◆ニンジャスレイヤーTRPG番外編「フラグメント・オブ・オーディナリー・ニンジャズ・メモリー」
この記事はニンジャスレイヤーTRPGの小説になります。
現行卓である「ア・ヒキャク・レイド・オン・ニンジャズ・ハウス」、またその後の幕間話となる「ヒキャク・デリバリー・サービス・トゥ・ヤクザクラン」のさらに少し後を、オーガ視点で描いたものになります。
◆登場人物◆
◆オーガ◆ (ニンジャ/マグロ団/ソウカイヤ) PL:じょーかー
カラテ 5(5) 体力 5
ニューロン5(6) 精神力 5
ワザマエ 5(5) 脚力 3(4)
ジツ 2(2) ジツ名 ヘンゲ・ヨーカイ・ジツ
()内はサイバネ適応後の数値
◇装備
▶▶スカーレット・ヒキャク+(回避ダイス+1、脚力+1、側転難易度-1)
▶生体LAN端子(ニューロン判定ダイス+1、ハッキング+2)
◇プロフィールやメモ:
オニ・ニンジャクランのソウル憑依者。赤い髪の毛に紅色のヒキャクがトレードマーク。
オニ・ヘンゲ・ジツを使いカラテで障害を粉砕して突破する。
脚につけた紅色のヒキャクはオーガが独自に改造を施した品で、
心底大切にしている。基本的に何も考えておらず、楽しければそれでいいとしている。
スピード集団「ロケットマグロジェット団」所属。
◆◆◆
「さーて、予定外とはいえ一仕事終えたシ、スシだスシ!」ツチノコ・ストリートを数ブロック進んだ先、タマムシ・ディストリクトの寂れた商店街の中、紅色のヒキャクにネオンライトを受けながらオーガは品定めをしていた。仕事を終えた後のスシは五臓六腑に染み渡る。本来であれば、アラスカデストラクターが彼らのアジトにいて、彼女が作る極上の食事を楽しみにしながら寄り道せず帰路につくのだが、生憎彼女はラオモト・カンより賜った旅行券を使ってオキナワへ休暇に出ている。
「おーうそこのニイチャン!なんか探しモンかぁ!」ふと、オーガに向かって一角の店から声が掛かった。「アー?なんだオッサン。スシ探してるだけだゾ」「スシなら色々あるぞ、ホレ」そう言って店主と思しき男が店先のカウンターから取り出したのは、淡い赤色が美しい、引き締まったオーガニック・トロ・マグロ・スシのパックであった。
「オッサン、これスッゲェ良いスシじゃネェカ!お前漁師か何かナノカ?」「ヘッ、元、だな。もう引退して十数年になるよ。今はこうして、タマムシ・ディストリクトの一角で漁師時代の知り合いから魚介を安く卸してもらって、売りさばいてんのさ」
そう言って元漁師と自称した男、カラキは続けざまにタマゴ・スシとウニ・バトルシップロールのパックや香ばしそうなサーモン・スシなどのパックを取り出してはカウンターに並べていった。
「スッゲェナ!より取り見取りじゃネェカ!オッサンサイコーダナ!」「あんがとよニイチャン。だが、しかしアンタはなんでこんなところに来たんだ?こんな古ぼけて寂れた商店街なんざ、アンタみたいな若者が来るような場所じゃないと思うんだが」オーガが並べられたスシのパックに目を輝かせている間、カラキは取り出した葉巻に火をつけながら当然な疑問を投げかけた。
「アー、特にこれといった理由はナイナ。ちょうどここから少し離れた場所が今日の仕事現場だったカラ、一番近い店のある所って事でここに来た感じダ」「ほぅ、そりゃまた大変な仕事だったろうなぁ。このあたりで仕事ってっと、碌な物を聞いたことがねぇからなぁ」葉巻を燻ぶらせつつ、カラキは同情の念を示した。
「オッサンこそ、なんでこんな所で店を構えてンダ?こんだけいいスシがあるなら、もっと人が多いところに店を出せばいいじゃネェカ!絶対ハンジョーするッテ!」どのスシにしようかと迷いながら投げかけた、オーガにとっては素朴な疑問であった。
「んー、俺にとって、このタマムシ・ディストリクトは色々と思い出深い場所でな、楽しい時間を過ごしたここを離れたくないんだよ」そういってカラキは一枚の写真を取り出し、オーガに見せた。「コレハ?」
「今からだいぶ前、まだ俺が若く漁師として海に出ていた頃の写真だ」その写真の中央には、若かりし頃のカラキが、それを囲むように数人の男たちが、屈託のない笑顔で写っていた。「この写真に写ってる奴らは、全員このあたり出身でな、ガキんころからちょくちょく遊んで、バカやって、一緒に親に怒られたりしながら暮らしてたんだ」
「大人になってからは、皆で漁師として働こうってんでみんなして同じ船に乗り込んで、親父共の手伝いしながら、でけぇ魚を釣ってワイワイ騒いでたっけな」紫煙を燻らせながら昔話をするカラキの目は、どこか輝いて見えた。
◆◆◆
オーガもまた、目の前の男が突然語りだした昔話を聞きながら、少し昔の記憶を思い返していた。まだ自分がヒキャクを装着する前、ニンジャソウルが憑依する前。彼は何も変わったところの無い少年だった。強いて言えば、少しスリリングだったり速い物が好きといった、いたって普通な少年であった。
そんな彼にも当然友人達が居た。彼らはよくネオサイタマのハイウェイを走る高速バスや、電車などに乗り込んでは、目的地もなくただひたすら目まぐるしく変化する車窓の景色を楽しんでいた。それは彼ら、そしてオーガにとってこの上なく楽しく、幸せな時間であった。彼らの乗っていた列車が脱線事故を起こしてしまうまでは。
公的には事故の生き残りは数える程度。オーガもまた瀕死の重体に陥った。そんな折、神の気まぐれか、瀕死のオーガにニンジャソウルが憑依し、急激な回復を見せる。担当医師も説明ができないほどの驚異的な回復力で、オーガは意識を取り戻した。そんな彼が最初に目にしたのは、ひざ下から先がなくなった己の脚であった。そこに追い打ちをかけるかのように、彼の友人全員の死亡が、オブラートに包まれながらも伝えられた。
当然彼は初めは絶望に叩き落された。だが、内から湧いてくる活力が、そんな彼の精神を引きずり上げる。不思議と罪悪感はなかった。ただひたすらに前向きに、今を楽しく生きようと、ソウルがもたらす全能感がそう考えることを可能にしていた。
快復し、退院した彼は義足の代わりにヒキャクを装着した。病院内でたびたび時間がスローモーションに感じられ、感覚が鋭くなっていた事から以前とは別の存在になった事は知っていた。速い物に対しての興味が強くなり、リスクに対する考え方が変わっていたがために、自分のニンジャとしての瞬発力と、サイバネティクスの性能を融合させ、自分自身が速くなれば楽しいのではと考えた結果であった。
それに、彼は共に笑いあった友人たちを忘れることはなかった。不運にも列車事故で帰らぬ人となってしまった彼らを忘れてしまわないよう、一緒に撮った写真を身にまとったコートに常に忍ばせている。そうすれば、彼らを乗せて自分が速い乗り物になれるような気がするのだ。
◆◆◆
「…てなことがあってな、俺は漁師を引退したんだが、当時の伝手のおかげでこうやってここで商売ができてるってわけだ。っておい、どうした?ボーっとして」「…アァ、ワリィ。ちょっとオレも昔の事思い出してたんダ」カラキに呼ばれ我に返ったオーガは、決まりが悪そうに返事をした。
「ヤッパリ、楽しいってのは大事だよナ!オッサンもそうだったんなら、この場所に残って商売してンのも納得だゼ」「あぁ、まったくだな。ところで、アンタはスシを買いに来たんだろ?どうだ、せっかくだからウチの買っていくかい?」カウンターの角で葉巻の火を消したカラキが、おもむろにレジに向かいながら言った。
「アァ!そういえばそうだったワ!オッサンの話面白かったからすっかり忘れちまってたヨ!ハハハ!」オーガは照れ隠しに大げさに笑いながら、カウンターに陳列されたスシのパックを吟味する。「ンー、どれもウマそうだナァ…よし、じゃあこのオーガニック・トロ・マグロ・スシのパックを6個クレ!」「あいよ、毎度あり!お前さんみたいな若者がこんな所めったに来ることもねぇ、特別価格にしといてやるよ」
「オッサンフトッパラ!アリガト!またくるゼ!」「おう、また来いよ」短い別れのやり取りを済まし、オーガはカラキの店を後に仲間が待つアジトへの帰路についた。
◆◆◆
「タダイマ!今日の仕事も疲れたゼ!配達も楽じゃネェナ!」仕事着を軽く緩めながら、オーガは仲間が待つアジトへと帰宅していた。「アー…オーガ=サン、オカエリ。朝に届いてた荷物のメシは俺が皆の分もしっかり食っといたぜ!アラスカ一家は全員メシがウメェんだなァ!ギャハハ!」そう言う同居人であるサンドリヨンの周りには、相当数のタッパーが散乱している。
「アー、ア?サンドリヨン=サン全部食べちまったのカ?相変わらず暴食ダナァ!なら、お前の分のスシはもう要らないな!」オーガは先ほど購入してきたオーガニック・トロ・マグロ・スシのパックを取り出す。
「スシィ?いらねェわ。最近スシだとイマイチ刺激が足りなくてさァ!メンタイでもかけてねェと満足できねェなァ!」そう言いながらサンドリヨンは衣服のポケットを漁る「…アー、メンタイ切れてやがる。ちょっとカツアゲて来るわ。」サンドリヨンはそういうと玄関に向かっていった。
「オー、あんまド派手にやらないようにナ!また赤身の野郎が来るかもしれねぇしナ!ギャハハ!」サンドリヨンを見送ったオーガは、スシのパックを冷蔵庫にしまい込むため、アジトのキッチンへと足を運んだ。
◆◆◆
「…ハァー…」深いため息をつく彼は、サンドリヨンの最近の様子に悩みを持っていた。シルバーカラスとのイクサを終え、赤黒のニンジャに襲撃されながらも生還してからというもの、サンドリヨンの様子が変わってしまったように感じられていた。
以前のサンドリヨンなら、たとえアラスカの手料理を腹いっぱい平らげた後でも、平気な顔をしてスシやデザートを食していたが、先のミッションでラオモト・カンより賜った軍資金を使い、ヒキャクの性能を向上させてからというもの、彼女はスシに対して一切の食指を動かさず、違法薬物に浸っているようだった。
「ウーム、どうしたものカ・・・」オーガには心当たりがあった。肉体の過度なサイバネ置換や脳神経負荷は、重篤な精神障害や薬物依存を招きかねないと、以前サイバネ手術を依頼した技師に伝えられていた。おそらくサンドリヨンのそれも薬物依存だろう。
「慣れねェIRCだの使って調べては見たケド、ヤッパリ一定以上のハヤサをサイバネで出すのは体にも影響が出るって事みたいダナァ。サンドリヨン=サンもゴシューショーサマダゼ。」
オーガは深く考えて行動するのは嫌いだ。ただ、楽しくその時を過ごし、偶然にも速いもの好きの仲間と共に楽しい日常を送るのが、今現在も、ソウル憑依前も理想であった。だからこそ、表には出さないものの、サンドリヨンのこの変化には人一倍敏感に反応してしまっていた。