オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第20回 豪州での有機栽培(その2:有機肥料で栽培される有機農産物は本当に安全なのか?)
今回は、有機栽培における有機肥料の使用とその安全性についてお話しします。多くの消費者が「有機農産物=安全・安心」と考える中で、その裏に潜むリスクについても触れ、皆さんの農業ビジネスに役立つ情報を提供します。
有機肥料の種類と認定
有機肥料には大きく分けて二つの種類があります:
動物性有機肥料:家畜の糞尿を発酵させたもの
植物性有機肥料:草や植物を発酵させた堆肥など
オーストラリアでは、これらどちらを使っても「有機農産物」として認定されます。
有機肥料のリスクと問題点
「有機農産物」は、化学肥料ではなく、有機肥料で育った野菜ということで、多くの消費者は「安全・安心」で尚且つ健康に良いというイメージを持っているかもしれません。しかしながら、有機栽培において、有機肥料を大量に使うことで生じる危険性や問題については、あまり知られていないのが事実です。
塩分や重金属のリスク
「動物性有機肥料」に使う家畜の糞尿には塩分や重金属などが含まれているため、生産者が科学的な知識無しに糞尿を大量に施肥すると地下水が汚染されることがあります。
窒素の過剰供給
作物の生長を促進させるためには、肥料成分に含まれる多くの窒素が必要です。「動物性有機肥料」は、化学肥料に比べて窒素含有量が明確でなく即効性に欠けるため、生産者が必要以上に大量に施肥してしまうことがあります。その結果、作物自体は肥料から大量の窒素を取り込んでしまい、これにより基準値を上回る硝酸性窒素が生長過程で生成されてしまいます(化学肥料の過剰投与でも同様のことが言える)。
このような野菜を長年食していると硝酸性窒素が人体に蓄積し、がんを始めとする病を発症する恐れがあると言われています。
病原菌のリスクと事例
有機肥料(堆肥)の原料となる家畜の糞尿には、サルモネラ菌や病原性大腸菌O157など食中毒を起こす病原菌が含まれていることがあります。堆肥を作るには、原料を数ヵ月かけてじっくりと発酵させる必要がありますが、発酵が不十分だと堆肥の温度が上がらず殺菌が不十分となり、病原菌が堆肥のなかに残ってしまうことがあります(発酵温度は50度以上必要)。
病原菌及び寄生虫の死滅温度と時間
実際にオーストラリアでは、2016年に大手スーパーマーケットで販売されていたレタスからサルモレラ菌が検出され、30人近くが菌に感染しました。
科学的な根拠に基づいた管理の重要性
有機農産物の安全基準のパラメータを測る上で大切なことは、「有機=安心・安全で健康によい」と言う単純な固定観念で判断するより、科学的な根拠や分析で有機認証された農産物であるか否か意識することではないでしょうか。
オーストラリアの有機栽培から学べること
以下の点を意識して有機栽培に取り組むことで持続可能な農業に取り組めます:
有機肥料の適切な選定と施肥量の管理:過剰施肥を避け、適切な量を施肥する。
堆肥の製造過程の厳格な管理:発酵温度と時間を厳守し、病原菌のリスクを最小限に抑える。
科学的な知識の習得と応用:最新の研究やデータに基づいた栽培方法を取り入れる。
有機農業は地球環境に優しい方法であり、その安全性と品質を守るためには、常に注意が必要です。適切な管理と科学的なアプローチで、農業をさらに発展させていきましょう。