オクジャ~愛することを諦めない
ポンジュノ監督のオクジャ観ました。
これがね、マジでね、大泣きなんですわ。
めちゃくちゃ泣いた・・・。
ネタバレしますよ!!
ストーリーはめちゃくちゃ単純。
食糧危機を救うためという名目である企業が巨大な豚をつくりだします。
そしてその子豚達を世界各国の伝統的な農業を営む農家に預けます。
そして、その中でいちばん素晴らしい豚を決めるというコンテストを10年後に開催する、と発表します。
韓国の山奥に住む少女ミジャは、オクジャと暮らしてました。
オクジャは本当に巨大な雌豚です。
賢いオクジャと4才から一緒にいるミジャにとってオクジャは祖父と同じ大切な家族です。
とても賢いオクジャとミジャは仲良く山奥で暮らしでいたのでした。
祖父にオクジャを買い取ってと頼み、オクジャはもう自分達のものになると、ミジャは安心していたのです。
ですが、オクジャを買い取ると言ったのは祖父の嘘でした。
オクジャはミジャの知らない間に連れて行かれます。
祖父はオクジャは食べられるために生まれたのだ、運命だ、と云いますが、ミジャは聞きません。
ミジャは祖父がオクジャを育てた代価で作った金の豚の像と、祖父の貯金箱のお金を持って、オクジャを取り返すために山奥からソウルへと向かいます。
ここで号泣。
ミジャは全く迷わないんですよ。
祖父を責める時間、泣いて悲しむ時間さえとらない。
ただ、オクジャを取り戻すとだけ決めてるんです。
走って走って、オクジャを探し、もう無理だとわかれば、貯金箱叩き割って金の豚を持って山奥を飛び出すんです。
ミジャはオクジャを愛してるんですよ。
もうそれだけなんですよ。
家族を連れ去られた。
だから取り戻す。
ミジャは、愛するものを諦めない。
街にたどり着いたミジャはオクジャを連れ去った会社のガラスの扉をぶち破り、走り去るトラックを追いかけて、追いかけて、
車だから追いつかないなんて思わないで
走り続け、上から屋根へ飛び移り、
トラックの荷台にしがみついてまで、オクジャを追うんです。
このアクションシーンの連続がすごい。
さすがにスタントだと思うんですが、めちゃくちゃドキドキしました。
もう、ヤバいくらいミジャ諦めない。
オクジャの名前を叫び続け、追い続ける。
ここでまた泣く。
ミジャに諦めるという選択肢がないことに。
ミジャは諦めないんです。
必死なんです。
そして、そこに意外なテロリストが。
動物愛護団体が、オクジャを奪いに来ていたのです。
動物達が(家畜)が受けている残酷な扱いを暴いて動物達を救い出したい、というのが彼らの目的だったのですが。
で、侵入の難しい企業の施設をオクジャに取り付けた機材で撮影するために、一度オクジャをまた企業に渡したい、そうミジャに彼らは説明します。
彼らの信条として、オクジャの家族であるミジャの許可なしでは出来ないから、ミジャに許可してほしいと。
その後絶対に助けるから、と。
嘘臭いまでに考え方は清らかです。
でも、結構荒事してはるけど。
まあ、「暴力は振るいたくない」はずっと言ってはるけど。
ミジャは企業に渡したくない。
オクジャと帰りたい。
そう言いますが、通訳をしたメンバーはミジャは了承したと伝えてしまいます。
計画を実行するために。
誤解したメンバー達はオクジャとミジャをの乗ったトラックを捨てて逃げてしまいます。
そうすれば、企業がオクジャを取り戻すから。
ミジャからオクジャはまた取り上げられます。
ミジャには世界のことはどうでもいいんです。
ミジャはただ、オクジャを連れて帰りたいだけ。
オクジャが殺され、喰われる運命からのがれさせたいだけ。
でも、ミジャとオクジャが引き離される動画、ミジャとオクジャが逃げる動画は世間の注目をあつめ、企業は可哀想な少女と豚を引き離したという声に責められます。
そこで企業はそれを逆手に取ろうと、ミジャとオクジャをニューヨークのコンテストの会場で再会させることにします。
オクジャに会わせてもらえるとミジャは企業に従うのですが・・・。
その頃オクジャは企業の施設で、他の巨大豚の雄と無理やり交尾させられていました。
泣き叫ぶオクジャ。
企業が動物に行う残虐行為をオクジャに仕掛けたカメラで撮影していた動物愛護団体のメンバー達もその場面を見て青ざめます。
いや、まぁ、家畜はつねにそうされているのかもしれませんが、オクジャが人間並みのIQを持っているだけにこれは・・・これは・・・
私も堪えられませんでした。
でも、そうされてるわけですよね?
家畜は?
うーんうーん。
私は苦悩してしまいました。
動物を愛する彼らはオクジャの苦痛に落ち込み、とうとうミジャの言葉を歪めて伝えたメンバーが告白します。
ミジャは「オクジャと帰りたい」と協力を断っていた、と。
リーダーは怒り、そのメンバーは殴りつけられます。
そして、団体を追い出されてしまいます。
そして、オクジャは部位ごとの肉を生きたまま少しずつ削られ、試食さえされたのでした。
絶望した目でうずぐまるオクジャ。
ここまででもう見ているこちらはミジャと同じでオクジャを愛してしまっています。
辛くて辛くてたまりません。
そして、コンテスト当日。
企業としてはここのステージでミジャとオクジャの感動の対面をさせるつもりでした。
ミジャは忍びこんできた動物愛護団体のリーダーから謝罪され、オクジャを助け出すと約束されます。
ただ、オクジャと逃げる時、絶対に後ろを振り向くな、と。
そして、オクジャとミジャはステージで再会するのですが、酷い目にあったオクジャはただ暴れるだけでした。
そして、ミジャに噛みつきさえします。
オクジャ奪還に乗り込んできたリーダーは、ミジャを助けるためにオクジャを叩こうとしますが・・・
ミジャはそれを止めました。
ミジャはオクジャに腕を噛まれたまま優しく話しかけます。
ずっとそうしてきたように。
オクジャはミジャを許します。
そして、オクジャとミジャは逃げるのですが・・・
動物愛護団体の助けも虚しく、オクジャはまた捕まってしまいます。
オクジャを虐待する映像をステージで流された企業はもう、非難の声を打ち消すことをやめます。
今度は企業は全ての巨大豚達を殺して商品にしてしまうことにします。
どんなに世間は文句を言っていても、結局「安ければ買う」と。
オクジャも殺して商品にされてしまうことになります!!
ミジャも愛護団体のリーダーも警察に捕まりそうになるのですが、そこをミジャの言葉を歪めて伝えたメンバーが助けにきたため、今度こそ、とオクジャを助けに向かうのですが・・・。
そこにいたのはオクジャそっくりの沢山の巨大豚達。
彼らはベルトコンベアーに乗せられ、殺され、血を抜かれ、カットされ、精肉にされていきます。
必死でミジャはオクジャを探します。
沢山の巨大豚の中でも、ミジャにはオクジャがわかるのです。
そしてやっと見つけたオクジャは、額に屠殺用のガンを向けられていました。
オクジャと自分の幼い頃の写真を作業員に見せて、ミジャはオクジャが殺されるのを止めたのですが、そこへ企業のCEOが警察と現れて言い放ちます。
これはただのビジネスだ、と。
彼女にミジャのオクジャへの愛など何の意味もないこどミジャは悟ります。
ミジャの愛。
オクジャへの愛。
それはミジャにとっては絶対的なものであっても、それは他の誰かには何の価値もないことをミジャは知るのです。
ミジャを動かしてきたのは愛でした。
呼吸するように、当たり前のようにある愛でした。
ミジャは知ります。
この世界には愛なく生きる者達がいるという現実を。
だから。
だから。
ミジャは黄金の豚をCEOに渡します。
オクジャを祖父がそれに変えたことに怒り狂ったミジャが、黄金の豚でオクジャを買い取ろうと。
CEOは「良い取引だ」とオクジャをミジャに渡します。
彼女には黄金の豚とオクジャは取引として成り立ったのです。
これはビジネスだから。
ミジャはオクジャを連れて帰るれるのに嬉しそうではありません。
沢山のオクジャに似た巨大豚達は、殺されるために並ばれ、工場の中でベルトコンベアで運ばれ殺され、解体されていくのです。
ミジャに救えるのはオクジャだけ。
そのためにミジャはオクジャを買ったのです。
ビジネスとして。
ミジャは愛に値段をつけたのでした。
悲しみにくれるミジャ。
足取りの重いミジャとオクジャの前に小さな子豚が飛び出してきます。
巨大豚達が電気の流れる柵を破り、小さな隙間を開け、子豚を一匹逃がしたのです。
人間並みの知能を持つ豚達の望みは明確でした。
「この子を助けて」
ミジャとオクジャはその子豚をオクジャの口の中に隠し、つれだしたのでした。
ミジャとオクジャ、そして子豚は山奥で静かに安らかに暮らしてます。
オクジャは何かをミジャに囁き、ミジャは微笑みます。
ミジャの微笑みはただ、穏やかでした。
ミジャは愛を取り戻しました。
オクジャはここにいる。
いるんです。
それは、とても幸せなことでした。
おしまい
これね、ミジャはオクジャを救うためにビジネスに屈したととらえることもできるんですが、私は違うと思います。
愛を知らない人に愛を説いても仕方ないからです。
ミジャは良くオクジャに囁くし、オクジャもミジャに囁くんです。
何を言っているのかは解らないんですがね、でも、オクジャとミジャが愛しあっていることだけはわかるんですよ。
話している言葉の意味がなくても。
でも、世界にはそれが分からない人がいる。
「話している言葉の意味がわからなれば何の意味もないじゃないか」
みたいな人達が。
意味や結果だけしか見えない人達がいるんです。
その人達にはオクジャとミジャが話していることは理解出来ても、その意味がわからない。
豚に話しかける人。
人に向かって鳴く豚。
そうとしか。
せいぜい理解できるとしたら何を豚に言ったのか、位のこと。
例えたわいない「おはよう」の言葉だったとしても、そこに言葉を超えた愛があるのを知ることは出来ないのです。
金額と数量と意味。
損と得。
強いか弱いか。
そこでしか生きていけない人間に「愛」を示してもわかるわけがない。
だからミジャは諦めたし、だからこそその人達にわかるもので取引をしたのです。
彼らに出来るのは取引だけだから。
可哀想な存在だから。
わかる言葉を使ってあげたのです。
彼らにはないんです。
ミジャとオクジャの間に流れる優しい時間も、意味を超える言葉も、互いの命よりも大事だと思う想いも。
ミジャは確かに沢山の巨大豚達を救えなかった。
でも、ミジャは自分の愛だけは諦めなかった。
きっといつか別れはくる。
誰かに引き離されないとしても、
死は誰にでも訪れるから。
オクジャはどれほど生きるのかわかりませんが。
でも、ミジャは知るはずです。
死でさえ、愛を奪えないことに。
死さえ恐れない。
言葉の意味さえ超える。
ミジャは愛することを諦めなかった。
愛するものを諦めなかった。
ストーリーはよくありがちなんですが、とにかくミジャの真っ直ぐさに心を揺さぶれるんですよ。
当たり前のようにミジャには愛がある。
疑うことさえなく愛がある。
迷うことなく愛がある、
それは手放してはいけないものだから。
意味や命を超えるものだから。
ポンジュノ監督の映画ではいちばん好きかもしれません