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星街すいせい - Specter
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VTuber事務所ホロライブ所属の”すいちゃん”こと星街すいせいが、2021年に発表した記念すべきデビューアルバムの『Still Still Stellar』を聴いて個人的に抱いた懸念というと、(今さっき運営が上場承認された)イケイケアゲアゲな企業のわりには、Vの楽曲(コンポーザー)やトラックには全く金かけねぇ企業なのなって事だった(これはカリオペのアルバムにも同じことが言えた)。
しかし、2022年に入ると人が変わったように、4月には星街すいせいと森カリオペ(Mori Calliope)とのコラボを皮切りに、6月にはプロデューサーのTAKU INOUEと星街すいせいのコラボユニットのMidnight Grand Orchestraを立ち上げると、今年に入ってからは日本の音楽界が誇るクソダサコンテンツこと「THE FIRST TAKE」にVチューバーとしては初となるパフォーマンスを披露したりと(もちろん観てはいないが)、ようやくホロライブがVの音楽にも力を入れ始めたなってのが、ホロライブ運営その近況に対する自分なりの印象だった。
その前作に抱いた懸念や不満点を改善するように、約二年ぶりとなる2ndアルバム『Specter』の作曲陣には、ANISON SQUARE GARDENの田淵智也やYOASOBIのAyaseらの自分でも知っているようなミュージシャンを迎えており、それこそアルバムの冒頭を飾る田淵智也作曲の”灼熱にて純情(wii-wii-woo)”からして、たびたび星街すいせいと比較対象に挙げられるAdoに肉薄する、力強くパワフルな低域を強調した歌唱力の著しい高まりを如実に感じさせる。
なんだろう、前作の『Still Still Stellar』はいい曲とそうでない曲との明確な差を感じたというか多少のムラがあったが、今作は楽曲全体のアベレージの高さが際立っている印象で、例えばキタニタツヤが手がけた#2”TEMPLATE”におけるポストロック的なアプローチを効かせた、好き者の琴線に訴えるようなドラマティックな楽曲構成は目を見張るものがある。他にも、懐かしいシティポップナンバーの#4”褪せたハナミドリ”やVT系ならではのファンダムソングの#5”TRUE GIRL SHOW”、ジャジーなR&B風バラードの#7”デビュタントボール”やマスロック的なアプローチを効かせた#10”ソワレ”、そしてすいちゃんの歌唱力が十二分に堪能できるアダルティなバラードの#9”Damn Good Day”など、バラエティに富んだ曲調を時にVTアイドルとして、時にプロの歌手として変幻自在に歌い上げるすいちゃんの歌声に酔いしれること請け合い。
しかし、それ以上にアルバムの強度を高めている最たる存在であり、著しいAdo化が進行した=綺麗なAdo=オラつかないAdoと化したすいちゃんの圧倒的な歌唱力に裏打ちされた、まるですいちゃんの声帯の振動の上をスイスイ泳いでいるかのごとしスムースな歌声は、各楽曲にエゲツない強度と説得力を植え付けている。確かに、前作までは「あくまでVにしては歌が上手い」みたいな、いくらなんでも持ち上げすぎだろと思わなくもなかったが、今作を聴いた後にはもう前作が聴けなくなる可能性が生まれるくらいには、真に迫る歌声を全力で聴かせにくる。
依然、晴れて運営元のカバーが上場企業となったホロライブには「もっと金かけろ」と言いたい所だけど、次作あたりにポルカドットスティングレイの零が楽曲提供しそうな雰囲気だけはあるので、それも含めたすいちゃんの今後の展開が俄然楽しみ。正直、今のすいちゃんなら紅白歌合戦すら狙えると思う。