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笑顔
8月に母が亡くなった。
この話はその母の通夜で起きたことです。かなり要約して話します。
その日はとにかく忙しかった。あとめっちゃ踵が痛かった。
母はなんとなくみんなから愛されている人だったと思う。ここが素晴らしいとかこういうとこが大好きだったとかは出てこないけど。その証拠と言ってはなんだが約250人くらいの人が通夜に来てくれた。葬式場の人が先生とかではない一般人としては異例なことだと仰っていた。
父もたくさんの人が来るのを見越して広い場所を借りて、宗教行事的なのは一切行わずみんなで話すタイプの通夜にしていた。お母さんも最後にたくさんの人に囲まれて幸せだったと思う。来てくれた人ありがとね。
凄いスピードで1日が進み午後11時頃、疲れ切った父のスマホに1件のラインが入った。
僕が知っている父親の友達の中で一番面白いHさんからのラインだった。
ラインによるとHさんが夜中の1時半頃に来るらしい。この時点でもう面白い。社会人は1時半に来ないだろ普通。
Hさんのプロフィールについて簡単に書いておくと、父の高校の同期でおそらく46歳。奥さんとお子さんがいらっしゃるけど奥さんに呆れられて離婚するかもしれないと言っていた。あと歯がところどころない。
こんな形とはいえど数年ぶりに会えるHさんに俺はワクワクしていた。
寝る準備を終え、親族のみ宿泊できる休憩室の布団の中で待っているとHさんが葬式場にやってきた。その時下の妹(上の妹はコロナで通夜も葬式も参加できず…)は葬式場の受付にいて、父は到着を知らせるラインが来た直後に休憩室を出た。僕は 布団の中にいる=上裸 だったため服を着て少し遅れて受付に向かった。
直後、Hさんの姿を見た僕は立てなくなった。笑いすぎたからだ。そのまま30秒くらい立てなくなってしまった。
Hさんは足をクロスさせた状態で右手で股間を抑え、左手で文字を書き、受付の机にもたれかかるようにして立っていた。具体的なイメージは写真を参考にしてほしい。
冗談みたいだけど一切誇張していない。むしろ冗談であってくれ。(服装は当然私服。)
小学生でも躊躇する体勢で46歳のおじさんが字を書いている姿は堪らなく面白かった。間違いなくその日1番の笑い声が葬式場に響いていた。
![](https://assets.st-note.com/img/1700899381185-TynSCelXdo.jpg?width=1200)
笑いが収まってきたところで何故そんな体勢なのか?と尋ねたら、腹が痛くてよおと返事が返ってきた。普通腹が痛くてもその体勢にはならない。そもそも押さえている箇所が腹部じゃなくて完全にち○こなんだよな。Hさんはうんこが出なくてさあと続けた。つまり便秘による腹痛を抑えるために股間を押さえているわけだ。何も噛み合ってない気がしてならなかった。
受付での記帳を終え(香典は持ってきてくれていた。なんでそういうところはしっかりしてるんだろう。)母の遺体が眠る斎場にみんなで入った。
Hさんは母の遺体が入っている棺に左手をつき、右手で股間を押さえながら母の顔を見ていた。
ありえない。友達にとって一番大切な人の遺体の前でも股間を押さえていた。
Hさんが眠っているみたいだねぇと悲しそうな顔で言い(もちろん股間を押さえたまま。なんでその悲哀漂う表情できるんだ?と何度も思った。)、父も僕も相槌を打って話を続けた。その後は母の死因や闘病期間、お互いの近況などについて父と話していた。
印象的だったのは葬儀場に来るまでの道で眠くなってしまい、青信号なのに停まっていたという話だった。Hさんは以前花屋をやっていたのだが、経営が厳しくなり今はバイトを掛け持ちして家族を養っているらしい。忙しくて大変そうだな…と思ったけど、停車中とはいえ普通に運転中に寝てるってことじゃんと思い直し心配する気持ちが薄れた。
嬉しかったのはHさんと話している時の父が笑顔だったことだ。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっていただろうけどHさんと話している時の父は義務笑いじゃなくて心の底から笑っているように見えた。僕と同じくHさんに会った瞬間から笑っていたし、そこはHさんに感謝しようと思った。
母も笑い声が一番聞きたかっただろうし。
結局Hさんは股間を押さえたまま葬儀場を出て帰って行った。あれで運転できんのか?という心配はかなりあったが、付き合いの長い父が一切心配していなかったのでまあ大丈夫だろうと思えた。書くのが面倒で書かなかったが他にもいくつか面白い話はあった。けど、次会うのは5年後くらいでいいかなと思う人でした。ありがとうHさん。
めちゃくちゃ無責任なこと言うけど、家族の皆さんはこれからも頑張って支えてほしいな。こんな人なかなかいないから。
以上で特にオチも盛り上がりもなく母の通夜でのHさんの話は終わりです。
ずっと誰かに話したかったけどシチュエーション的に直接誰か話す内容じゃないしnoteに書きました。読んでくれてありがとう。
余談ですが僕の両親はHさんがやっていた花屋さんで出会っています。いわゆる恋のキューピット的な人なんです。Hさんがいなかったら僕も2人の妹もいなかったかも…と思うと恩人です。