう」
柴田・矢久保「うん!」
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更に時刻は過ぎ、開場後の武道館に人が流れ込み始め、その座席はみるみる埋まっていく。
一方、舞台裏。
田村「え、私がまとめるの!?」
掛橋「だって真佑ちゃん最年長だし…。」
田村「えーっと…今日が私達のデビューを飾る舞台です!」
田村「練習の成果を発揮して、気合い入れていきましょう!」
「うん!」「はい!」
田村「えっと、じゃあ円陣を!」
4期生「のー!ぎゅっ!ぎゅっ!せーの!努力!感謝!笑顔!うちらは乃木坂上り坂!46!」
最初の円陣は全く揃わなかった。
手を挙げるタイミングも掛け声も全くバラバラ。
金川「バラバラ笑」
賀喜「まあまぁ、初めてだから笑」
マネージャー「さぁ、行っておいで!」
4期生「はい!」
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時間だ。
暗転。BGM。
そして高橋大輔アナウンサーの導入演説。
高橋「大変長らくお待たせいたしました!乃木坂46、4期生の、入場です!」
高橋「まずは、埼玉県出身、20歳の、田村真佑!」
最初の田村真佑が呼ばれたのを皮切りに、徐々にメンバーが舞台に上がっていく。
緊張と、こういった舞台が初めてというのもあり、入場後の決めポーズや可愛いポーズがぎこちない。
そういった点も、初々しさがあってファンを喜ばせていた。
早川はもう入場前から泣いていた。
早川「グスッ…うぅっ…。」
○○「大丈夫、大丈夫。せーらなら出来るよ」
高橋「…の、早川聖来!」
早川「…行ってくる…!」
涙を堪えながら、早川は笑顔を作ってポーズを決め、舞台に上がった。
と、早川を励まして送り出したはいいが、○○も多いに緊張していた。
本当はもう少しマシな語彙で早川を励ましたかったが、緊張からまともに言葉が浮かんで来なかったのである。
金川、遠藤、賀喜、北川が呼ばれ、年齢順的に、彼女らと同い年である○○の番になる。
高橋「続いては、東京都出身、17才、○○ ○○!」
××(フー…よし!)
○○が舞台に上がる。
西野七瀬さんから貰った衣装を身に纏って。
今自分はどんな表情をしているだろうか。
死んだ顔になってないだろうか。笑えているだろうか。
○○は一礼すると、自分のことを一手に見つめるファン達、そして彼らが掲げるサイリウムを見渡し、最後に顔の横で両手でピースを決めた。
会場から歓声が起こる。
××(流石にまだ可愛いポーズみたいなのはできない…。)
○○は定位置についた後、改めて客席を見渡す。
色とりどりのサイリウム、そしてスケッチブック、うちわ…。
××(うわぁ…綺麗…。)
××(これが…乃木坂の皆がいつも見ていた景色…。)
××(俺が、あの世界で泣くほど羨んで求めていたもの…。)
スケッチブックやうちわには「ズッキュンして」「パンチして」などお決まりの文句が書かれていた。
そして、その中の一つに「○○ちゃん」と大きく書かれたうちわを見つけた。
××(○○推しの人…。)
××(まぁそりゃ、いないわけないか…。)
あの人は自分がいない世界では誰推しだったのだろうか。
あの人の元々の推しだった誰かには悪いことをした。
そんなことを考えながら、後のメンバーの入場を見聞きしていた。
その後もメンバーの入場が続き…
高橋「以上、『12名』、全員が登壇いたしました!」
××(『12名』ね…。)
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高橋「ではまずは、各4期生達による、自己PRをしていただきましょう!」
自己PRのパートが始まり、それぞれが事前に掲げた特技やアピールポイントを披露していく。
田村真佑はバッティング、早川はバレエ、金川はバスケでシュートを一発で成功させ、などなど…。
そしていよいよ、○○の番。
○○「はい!○○ ○○です!えー、私は、アクロバットが得意なので、その技の一つである、後方伸身宙返り4回捻りを披露したいと思います!」
会場からどよめきが上がる。
○○は一度深呼吸をする。
○○「いきます!」
○○は走り出し、勢いよく回転する。そのまま空中でクルクルと回り…着地。
グギッ!!
足から異質な音がした。そして、鋭い痛み。
××(ッ…!?)
○○の顔が苦痛に歪む。
しかし、何とか体勢を崩すことなく着地した○○。
○○「…成功です!ありがとうございましたー!」
会場から感嘆の声や歓声、そして大きな拍手が起こる。
そのまま定位置に戻る○○。
しかし、左足から鋭い痛み、そして、歩いている時の感覚が鈍い。
掛橋「ミラージュ〜♪」
○○はなんとか表情を保ち、残りのメンバーが特技を披露する様子を笑顔で見守るが、その間、足の痛みが引くことはなかった。
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高橋「お待たせいたしました!続いては、彼女達にとって、初めての、ライブパフォーマンスです!」
そのアナウンスと共に制服を身に纏った状態で入場する4期生達。
そして流れる「ぐるぐるカーテン」のイントロ。
『カーテンの中そよ風と花の香りと』
清宮レイをセンターに、初々しくもしっかりとしたパフォーマンスを披露していく。
途中の間奏。
4期生「ハイ!ハイ!」
掛け声と共にスキップ風のステップを踏んで移動する4期生達。
ズキン!ズキン!
足に痛みが走る。
○○「っ…!」
だがここでうずくまるわけにはいかない。
だってこれが○○のデビュー舞台なんだから。
××(リズムを乱すな…!笑顔を崩すな…!)
その後、即座に「制服のマネキン」のパフォーマンスへと移る。
センターは柴田柚菜。
しっかりとしたキメ顔は加入当初から既に完成していた。
サビに差し掛かると、サビの振り付けのステップは○○の脚に大きな負荷となった。
『恋をするのはいけないことか 僕の両手に飛び込めよ』
ズキン!ズキン!ズキンッ!!
××(やりとげろ…。××…!○○として…!)
その後の「インフルエンサー」は脚よりも手の動きが多い振り付けであったため、何とか他の2曲よりは負荷をかけることなく終わることができた。
さすが、メンバー達が一番苦労したと豪語する曲。
あんなにも練習したのに、ダンスのキレは先輩達のそれには遠く及ばなかった。
センターは遠藤さくら。
自己PRや練習中のふわっとした雰囲気が嘘のように美しく貫禄のあるキメ顔でパフォーマンスをこなしてみせた。
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ライブが終わり、高橋アナウンサーが4期生の何人かに感想を聞いていく。
高橋「では次は…○○ ○○さん!本日はいかがでしたか?」
○○「あ…はい!えっと、かなり緊張したんですけど、今日のために練習した成果をしっかりと発揮出来たと思います!これからも、乃木坂として責任を持って活動していきます!」
会場から拍手と歓声が起こる。
高橋「初舞台とは思えないですね、大人びたしっかりとしたコメント、ありがとうございました!」
××(そりゃ、元々歳は20歳ぐらいだしな…。)
高橋「それでは、お見立て会はこれにて終了となります!皆さんありがとうございました!」
その言葉を合図に、4期生たちは目を泳がせながらもステージの真ん中の出入り口から捌けていく。時折振り向いてはファンに手を振りながら。
○○も手を振りながら笑顔で捌けていく。
こうして、4期生12名でのお見立て会は幕を閉じた。
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舞台裏に帰ると、早川が歩きながら声を上げて泣いていた。
その周りを4期生達が囲む。
早川「間違えちゃった…間違えちゃった…。」
どうやらダンスを一部間違えたらしい。
××(そうだ、ドキュメンタリー映画で見たことがある…確かにせーらはお見立て会の後ダンスを間違えたと泣く場面があった…。)
4期生達はみんなで早川に励ましの言葉をかけていた。
もちろん、○○も。
××(…元ファンとして、せーらの努力を側で見てきた身として、これ以上見ていられない)
矢久保「大丈夫だよ!ここでせーらが失敗したとしても、それを許せないって思うほどファンの人たちは酷い人たちじゃないよ?」
田村「だって今日がデビューで凄く緊張だってしてたんだよ?失敗の一つや二つ仕方ないよ!」
○○「2人の言う通りだよ、これからデビューしていく中で失敗なんて何度もあるし、そのうちの一回が今日だっただけだよ。ダンスなんてこれから乃木坂としてやっていく中で精錬していけば良いんだよ」
○○「だからほら、元気出して?」
早川「うん…みんなありがと…。」
少しだけ早川が立ち直ったのを見届けると、○○はみんなの輪から外れ、その場を離れた。
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○○「うっ…あぁっ…。」
○○は人気のない廊下まで来ると、壁にもたれかかり、引き摺るようにしてその廊下に置かれていたベンチに座り、うずくまった。
理由は言うまでもなく足の痛み。
どうやらあの時かなり捻ったらしい。
どうしたものか。
そんな風に考えていると、そこに人影が現れた。
「大丈夫…?」
○○「…悠理ちゃん」
そこにいたのは北川だった。
○○「こっちには何もないよ?お手洗いなら…」
北川「ケガ、してるんじゃない…?」
○○の顔が硬直する。
○○「…そんなことないよ、疲れたからちょっと休んでただけ。よいしょっと…」
○○は笑顔で対応し、平気な素振りを見せるように勢いよく立ち上がる。
ただでさえお見立て会の後で4期生みんなの精神面はいっぱいいっぱいだ。
○○だって同じ感情に襲われている。
そして早川のことをみんなが心配してる中で、今度は自分が怪我をしたなどとみんなに知られれば、みんなの心的負担がより重くなる。
それはどうしても避けたい。
あの子達は優しすぎるから、変に重く捉えかねない。
○○「さ、そろそろ戻ろうかな!みんなが心配するし、マネージャーさん達から話とかもあるかもだから、悠理ちゃんも…」
そう言いながら歩こうとした瞬間、また足に痛みが走り、○○はフラついてしまう。
北川はそんな○○に肩を貸すようにして腕を回してくれた。
○○「だから、大丈夫だってば」
北川「…無理しないで…。」
北川「もう…仲間なんだから…。」
小さく大人しく、しかしハッキリとした声でそう話す。
○○「悠理ちゃん…。」
○○「…ごめん」
北川「違うよ。こういう時は、謝るんじゃなくて」
○○「……ありがとう、悠理ちゃん」
北川「フフッ…どういたしまして」
彼女の声は耳に心地いい。落ち着く。
○○は北川に支えられながら歩き出す。
北川「自分は足の痛みを隠しながらせーらちゃんのこと元気付けてたんだ。優しいね」
○○「そんなことないよ。にしても、どうしてわかったの?足のこと」
北川「お見立て会の途中から歩いてる時の軸がブレてたから…。」
できるだけ違和感のないよう見せていたつもりだった。それにみんな自分のことで手一杯だったはずなのに、そんな中で彼女は他人のことを見ていたのだ。
なんて子だろう。
流石、未来で乃木坂トップクラスの頭脳の持ち主になるだけはある。
北川「これからは無理しないで、みんなを頼ってね」
北川「○ちゃんに何かあったら、ゆりも、みんなも、悲しいから…。」
○○「…うん」
空のように広い、それでいて晴れた日の陽の光のように暖かく、儚い。
そんな北川の優しさに、少しだけ触れた気がした○○だった。
××(でもごめんね、悠理ちゃん)
××(俺は、やっぱりみんなに負担をかけたくない)
××(これからは、皆んなに心配をかけないように頑張らなきゃ)
××(心配をかけず、それでいて、4期生の皆んなの笑顔が消えないよう、皆んなを支えていく光になる)
××(そのためなら俺は、どんな無理だってしてやる…。)
第14話 終
続く
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本当はお見立て会ではクイズゲームとそれの報酬であるミニ握手会があったんですって。
でもそれは映像に残ってないので、当事者しかわからないらしく…。
私もいくつかお見立て会レポートを探ったのですが、描写をするには不十分だったので、今回は省略という結論になりました…。
今後握手会回も書く予定なのですが、そこを初握手会、という設定にさせてください…。
どうかご了承を。