オーストラリア農業の先進性から学ぶ! 第34回 農業版「トヨタ生産方式」(その4:農産物の在庫を最小限に減らし利益最大化を実現できる:「かんばん方式」)
農業生産における在庫管理の重要性は言うまでもありません。特に鮮度が求められる農産物では、過剰在庫や不良在庫による経済的損失は避けたいものです。そこで今回は、製造業界で有名な「トヨタ生産方式」の一つである「かんばん方式」を農業に応用し、在庫を最小限に抑え、利益の最大化を目指す方法について解説します。
「かんばん方式」の基本概念
「かんばん方式」とは、製造業界で「必要なもの」を「必要なとき」に「必要なだけ」製造するための在庫管理手法です。部品の「品名」や「数量」、「納入時間」などを記載した「かんばん」カードを使用し、下請け工場は親工場から送られたカードの情報を基に製造を行い、翌日には注文量を納入します。この方法により、余剰在庫がほとんど発生せず、不良在庫による経済的損失もほぼありません。この「かんばん方式」を農業に応用することで、鮮度が求められる農産物の管理も効率化できます。
農業版「かんばん方式」の導入
まず、①親工場を「栽培農場」、②下請け工場を「出荷先」と定義し、常に①と②の間で需給のバランスを保ちながら最小限の在庫量で運営できる生産現場を目指します。
特に収穫タイミングとオーダー量がマッチすることが望ましく、そのためにオーダー数に対応できる栽培スケジュールを事前に組むことが求められます。オーストラリアの大手取引先では、年間の取引量を予め取り決めできるため、工場生産に近い農業が実現可能になります。
ステップごとの実施方法
■実際のオーダー量、需要予測:
農業版「かんばん」方式のステップ(葉物野菜の栽培の一例:0.1ha毎の10セクション〔1ha〕で構成される圃場)
※収穫作物の栽培スケジュールや収量、品種ごとに栽培場所を区切る。
■ステップ1:オーダー量の見える化(今期分オーダー量):
出荷先のオーダー量を時期ごとに見える化させ、今期分のオーダー量を確認する。
例)出荷先Aのオーダー量は、年で10,000kg、月に1,000~4,000kg、週に100~300kg、1日では3~15kg。
■ステップ2:栽培スケジュールの設定
栽培日数合計を計算する。
例)A播種~発芽(2~5日)+B育苗~定植(10~20日)+C定植~収穫(20~30日)
※気象条件を考慮した上で年に4回収穫可能と想定する。
■ステップ3:収穫量の計算
一株の平均重量から収穫量を計算する。
・収穫量1セクションの年間合計:[0.3kg/ 株× 5 千株(0.1ha)]× 4 回収穫= 6,000kg
・収穫量全セクションの年間合計:6,000kg×10セクション=60,000kg
■ステップ4:オーダー量とのマッチング
ステップ1のオーダー量とステップ3の収穫量がマッチするか確認する。
例)A出荷先の場合、年間を通じて約2セクション分の収穫量のスペース、オーダー量10,000kgは十分確保できる。
※気象条件によるため、事前分析が必要。
■ステップ5:来期分オーダー量の調整
栽培~収穫履歴を基に来期の収穫量を予測し、出荷先とオーダー量を調整する。
収穫毎に「品目名」、「栽培日数」、「収穫日時」等をバッチコード#(※)で履歴をクラウドにデータ保存する。農主は、1シーズン終了後は、同データを基に、来期分の栽培スケジュール、収量予想をデータ分析する。同分析結果をベースに出荷先はオーダー数を決める。
※バッチコードの一例:LI1940722042024
まとめ
鮮度が求められる農産物においては、収穫タイミングとオーダー量の一致が重要です。農業生産に「かんばん方式」を導入することで、農産物の在庫を最小限に抑え、利益の最大化を実現することが可能で、工場生産に近い農業が実現が可能になるかもしれません。
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