目が落ちた
ある日、私の目が落ちた。淀んだ雲の空を写したアスファルトに落ちた私の左目は私を見ている。
痛みはなかった。
何故なんだろう。何か悪いものでも食べたのだろうか。それとも何か目が落ちる程の悪事でも働いたのだろうか。
特に身に覚えはない。
果たして、拾うべきか、このまま救急車でも呼ぶべきなのだろうか。どちらにしろ冷静な自分に我ながら恐ろしさを感じる。
人間味が薄い気がしたので取り敢えず感謝してみてた。
今まで私の左半分の世界を見せてくれてありがとう。
そうだ、眼帯をしてみようかな、独眼竜正宗の様な、アベンジャーズのあの黒人の様な。それともかわりの眼球を入れてみるか。いやいや、まずは病院に行くべきではないだろうか。もしかするとまた左目から見た世界が返ってくるかもしれない。このままでは、私の左目は車に轢かれてしまうかもしれない。
となれば、やはり拾うべきだろう。
正直、気持ちが悪い。
ティッシュ、ハンカチ、なにか包むものはないだろうか。でもハンカチだと体液的なもので染みができてしまうかもしれない。しかし、ティッシュがくっついてしまうのもどんなものだろうか。
いやいや、考えている余裕はない。正面から母親らしき女性と手を繋いで黒いベレー帽に黄色いカバンを肩にした幼稚園生の姿がぼんやり見える。
取り敢えず私はティッシュで眼球をくるみ、ハンカチに挟みジャケットの内ポケットにそくささと眼球を仕舞った。キモい。
つづく。