Riverside - ID.Entity
バンドのオリジナルメンバーでありギタリストのピョートル弟の亡き後にリリースされた前作の『Wasteland』は、バンドの心臓部を失った喪失感がそのまま作風に表れたような作品で、自分自身その喪失感が辛すぎて繰り返し聴くことができなかったし、当時はレビューを書くモチベにすら至らなかったのも事実。
自分の中で、今のRiversideって「大切なもの」を2つ失ってしまったバンドだと認識してて、一つは言うまでもなくピョートル弟の喪失、そしてもう一つがオルタナティブの精神性である。というのも、今の彼らはtricotやメシュガーと同じ扱い、つまりマスロックやDjentと呼称される音楽ジャンルの存在を超えた個の概念というか、要するに今の彼らはプログレッシブ・ロックバンドではなく、その存在そのものがポリッシュ・ロックの象徴みたいな。
そんな、言わばピョートル弟への餞別としての前作から約5年ぶりとなる8thアルバム『ID.Entity』は、それこそ”Big Tech Brother”や”Post-Truth”などの曲タイトルからもわかるように、昨今のインターネット社会を支配するGAFAやTwitterを買収したテスラCEOのイーロン・マスクの顔本をメタメタにする世界観は、マリウスくんの師匠であるスティーヴン・ウィルソンの最新ソロアルバム『The Future Bites』をフォローするかのような、ある意味でオルタナティブなコンセプトとモダンなポップネスを取り込んだ作風となっている。
幕開けを飾る#1”Friend Or Foe?”からして、ユーロビジョンで優勝しそうなシンセや後期SWソロ的なモダンな打ち込みを中心に、言うなればスウェーデンのプログ・ロックバンドのA.C.Tがモダン化したようなポップチューンで、初期三部作の幽玄かう叙情的な雰囲気を踏襲したギターの旋律を聴かせる#2”Landmine Blast”など、まるでAIが人間の仕事を奪い尽くすディストピア小説さながらのボイスSEや曲のフレーズ/アレンジにもSWソロの影響が顕著だ。
しかし、前作同様にギターをはじめインスト/プロダクションが物足りないのは仕方ないとしても、初期の頃の凄みを知っている身からすると、どうしても乗り切れない作品なのも事実。それこそ、GAFA製のAIにRiverside風の曲を適当に作らせたものだと思い込みたいレベル。