コミケの新刊の思い出 または私は如何にして有名キャラを避けモブキャラの本を描くようになったか

8月の12日と13日に行われたコミックマーケット102には皆さん参加されましたか?
私はサークル側として12日に参加していたのですが、出した本のジャンルがリコリス・リコイルの中でも名前すらないほぼモブリコリスの話でした。
これに関しては友人から「君のことだし有名な人気キャラよりもサブキャラみたいなののほうが好きだからだろ」と言われ、確かにそういう面もないわけではないのですが、実際にはもうちょっと深い訳があったのです。

それにしてもそんなことを言われるなんて相当だぞ私。たきな好きは公言していたつもりだったんだがなぁ。


消えゆく3rdリコリスたち

何故ロッカーを整理するのか

以前陸上自衛隊にいたことがあるのですが、そこはやたらと整理整頓をうるさく言われるところでした。確かに自衛隊の関連施設はどこに行っても整っていて、見栄えを気にするところではあるというのは思っていたのですが、実際に入ってみたら外からは見えない隊舎のロッカーの中までも整理するよう厳しく指導されました。
それに関して新隊員の直接的な指導に当たる先輩から説明されたことには
お前が倒れたら誰がロッカーから着替えを持ってくるんだ
とのことでした。仕事の性質上、常に危険とは隣り合わせの日々ですし、有事の際には同期や先輩方が私のロッカーから荷物を取り出して家族に渡すということもあるのだろうなと深く納得した次第です。

時は流れて2022年、リコリス・リコイルが地上波で放送されました。
1週目はたきなと千束と周りの人々の様子を追うのに精一杯で、5話で車に轢かれたリコリスについても「なんかやたら作画に気合入ったモブが出てきた」程度の認識だったのですが、2週目では他のところにも目を配る余裕が出てきて「大勢いるほぼ全員が宿舎で暮らしている」「任務の性質上死ぬこともある」「そして少数の犠牲は予め組み込まれている」という点が昔の職場の記憶と重なりまして、彼女たちにそれなりの共感を覚えたのです。一応楠木司令はそれなりに組織の人員を気遣っていたようですが、それでも3rdリコリスの扱いはあまり良くないっぽいですし。

ある日突然仲間がいなくなるかもしれないし、その状況は教えてもらえないかもしれない。ただいなくなったことだけは事実で、受け入れようと受け入れまいと持ち主のいなくなった物品をまとめる必要はある。あの子達はきっと今までにそういう例をいくつも見てきたと思うのですよ。そう思ったら淡々と言葉をかわしつつ物品整理をするだけの漫画が生まれました。

孤児だったリコリスは拾われた恩からDAに忠を誓うという話もありましたけれど「誰だって最終的には仲間や家族のために戦うようになる」って自衛隊でも教わりましたし、DAについてはカットしました。デカすぎて実態が掴みづらいし。

表現についてのアレコレ

今回は本文8ページと非常に短い構成なのですが、単に新刊を2冊用意する関係上短くせざるを得なかったというものの他にも「感情移入を最小限にして淡々と読み進めてもらいたかった」というのもあります。死ぬときゃアッサリ死ぬんだよ。ドラマティックな最期なんてないんだ。ただし各々の考え方や思い出なんかをもうちょっとしっかり描いておいたら話が深くなったかなぁと思ったりもします。でもあんまり深く描き込みすぎると読む方も辛いしなぁ。バランスが難しい。

それとちょっとしたこだわりみたいなものなのですが、最後の最後までコマ枠を断ち切りまで伸ばさなかったのにもちゃんとワケがあって、コマ枠で常に囲まれているということで「DAに囚われている」ということを表現したかったのです。なので最後の写真立ての場面以外は全て原稿用紙の基本枠からはみ出さないコマ割りです。

余談も余談となりますが、私が岐阜県民ということで名前は長良川に架かっている橋の名前から取りました。鏡島大橋とか鵜飼大橋とか千鳥橋とか藍川橋とか。長良川以外だと「田中1号橋」というユニークな名前の橋もあるんですがね岐阜県。

バランスは大事?

制作企図

メインで想定していた3rdリコリス本がアッサリと暗いものに仕上がってしまったため、バランスをとるべく軽めの本で読後感をマシにしておきたい、という目的から真島主演のギャグ本が完成しました。
実際のところ「世界のバランスがDA不利に傾いたらDAに協力する」というようなことを言っていた真島がDAに協力する話は描いてみたいと思っていたのですが、ただ単に協力だけするような性格じゃないだろアイツと思いつつブルーレイを見返していたところ「DAを潰したら次はアラン機関」というようなことを言っていたので「表向きDAに協力しつつ、裏ではアラン機関を潰す計画のためにDAを使っていることにしたら無理がなくなるのでは」と思いついたところでパズルの最後のピースがはまったような感覚がしまして、そこからは割とすぐにネタがまとまりました。
こちらも本当はもうちょっと戦闘シーンとか派手に長くページを取りたかったのですが、新刊2冊分の作業量というのは、たとえそれが薄くても結構あるものでして、結局のところ戦闘は4ページとなりました。とはいえ一番最初の計画では戦闘シーンとかもなくて単に「真島率いる3rdリコリスが難しい任務をあっさり終えてきた」ということが語られる場面しかなかったのですがね。締め切り前にページ増とか普通やらないよ……頑張ったよ私……

バランスは取れた?

そしていざコミケ当日になると、皆さんが手に取っていくのは3rdリコリス本が多く、真島本の方は私の予想ほどではありませんでした。それなりに上手く描けたと思ったんだがなぁ。
思った以上にバランスというものは重視されていないのかもしれない。確かに重めの話を読んだあとに軽めの話を読んでバランスをとるということは私もそんなにやりませんね。両方に手を出してどちらも中途半端に終わった感がしますが、でもどちらも描いてみたかった話なので仕方ないんですよ。色々まともに考えられる人が同人誌なんて描くわけないんです。アレは情熱と行動力だけで生み出すものですからね。

あ、3rdリコリスの本の方は途中から完売するんじゃないかとずっとヒヤヒヤしていました。多くの方にお手にとっていただけて嬉しい限りです。そのうち委託も始まるので、会場に起こしいただけなかった方はそちらのご利用をご検討ください。

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