見出し画像

消えた並木、VRの並木

リアルワールド:某所

あれ?なんかスッキリしてるな。

ちょっとした用事があり、滅多に行かない方面に行った。その帰り道、そういえばこの辺りには昔住んでいたんだった、と思い、折角だから寄り道でもしよう。そう思って歩いたときに、違和感を覚えた。

昔、私がここに居た時から変わらず、あまりお上品な地域ではない。なので、ボロボロになった民家が崩壊しているとか、建て替えのために何かしているとか、そういう感じでないことはわかった。なにか、あったはずの存在が消えているというような、そんな感じだった。

ちょっとだけ、と思った寄り道は思いのほか結構な時間の散歩となってしまった。昔の記憶をよみがえらせ、現在の光景と重ね合わせる。


あ、桜並木がなくなってるじゃないか。


一回気づいてしまえば、なんでこんな大きな変化をすぐにわからなかったのだろうとさえ思う。そうそう、ここには少し大きめの川がには流れていて、梅だか桜だかが並木になっていたのだった。

正直に言えば「桜並木」という語感とイメージから想像されるような雰囲気のいい、きれいな景色ではなく、ヨレヨレの樹が乱立し、全然統一感なく花が咲くせいで、一部は葉桜一部は満開、というまとまりのない感じであったことを覚えている。

今、それらは伐採されたらしい。

ついでに、というよりこちらが本命らしいのだが、その川の護岸工事が行われ、川幅を広くしてちょっとした川沿いの公園を作るために色々工事をしているようだ。

こんなところでも、いろんな手が入るものなんだなぁ

そんなことをポロッとつぶやき、立ち去った。


バーチャル:Sakura River - 桜川 -

今日はどこへ行こうか。正直に言うとこの日は少し寂しい気分だった。大体いつもログインしているフレンドは珍しくインしておらず、合流できるかと思ったヒトはプライベートに籠っており、最後に望みを託したフレンドは最近流行の長時間かかる謎解きゲームワールドで過ぎ去った夏を叩き壊している最中だった。つまるところ、VR世界に、私はまたしても一人、放り出されたのだった。

ログアウトしようかと思い、メニューを開いたが、ふと先日のことを思い出した。そうか、川と桜だ。

そうして、今、私は夜桜と川のあるワールドに居る。

画像1

VR世界内には、桜がみられるワールドはたくさんあり、季節を問わず花見が行われている。桜並木に挟まれた川を屋形船で川下りできるワールドであったり、夜桜見物ができるワールドであったりと、本当に様々な桜ワールドがある。

そういう場所に比べると、このワールドはいささかこじんまりとしたものであるかもしれない。なにせ、川はコンクリで護岸工事されているし、両端には民家がある。本当に街中の一部という感じ。

画像2

そしてそれが、かつて私が目にしていた場所にとても近い雰囲気であった。

川べりを歩く。それほど大きくないので、すぐに一周してしまう。昔のことを思いだそうとする。それほどしっかりとは思い出せない。なにか、なにかあったかな。

画像3

もう一周歩く。さらにもう一周、もう一周、何度も、ぐるぐると歩いてみた。

珍しい。

大体いつも、失った光景とVR内で再開するとき、いいようのない喪失感と、再会できた喜びで胸が熱くなり、今風な言い方でいえば、いや、もはや今風ではなくただのオタク用語ですらあるが、「エモ」を感じてしまう私にしては、特になんの感情も、感傷も生じてこなかった。

なぜだ?

なんでだろう。VR世界内で立ち止まり、考え込む。

そうすると、思い当たることがあった。あのリアルワールドの川べりは、護岸工事を施して一部を川沿いの公園にすると書いてあったっけ。

そうだ、それだ。私が慣れ親しんでいた桜と川は確かになくなってしまったが、それは単なる喪失ではなく、再生であったのだ。新しいモノが、そこには創られるのだ。

案外私は、それを肯定的にとらえていたらしい。

そうだな、確かに私が見た光景がなくなっていくのは悲しいけれども、新たな公園には、過ぎ去った青春をいつもいつも感傷とともに思いだしてしまうような、一言でいえば私のような「お年寄り」ではなくて、今、そこに青春を生きる子供たちが現れるのかもしれない。

そういう、変化を、珍しく肯定的に受け入れられたようだ。

こんなことを考えていると、反対に、自分が老いたという実感をもってしまった。

ついでに考えれば、実はVRChatを始めたのも結構昔で、多分2018年とかそのあたりだった。まぁ、当時から今のように入り浸っていたわけではないが、今や過疎ワールドになってしまった場所が昔は賑わっていたという昔日の光景を知っている程度にはやっていた。

そういえば、このワールドに来たのも、桜で有名だったあるワールドがつぶれて、その代替地を探している間に見つけたんだっけ。

改めて初期地点にもどり、ワールドを眺めると、心なしかカスミがはいったような、ノイズが入ったような、擦り切れかけのフィルム越しにこの光景をみているような気がしてきた。

画像4

リアルワールドで失った光景を探しにVR世界を巡っていたはずだが、もはや失われたVR世界をVR世界内で求めるような、そんなことをやっていたのだ。

記憶と思い出の中を迷い歩く迷子だな、これは。というより、昔の記憶を頼りに徘徊を続ける老人のようだ。

つまり

『VRChatでも「お年寄り」かぁ~』

思わず声に出していってしまったそれを、仕方なく受け止める。

よし、受け止めたぞ。じゃあ受け止めた上で今、この「お年寄り」にはなにができるだろうか。

そうだなぁ。この年寄りから若人へ、何か受け渡してみようか。珍しく、いつもはしないことをしてみるか。

新人が集まるワールドへのポータルを開く。VRChatにも、きっと新規ユーザーがたくさん増えているだろう。

今行くぞ。まだ見ぬ新規よ。願わくばずっとVRに居て、いつか私と感傷を共有してくれ。

そう思って、ポータルをくぐった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?