SARI - 大団円
瑳里の名義で以前まで所属していた某地下アイドルグループでは、ブラックメタルの死化粧であるコープスペイントさながらの白塗りをチャームポイントとした、グループの象徴的な存在として只ならぬ個性を放っていた。そんな彼女が突如としてグループからの卒業を発表すると、チャームポイントの白塗りを拭い捨てて、素顔のままのソロアーティストのSARIとして再出発を果たした。
皮肉にもアイドルグループ時代の白塗りをフラッシュバックさせる、いわゆる舞妓さんを装ったSARIのアートワークからしてアイコニックな1stアルバムの『大団円』は、日本のエレクトロニカ・ユニットのmacaroomを想起させるアート・ポップを経由したエレクトロ/シンセ・ポップ、ソフィスティ・ポップやフューチャーベース、そしてヒップ・ホップやR&Bなど、その洗練されたイマドキの打ち込み中心の神秘的かつ幻想的なトラックメイクに面食らうと同時に、在りし日の”キタノブルー”の象徴だった久石譲さながらのエクスペリメンタルなニューエイジズムを内包したノスタルジックな世界観に惹き込まれる。
ソロアーティストとしてのSARIを司るオシャンティなソフィスティ・ポップの#1”Paraiso”を皮切りに、花魁すなわち遊女の心情を謳った和式のリリックとフューチャリスティックなシンセが時空を超えて出会った#2”Milky Way”、イマドキのローファイ・ガール~ハウス・ミュージック~R&Bを経由した#3”愛のゆりかご”、macaroom meet トクマルシューゴ的なインディトロニカの#4”mawaru”、そして”キタノブルー”全盛の90年代のアーバンな雰囲気を醸しながら、人気のない渋谷のスクランブル交差点でSARIが自由に舞を踊る姿が脳裏に浮かぶ、まさに架空の渋谷系映画『東京アンダーグランド』を描き出すダンサブルなキラーチューンの#5”sari no shitaku”、そのアーバンな雰囲気のままDAOKOライクな渋谷系リバイバルの#6”tohiko”、近未来的なフューチャーベースの#7”Jeopardy”、ヒップ・ホップにおけるトラップ的なビートを効かせたトラックをはじめ、グループ時代の世界観を担っていた童謡もとい日本の伝統的な遊戯の「目隠し鬼」から引用した和製のリリックや春ねむり的なポエトリーリーディングを披露する#8”Mekakushi”、イントロから東京アンダーグラウンドの裏路地へと誘い込むヒップ・ホップならではのケミカルな雰囲気をまといながら、白い粉で顔を白塗りしたSARIなりのギャングスタ・ラップを刻む#9”VOID”、#1と対になるソフィスティ・ポップの#10”tojikome ta”まで、とにかく徹底追尾こだわり抜かれたイマドキのトラックメイクにド肝を抜かれると同時に、もはやJ-POPのNEXTステージすなわち20年代を象徴するJ-POPの新しい形ですこれ。
アイドル屈指の楽曲およびトラックメイクを誇る代代代に肉薄する、あまりにもオルタナティブなトラックを以って、グループ時代から引き継いだ耽美的(伝統的)な和の文化とZ世代が築くアーバンな近未来都市が調和した独特の世界観は唯一無二で、特に5曲目の”sari no shitaku”は一聴の価値しかない。というか、何が一番の驚きかって、複数のプロデューサーを迎えて制作された本作品、その中の一人に明日の情景のメンバーが関わってると知った時は流石にエモが過ぎた。
確かに、心より「卒業してよかった」と言うのは少し違うけど、ソロとして初のフルアルバムとなる本作の内容を鑑みれば、自分と似たような意見を持つ同士も少なくないハズ。しかし何故だろう、グループ時代を小分ながら知っている身からすると、このアルバムを聴き終えた瞬間は何故だか安堵した。嬉しさよりも先に、ただただ、安堵した。