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「甘やかされる」

俺が勤めているのはいわゆるブラック企業。

毎日ヘトヘトになりながら仕事に励んでいる。

なぜこんなブラック企業でも頑張れるかといえば、全ては愛する恋人のため。

彼女を幸せにするためなら俺はいくらでも頑張れる。

さて、今日は仕事が早めに終わったぞ。

早めに帰ったらあいつビックリするだろうな〜。

そうだ、ケーキでも買っていってあげよう。


ガチャッ

〇〇「ただいま〜!」

あれ?あいつこんな靴持ってたっけ?

〇〇「おーい、△△〜?いないのか〜?」

ガチャッ。

△△「えっ!〇〇…どうして…!」


〇〇「ねぇ…その男、誰?」



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それから数日後。

俺は心の中にぽっかり穴が空いたようになり、それを埋め尽くすかのように仕事に没頭し、帰っては酒を飲んでいた。

そう。同棲していたアイツを追い出し、誰もいなくなったあの家に帰って。

この日もまた、仕事から帰っていた時だった。

心の中の穴はまだまだ埋まりそうもなかった俺は、今日も下を向いて一人トボトボと歩いていた。

歩いていると、すれ違った女性が振り返って声をかけてきた。

??「あれっ?〇〇くん?」

〇〇「ん?」

そこにいたのは、元中学の同級生、田村真佑だった。

〇〇「田村?もしかしてお前田村か?」

真佑「そうだよ!わ〜!久しぶり〜!」

真佑が両手で俺の手を握ってブンブン振り回して喜ぶ。

〇〇「痛い痛い…!久しぶり!変わってないな、田村は!」

真佑「そうかな?私だって少しは大人っぽくなったでしょ!」

エッヘンと言わんばかりにドヤ顔する田村。

その様子の懐かしさに思わず笑ってしまう。

真佑「え、〇〇くん、これから時間ある?」

〇〇「うん、あるよ?」

真佑「ちょっと付き合ってよ。」

真佑はグラスをクイっと煽るような仕草をした。


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ということで、2人はコンビニでお酒を買うと、真佑の家に向かった。

真佑の家はちょっとだけ良さそうなアパートの一角だった。

〇〇「ねぇ、本当にいいの?彼氏でもないのに上がっちゃって。」

真佑「〇〇くんだからいーの!」

〇〇「彼氏さんに悪いよ…。」

真佑「いないよ?彼氏なんて。笑」ガチャッ

〇〇「ご家族は?」

真佑「今はここで一人暮らしです!ささ、入って入って!」

〇〇「お、おう…お邪魔します…。」


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真佑「へぇ〜!デザイン会社!いいね〜!楽しそう!」

〇〇「そんなことないって。毎日苦悩の日々。てか、そういう田村は何の仕事してるの?」

真佑「私は事務〜!毎日作業作業で参っちゃうよ〜!」ゴクッ

〇〇「事務かぁ…確かに大変だよなぁ。そっちも苦労してんだなぁ…。」グビッ

2人は真佑の家の居間でお酒を飲みながら語らいでいた。

真佑は仕事終わりのヤケなのか酒回りが早いのか、既にテンションが上がり気味だ。

〇〇「そういえばさ、田村は何で急にこうやって宅飲みに誘ってくれたの?仕事で疲れてるだろうに。ただ同級生と会ったのが嬉しかったってだけ?」

すると真佑は先ほどのテンションが嘘のように落ち着いた顔になり、グラスをテーブルに置いた。


真佑「〇〇くんさ、何かあったでしょ?」


〇〇「えっ…。」

〇〇は突然の真佑の一言に面食らった。

○○「ど、どうして?」

真佑「○○くん、昔からわかりやすいからさ。なんとなくわかるの。さっきすれちがった時もなんか訳ありっぽい雰囲気だったし。」

○○「うん、実はちょっとね…。」

○○か今日までのことや彼女に浮気されたことをぽつぽつと話しだす。

真佑「そっか、そんなことが…。大変だったね。でも大丈夫。○○くんは何も悪くないよ。自信もって。」

そう言って真佑は○○の頭をポンポンと撫でた。

それをされた○○は、学生時代の記憶がフラッシュバックした。



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中学の頃、○○は成長が遅く、大人の今より背が低かった。

当時は真佑の方が身長が高かったのだ。

そのせいか、○○は真佑からからかわれることが多かった。

本人曰く、「弟みたいでかわいいから!」とのことだったが。

そのころにされていたのが頭をなでることだった。


真佑「○○くん!テスト何点だった~!?」

○○「ふふん!今回は俺頑張ったもんね!じゃーん!92点!」

真佑「すごーい!よく頑張ったねぇ~!」ヾ(・ω・*)なでなで

○○「んもぅ~!またそうやって子供扱いする~!」

真佑「だって可愛くって~!」

真佑(本当に可愛くて愛おしくて好きだもん…!)



○○「はぁ…。」

真佑「○○くんっ。」

○○「田村。」

真佑「こんなところでため息なんてついて。何かあったの?」

○○「最近美術部の部活がうまくいかなくて。俺もうダメなのかなって…。」

真佑「ううん、そんなことないよ。○○くんはいつも頑張ってるよ。毎日夜遅くまで残って頑張って絵を描いてるの知ってるよ。私はいつも見てるし応援してる。○○くんは偉いよ。」

そういって真佑はまた真佑はいつものように○○の頭をポンポンと撫でた。

○○は少し照れ臭くなりながらも、真佑の言葉が嬉しく、顔を赤らめながら

「うん…!ありがとう田村!俺、もう少し頑張って見る!」

と笑った。

真佑も満足そうに

真佑「うん!それでこそ○○だよ!」

真佑(私はそういうところが…好き!)

と満足そうに笑った。

そんな昔の記憶を、思い出した。



そして、加えて思い出したのは、大人になってからの記憶。

毎日愛する恋人のために大変な仕事を頑張ってきたこと。

お金をためて家を建てて二人で喜んだこと。

そんな愛の塊のような家が、ついこないだまで、浮気に使われていたこと。

愛する相手に、裏切られたこと。

久しぶりに感じる、人のぬくもり。ねぎらいの言葉。

○○は、いろんな記憶や感情が一気にこみあげてきて、不覚にも泣いてしまった。

○○「うっ…うぅっ…グスッ…。」

真佑「えっ…!?○○くん!?」

○○「ごめん…ごめん…でも、涙、止まらなくて…。うぅっ…。」

真佑は最初こそ驚いていたが、○○の顔を見ると、落ち着いた顔になり、今度は○○をそっと抱きしめた。

真佑「よしよし。今まで大変だったね。今までお疲れさま。本当に偉いよ。」

真佑は○○を抱きしめながら頭を撫で続けた。

○○は頭を撫でられるたび、真佑の胸に顔をうずめ、涙をぽろぽろと流した。

○○は何年かぶりに、大声をあげて泣いた。



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○○「ごめん、取り乱しちゃって…。情けないところを見せたね。」

真佑「ううん、全然。今までため込んできたものがあふれちゃったんだよね。むしろ私の前では我慢せず弱いところを見せてくれるんだなって、嬉しいよ。」

○○「なんか、頭を撫でられたら安心しちゃって…。」

真佑「あのさ、○○?」

○○「ん?」

真佑「私に、元カノさんを忘れさせる手伝いをさせてはくれないかな?」

○○「そりゃ、元カノは忘れたいけど…どうするの?」

真佑「彼女さんと別れたってことは…今は彼女いないんだよね?」

〇〇「まぁ…うん。」

真佑「私じゃダメ?」

〇〇「えっ…!?」

真佑「彼女と別れたばかりの〇〇くんにこんなこと言うのは本当は良くないってわかってるんだけどさ…!」

〇〇「いや、それは、その…。」

真佑「さっき〇〇くんが私のことを『安心できる』って言ってくれて、嬉しかったんだ…!私って〇〇くんに必要とされてるんだなって。」

〇〇「田村…。」

真佑「ううん、学生の頃から私は〇〇くんが好きだった。でも卒業して会えなくなって、想いを封印するしかないと思った。でも今日再会できてこうやって悩みを打ち明けてもらえて、頼ってもらえて、私はもう、〇〇くんに尽くすしかないと思ったの!」

〇〇「田村…ありがとう…。これから俺のこと支えてくれますか…?」

真佑「もちろん!〇〇くん…ううん、〇〇!大好き!」

真佑は勢い強く〇〇に抱きついた。

〇〇「これからよろしくね…真佑。」



〇〇「本当にありがとう、真佑。おかげで仕事、まだ少し頑張ろうと思えたよ。」

真佑「でも仕事先、辛いんでしょ?」

〇〇「まぁね、結構大変だけど、それこそ真佑を幸せにするために頑張らなきゃ。」

真佑「辞めちゃっていいよ、お仕事。」

〇〇「えっ?」

真佑「私の家って意外とお金があってね?私が一生〇〇を養ってあげる!彼氏だもん!」

〇〇「いや、それは流石に…。」

真佑「その代わり私が仕事から帰ってきたら毎日お迎えしてギューってして!」

〇〇「えぇ…。てかちょっと待って、仕事から帰ってきたらって、俺たち一緒に暮らすの?」

真佑「うん!勿論!元カノさんとの嫌な思い出がある家、全部私との思い出で塗り替えよ!……嫌だった…?」

〇〇「くぅ…。そんな言い方されたら断れないって…。」

真佑「やった〜!ありがとうっ!
でね?今日はちょっとだけ私もわがまま言ってもいい?」

〇〇「うん、何でも言って?」

すると、真佑はゆっくりと〇〇を押し倒す。

真佑「私、今日だけで〇〇が好きになりすぎて〇〇自身が欲しくなっちゃった。」

〇〇「えっ…ま、真佑?」

真佑は顔が多少赤いままだ。

もしかして、今になって酔いが回ってきた…?

真佑「これからずーっと、〇〇が元カノさんのこと忘れるまで私が慰め続けてあげるからね?」

〇〇「え?それってどういう…。」

真佑「私の慰め方、少し乱暴だけど許してね?」

〇〇「えっ…。」

真佑「心も体も全部甘々に溶かしてあげる…♡」

この日この後、何が起こったのかはあえて語るまい…。


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結局、仕事は本当に辞めてしまった。

ただ、無職にはならなかった。

在宅作業に仕事を変えた。

給料は下がってしまったが、その分勤務待遇は前の職場よりとても楽だ。

真佑は無理しなくていいと言ってくれたが、楽しんで働いてるから大丈夫だと言ったら納得してくれた。

そして、仕事の傍ら家事もある程度俺がやっている。

これも真佑が「私が全部やる!〇〇はもっと甘えていいんだよ!」と言ってくれたが…。

〇〇「仕事頑張ってる真佑に少しでも楽させてあげたいんだ、俺にも家事の手伝いをさせて?」

真佑「〇〇…!ホント優しい!大好き〜!偉いよ〜!」ナデナデ

このように真佑は事あるごとに俺の頭を撫でてくる。

完全に、甘やかされている。

そして今日も…。

ガチャッ。

〇〇「おかえり〜…。」

真佑「〇〇〜〜!!」

ギューッ!

〇〇「うわっと…!はいはい、とりあえず手洗って着替えてきな?風呂とご飯の準備してあるから。」

真佑「え〜!用意してくれたの〜!ありがとう〜!頑張ったね〇〇!偉い偉い!!」ナデナデ

これが俺たちの日常。

決して悪いことではないのですが。

なんというか、こそばゆいです。

〇〇「んん〜〜!!毎日毎日〜!!💦
子どもじゃないんだから辞めてよ…!」

真佑「だって本当に可愛くて愛おしくて〜!!毎日偉いよ〇〇〜!!」

〇〇「まぁ、悪い気はしないからいいけどさ…。」ギュッ

〇〇も真佑を抱き返す。

真佑「ああ〜!ホント可愛い!大好き!」

〇〇「うん…知ってる///」

真佑の俺に対する甘やかし生活はこれからもまだまだ続きそうです…。


〇〇「真佑も毎日仕事頑張ってて偉いよ。」ナデナデ

真佑「うっ…。なんか、すっごい照れるぅ…///」

〇〇「いつも撫でてるのに自分が撫でられるのは耐性ないんだ…。笑」



「甘やかされる」 終

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