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港区女子の比ではない銀座の女

はじめて『黒革の手帖』というテレビドラマをみてからもう4年ほど経つが、私はその間ずっと主人公の原口元子という女に憧れている。

原作は松本清張の小説であり、過去何度かキャストを変えてドラマ化されている。

私が一番最初に同話を知ったのは、2017年放送の武井咲さん主演のドラマによる。

そこから遡り2004年放送の米倉涼子さん主演バージョンのものを一気見し、『黒革の手帖』、そしてその主人公である原口元子に惚れ込んでしまったのだ。

原作含め、各年版で多少ストーリーは異なるのだが、ここでは2004年版のあらすじを載せておく。

銀行員・原口元子は勤務先の銀行から1億2000万円を横領する。元子は架空名義預金者のリストが記された黒革の手帖と引き換えに、銀行に横領を不問に付させることに成功する。やがて、銀座の老舗クラブ「燭台」のママ・岩村叡子のもとで銀座での生き方のイロハを学んだ元子は横領した金を元手に、銀座に「カルネ」(仏:carnet 手帖)という名のクラブを開く。

カルネには、男に捨てられ、途方にくれているところを元子が拾った、山田波子などをホステスとして加え、カルネの経営は順調な滑り出しを見せる。しかし、波子はカルネの常連客の楢林譲治と深い仲になり、楢林から金を引き出して、「カルネと同じビルに自分も店を出す」と言い出す。波子の裏切りに激怒した元子は、写しをとっておいた黒革の手帖を使って、楢林から大金をゆすりとる。そのため、楢林から波子への援助は停止され、波子の開店計画はご破算になる。

波子の放逐に成功した元子は、銀座一の名店「ロダン」が売りに出されていることを知り、ロダン買収のために、新たなターゲットを探し始める。そのころ、カルネには陰のある代議士秘書・安島富夫が顔を出すようになる。男に依存し、挙句の果てに捨てられた母の姿を見て育った元子は、どの男にも頼らず生きていこうと決意していたが、安島に惹かれて行く。

元子の噂は銀座中にとどろき、その噂を聞きつけて、総会屋の長谷川庄司もカルネに顔を出す。そこで、元子と安島が惹かれあっていることを知った長谷川は、元子に安島に近づかないよう警告する。安島への恋を忘れ、ロダン買収に邁進する元子だったが、長谷川は元子に周到な罠を仕掛けていた。

(Wikipediaより)

最初は、ただのホステスの話かと思ったが、全然違かった。

これは弱い立場ながらにのし上がっていく、いち女経営者のドラマだ。

私は元子好きをまわりに公言しているし、座右の銘を聞かれたときはよく元子の台詞を言っている。

・小さな幸せなんて欲しくない。誰よりも強くて、自由でいたいの。

・買ってもらうんじゃなくて、買えるだけのお金を手に入れればいいことよ。

・女はうかうかすると、一生誰かの犠牲になって生きていくような仕組みになってるの。

・お金に動かされるんじゃなくて、動かす側にならないと。

何故こんなにも、元子に憧れてしまうのだろうか。

強くて綺麗な女だから、といってしまえば簡単なのだが、そんなコモディティに落とし込みたくない。

それは表面的であって、本質を突いているとは思わない。

実際のところは、こうだ。

「強い野望があり、また、自分の力で実行するだけの度胸があるから。」

元子の野望とは、夜の銀座で高みに登り詰めることだ。

それは、銀座で一番格のあるお店のオーナーママとなることだった。

冴えない銀行員時代、10年働いて貯金400万円の元子。

金もコネも力もない彼女であったが、それと対照的である金と権力に塗れた男たちが渦巻く銀座という世界で、彼らを見下ろせるくらいの高みに登ることを、野望として抱いていた。

そしてその野望の実現に向かう度胸が、元子にはあった。

元子は、銀行の借名口座の斡旋につけ込み、1億2000万円もの巨額を横領。

そのお金を資本として大きく注ぎ込み、カルネという最初のクラブをオープンした。

カルネを経営している折、銀座一格のあるロダンというお店が売りに出されるという噂を聞きつけ、買収すべく、何とかして3億円を手に入れようと試みる。

ホステスがオーナーママになるとき、大抵はパトロンがバックに付いているものだ。

このドラマのなかでは、「女は本来弱いもの、男の力を借りてなんぼ」という節が多々顕れるのが印象的である。

例えば元子が1億2000万円を銀行から横領したときは、

「女ひとりでそんな大金を何に使うんだ。」
「バックに男がいるのだろう。」

と言われ、またお店をオープンした際は、

「前に働いていたクラブでパトロンを捕まえていたのね。」

などと言われていた。

しかし、元子は男に媚びることや群れることを悪徳としていた。

元子は、全てを一人で実行した。

「買ってもらうんじゃなくて、買えるだけのお金を手に入れればいいことよ。」

この台詞から、彼女の生き様が窺える。

一方で、原口元子と対照的な女が、山田波子であった。

彼女は生粋のおじさんキラーであり、愛され力に長けている。

カルネで雇われてすぐ、元子のお得意様である楢林という医者を誑し込み、パトロンにつけた。

波子はものの2ヶ月もの間に、楢林に2億ものお金を使わせた。

お店の開業や、高級マンションの購入のためである。

結果的に、波子のクラブ開業により大損害を被ると憤慨した元子は、銀行員時代の借名口座の情報をもとに楢林をゆすり、波子の店のオープンを御破算にさせた。

後の回で政界に権力を持つ会長やそのまわりを取り巻く男たちにつき、波子は元子に復讐することになるのだが、一先ず女と女の戦いを制した元子であった。

この二人の女を比べたとき、私が圧倒的に憧れるのは元子である。

10年勤めた銀行から横領し1億2000万円を手に入れ銀座に店を開いた女と、ものの2ヶ月で男に2億のお金を使わせて店を開いた女。二人の女は似ているようで、全然違う。

元子の心の声としてこのような台詞があったが、まさしく二人の女は全然違う。

私は、原口元子という女の、強い野望を抱く姿、そしてそれを一人で成し遂げようとする度胸に、至極魅せられたのであった。

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