見出し画像

詩155/ 光の彫刻


世界で一番性能の良い
電子顕微鏡で覗けば

ウイルス達の
個々の容姿の違いは
分かるだろうか

その
個性の違いが
分かるだろうか

物憂げな表情や
人間に何かを
訴えようとする口の動き

それが分かるほど
精密に
彼らのことが見えるだろうか

違うことが
許せなかった人生

違うことが
誇らしかった人生

違うことが
悲しかった人生

違うことを
受け入れた人生

すべての人の人生を
宇宙の果てから

顕微鏡を覗くように
眺めて見てみれば

たぶん
僕らが知っている
ウイルスたちの画像のように

全く違いのない個体が
白黒の世界で
うようよしているだけだ

でも
それは正しくもあり
間違いでもある

僕らは
ウイルスでもあり
人間でもある

科学者たちが
莫迦にするような
誰も科学で捉えようとすら思わない

非論理的で
証明不可能な宇宙線が

闇の中で
痛みを伴わせて
僕らの顔と体に
微細な光の彫刻を施し

僕らを
違う一人一人として
成り立たせている

そして
その
有象無象の群の中に
君の姿を探し当てたいと

君の存在を指し示す
光の彫刻を見つけたいと

君とは違う
莫迦な僕は
いつも想っている

そして
今日も僕は

蛍光灯一つだけの
暑く薄暗い
理科準備室で

世界からも
宇宙からも
目を逸らして

プレパラートの上の
どこかにいるはずの
君の姿を特定する
光の彫刻を探すために

古びた顕微鏡を
ひたすら覗きこみ続けている














いいなと思ったら応援しよう!