slowthai - UGLY
UKはノーサンプトン出身のラッパー、slowthaiの約二年ぶりとなる3rdアルバム『UGLY(U Gotta Love Yourself)』は、UK発祥のグライムならではのソリッドなビートや普遍的なトラップのトラックは減退し、スロウタイの専売特許である「こんなラップありなの?!」と初見リスナーのド肝を抜いてくる規格外の音楽スタイル、そのギャップ、その魅力を裏付けていた、2ndアルバムの『TYRON』におけるオルタナ/インディに対するアプローチを著しく強調した作風となっている。逆に言えば、この内容の3rdアルバムを発表したスロウタイが、今年のサマソニ/ソニマニに出演する展開はあまりに筋が通り過ぎている。
それこそアルバムのオープニングを飾る#1”Yum”からして、ハウス系のクラブ・ミュージックやAngryでChaosな感情が込められたグリッチ/ノイズを効かせた規格外のトラックを以って、前作で喰らった衝撃を秒で超えてきたかと思えば、その#1における(Get the fuck up)のリリックに込められた、70年代/80年代のUKロックを象徴するニューウェイブ/ポスト・パンクの精神性をリバイバルする#2”Selfish”、いかにもインディらしいファンキーなギターとメルヘンチックなシンセサイザーが靡く#3”Sooner”と#4”Feel Good”、お馴染みのGrouperよろしくアンビエント・ポップ的なアレンジが光る#5”Never Again”、オルタナティブなギターのみならず曲後半のアーバンなシンセの鳴らし方がUlver並みにイケてる#6”HAPPY”や表題曲の#7”UGLY”、ポスト・パンクとともに70年代後半のイギリスで労働者階級に支持されたOi!(オイ!)パンクの#10”Wotz Funny”、冒頭のピアノのメロがFF10の主題歌「素敵だね」を想起させる#11”Tourniquet”、お馴染みの女性ボーカルを迎えたインディ・フォークの#12”25% Club”まで、オイパンやニューウェイブ~シンセパンクをはじめ、終始一貫してポスト・パンク・リバイバルを貫いている。
今年のソニマニでも共演するジェイムス・ブレイクとのコラボで味をしめたのかは露知らず、ほぼ全曲にインディーの肌触りを感じるギターと、(UGLY)だけにDirty Hit的なシンセが主張するサウンド面からも理解できるように、その楽曲も前作以上に刺激的でエモーショナルに聴かせる。それこそ、70年代後半のイギリスにおけるパンク・ロックが掲げる思想強めの精神性と内省的なセクシャリティを兼ね備えた、まさしく彼が今のUKヒップホップを背負って立つに相応しいラッパーであることを再確認させる作品です。なんだろう、スロウタイに対してラッパーとして魅力を感じるか、あるいはUKロックやインディとして魅力を感じるかによって評価が別れそうな作品ではある。
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