弁護士が気ままに「半沢直樹2」を語る(第4話) 〜「グループ全体の利益」その他〜
「最初の敵はいつも自分自身だ。勝敗は時の運だが、決して自分の構えを崩すな。」
半沢の「倍返し」が決まり、第一部のクライマックスとなった第4話。第2話時点の感想では、果たして銀行に勝ったからといって半沢に未来はあるのか?とハラハラしていましたが、まさに完璧な落とし所を見つけた素晴らしいラストでした!
さて、この記事のシリーズでは、金融規制・金融取引を主な取扱い分野とする弁護士の視点から、ドラマを見ていて深堀りしたいと思った法的論点に対して気ままにコメントしておりますが、第4話については、第3話までに出てきた論点が引き続き問題になっているものが多い印象でした。ここを理解しとかないと話が楽しめないというような点は少なかったように思いますので、今回はほんとに気ままにさらっとコメントして、第1部全体の感想を記したいと思います。
例によって、外野の弁護士の立場からの気ままな感想であり、実際に法律問題を抱えている方向けの記事ではない点、原作小説も未読である点、あらかじめご了承ください。
第1 電脳電設(旧ゼネラル電設)玉置社長の特許権を取り戻せる条項について
半沢は、旧ゼネラル電設が電脳傘下になる際に玉置親子と電脳が交わした特許に関する契約書をくまなく調べ上げ、電脳が経営困難な状況になった場合に特許に関する権利を買い戻せる条項があることを発見しました。
私は特許権に関する取引は専門外ですので、こういう条項がどれくらい一般的なのかは分かりませんが、直感的には、こういういかにも後々モメそうな条項がテンプレの特許権譲渡契約書に規定されているとはとても思えません。まず「経営困難」がちゃんと定義(ex.2期連続赤字)されていないと規定の適用対象かどうかでモメますし、買い戻す前にその特許を使った商品開発や商品の販売が行われていた場合は適正な買戻価格の金額がいくらかでモメますし、また、経営困難な状況下で有望な特許権を売却させるものですのでその後実際に電脳が破産したような場合は管財人から詐害行為否認されないかといった不確定要素がある点も気になるところです。
このように、いかにもモメそうで特許権の買い手側が嫌がりそうな条項が入っているということは、玉置親子の特許権に対する強いこだわりを汲んで条項に反映させてくれた腕の良い弁護士がいて、しかもその条項を相手に飲ませられるほど玉置親子側の交渉力(バーゲニングパワー)が意外にも高かったことを意味します。玉置親子はドラマで描写された見かけによらずかなりのやり手ですね!
第2 毎度ながら東京中央銀行(渡真利)から情報漏洩
さて、特許取戻しの手段が見つかったことで、その実現可能性を高め、玉置親子の協力を取り付けるため、東京セントラル証券が総出で投資家(特許権買戻し資金の提供者)探しを行います。まさに社をあげて大っぴらに行動してしまっていますが、投資勧誘の資料作成にあたって例の如く渡真利から東京中央銀行が持っている情報の提供があったことが示唆されています。当該情報は銀行が電脳のメインバンクとして電脳の利益を図るために管理しているものですから、それを特許買戻しを巡って電脳の対立当事者となる玉置親子のために利用させることは、利益相反管理体制(証券側は金商法36条2項、銀行側は銀行法13条の3の2第1項)(詳しくは、第2話の感想−後編−ご参照)に基づく情報遮断義務に違反するはずです。毎度のことなのでもはや感覚がマヒして来ていますが(笑)。
第3 東京セントラル証券の半沢が東京中央銀行の役員会に登場
いよいよ終盤、宿敵大和田とタッグを組んだ半沢が東京中央銀行の役員会に登場します。証券に情報が漏れるとの(ごもっともな)懸念に対して、大和田が、出向しているとはいえ籍は当行にある、人事はどうにでもなるので問題ないと言い張りますが、ここは深く検討するまでもなく、そんなはずはないですよね(笑)。利益相反管理体制上は、人事権がどうあれ、利益が相反する取引を担当するそれぞれのチームのメンバーは交流が制限されているはずです。ただ、大和田も本気で問題ないと思っているわけではなく、とにかく発言させれば勝ちなので勢いで押し通そうとしているだけだと思われます。
第4 暴露される電脳の粉飾
半沢の倍返しの内容は、電脳の粉飾決算を暴き、東京中央銀行の追加融資を止め、ひいてはSpiralの買収防衛を成功させることでした。ここで電脳がどういう粉飾をしていたのかドラマでは断片的な情報しか明かされず、私も会計の専門家ではないので本当のところは不明ですが、ゼネラル電設(現電脳電設)の買収の際にゼネラル産業とグルになって売り上げの水増しを行ったということのようでしたね。
実際の価値が100億しかないゼネラル電設を、電脳が300億でゼネラル産業から買う。このままだと電脳が単純に200億損するだけなので、ゼネラル産業はあとで電脳側に200億円分の架空発注を行い、200億円を返す。これでこの200億円については、電脳もゼネラル産業もプラマイゼロになるわけですが、帳簿上は、電脳に200億円の売り上げが立つことになるのでその分が粉飾されるわけです。でもその200億は最初に余計に払ったものだから結局変わらないんじゃない?と思うかもしれませんが、あくまで300億円の会社(ゼネラル電設)を300億円で買ったことになっているので、帳簿上の電脳の資産総額は影響を受けません(資産の内容が現金から会社に変わっただけ)。したがって、最初に200億円余計に払ったことでバランスシートが悪化することはなく、純粋に200億円売り上げが増えたように見えるわけです。
第5 第一部まとめ 「グループ全体の利益」
さて、半沢の倍返しにより、むしろ銀行が救われる形になったことで、半沢も銀行への復帰を果たします。私がドラマとして完璧な落とし所と思ったのはまさにこの点です。
そもそも東京セントラル証券は東京中央銀行の子会社(おそらく100%子会社)ですので、第1話の時点では、半沢は激おこだったものの、正直、証券と銀行どっちが案件をとっても「グループ全体の利益」は変わらないじゃないかという点が気になっていました。
しかしながら、最終的には、東京セントラル証券の働きにより、Spiralからたくさんフィーがもらえるのはもちろん、東京中央銀行も電脳に対して不良債権を抱えずにすみました。
のみならず、今回東京中央銀行が既に電脳に対して注ぎ込んだ1500億円についても、実は半沢らのおかげでかなり回収できるんじゃないかと思います。というのも、通常のコーポレートローンと異なり、今回銀行が行ったようなM&Aローンでは、電脳が買収のために買い集めたSpiral株に対して銀行が担保を設定しているはずだからです。電脳はSpiral株の48%を保有するに至りましたが、このSpiral株はその後第3話時点でフォックスとの業務提携が評価されたことで高騰(1株約3万1000円から3万6000円以上に!)しています。電脳の粉飾は、間違いなく東京中央銀行と電脳との間の融資契約上の表明保証条項(融資するにあたって、電脳が銀行に対して自らの財務状況を開示して、その内容は間違いない旨を表明し、保証する旨の規定が、通常なら入っています。)に違反します。この種の融資契約なら、当該表明保証条項違反によって東京中央銀行の電脳に対する1500億円の貸金返還請求権は期限の利益を喪失し、返済期日をまたずして直ちに債権回収行動をとることができる、という内容になっているはずです。電脳は、Spiral株を市場価格よりも高値で買っていたと思いますが(特に最初の時間外取引で買った分)、それでも担保目的物のSpiral株が16%近く値上がりしていれば、1500億円のうちの相当分(あるいは全額)回収は十分に可能と思われます。
このように、半沢の狂気じみた執念によりグループ内で対立当事者同士につくというめちゃくちゃな展開になったものの、最終的には、「グループ全体の利益」に資する結果にもなった、というのが第一部の一番面白く、お話として綺麗なところだったかなと思います。
さて、第5話からは新たな闘いが始まりますね。半沢も銀行に戻り、航空会社の再建という第一部よりは地に足ついた?銀行マンらしい話になりそうな気がします。第二部も楽しみです!