For Tracy Hyde - Hotel Insomnia
2023年3月のライブをもってバンド活動を終了し、解散することを発表しているフォトハイことFor Tracy Hydeのラストアルバムとなる『Hotel Insomnia』。
アルバムのオープニングを飾る#1”Undulate”からして、前作の『Ethernity』にも感じた初期椎名林檎風のオルタナ/グランジっぽい気だるさと、さしずめaikoがシューゲイザー化したようなメロディを内包した、その98年にデビューしたJ-POPシーンを代表する二大女帝のポップス要素を丸め込んで、フォトハイなりに再解釈している。
一転して、英詩で歌い上げるギタボのeurekaによるコーラスワークが光る爽やかなネオアコチューンの#2“The First Time (Is The Last Time)”、サイケデリック・ポップの側面を持つ#3”Kodiak”、知る人ぞ知るUKオルタナ/シューゲイザー姉妹バンドの2:54に肉薄する荒涼感あふれるギターをフィーチャーした#4“Lungs”、初期ラルクの代表する”flower”を彷彿とさせる#7”Friends”など、懐古的なJ-POPとシューゲイザーの邂逅というフォトハイならではのセオリーは不変のままに→
その一方で、UKのシューゲイザーレジェンドことRideのマーク・ガードナーをマスタリング・エンジニアとして迎えた本作品は、現代フランスのナポレオンことネージュ氏率いるAlcestの1stアルバムをフラッシュバックさせるピースフルなロリータ世界へと聞き手を誘う#5”Estuary”を筆頭に、そしてUKシューゲレジェンドから強くインスパイアされた#9”Sirens”は、もはやRideの存在を通り越してSlowdiveのニール・ハルステッドをゲストボーカルに迎えた、Alcestの4thアルバム『Shelter』における”Away”をフラッシュバックさせた。
アルバム全体を通して、ポップな要素と古典的なシューゲイザーをかけ合わせた問題作と名高いAlcestの『Shelter』をイメージさせる本作品は、解散するからと言って変にノスタルジーに浸るわけでもない、変に後ろ向き=内省的に感傷しない、あくまで前向き=ポジティブなテンションを終始維持している印象。それこそ、本作のハイライトを飾る#10”House Of Mirrors”では、ローファイなイントロからしてノスタルジーを促すかと思いきや、途中から夏botがケツメイシさながらのラップを披露するという、ラストアルバムにして尚も革新的な音楽的探究を止めない、その貪欲の姿勢と自由な創造性こそ、フォトハイの音楽的な魅力に直結する唯一無二のアイデンティティであると再認識する。
そもそもの話、古の時代からシューゲイザーバンドって短命のイメージだし(それを美学としているというか)、ダラダラと長く活動し続ければ続けるほどシューゲの美学からはかけ離れていくと思うので、そういった意味でもフォトハイはJ-POPとしてではなく、歴としたシューゲイザーバンドとして自らの歴史に終止符を打ち、これ以上ない理想的な最期を迎えることができたんじゃないかと。