眞深ちゃん観察記

 皆さんこんにちは。シスプリ歴230日 (2020年10月11日現在) の新人あんちゃんです。

 シスター・プリンセスという作品は、(原作はともかく) 主人公が兄であるため兄目線で語られることが多いのですが、妹からの目線で語られることは少ないように思います。しかし妹たちも同様に物語の構成要因、と言うより妹たちがいなかったらシスター・プリンセスは成り立たないので、今回は妹たちの中でもひときわ他と異なる存在、13人目の妹にして偽妹の眞深ちゃんに注目して、アニメ版「シスター・プリンセス」を読み解いていきます。

スマン、ありゃあ嘘だった

 本当はただ単に眞深ちゃんの考察と魅力を伝えたいだけです。イヤちょっと検索してもらえればわかるんですけど、シスター・プリンセスってインターネット初期の作品なだけに熱心なファンがファンサイトを作り、それらのうちいくつかはまだ閲覧できるるんですが、アニメ1期の評価もさることながら、とりわけ眞深ちゃんに関しては殆どが否定的な反応、よくても中立的な反応で、中には結構ひどいことを書いていたりするサイトもあるんですよ。

 そりゃー待ちに待ったシスター・プリンセスのアニメが始まったと思ったら何故か13人目の妹が現れて島 (=妹たちとの共同生活) から追い出そうとしたり兄に小言を言ったり、最終的には島を出ていった兄を連れ戻しに行くという大役を背負っていたりで、終盤は他の誰よりも目立っていたから原作からの兄たちにとっては面白くないだろうけど「その感情を眞深ちゃんにぶつけるのは違うんじゃね?」というのは思わなくもないわけで。文句を言う相手が違う。脚本家に言って頂戴。そもそもアニメ本編中でも眞深ちゃんメイン回はないし、6話の演芸大会では1人だけ参加賞のペンダントの色が違うし、20話で航が選んだオルゴールの中にかたどられたのは12人の天使 (=妹たち) と中央に立つ人 (=兄) 、そして熊 (=眞深ちゃん) とプロミストアイランドの運営側からは全力で異物扱いされているし、多少なりとも本人もそのことは気にしているので、あんまり言わないであげてほしいのですよ。

「山神 眞深美」の来歴

 おそらくは兄である山神燦緒と同年齢、二卵性双生児の妹である眞深美の来歴に関して、作中では詳しいことは語られていないのでこれはもう完全に推測に頼るしか無いのですが、7話で結婚式や結婚に関するアレコレを妙に詳しく語っているところを見るに、実家は結婚式場を経営しているか、所有しているかしているのでしょう。また同じ7話ではデザインスケッチだけを元にシーツからウェディングドレスっぽいものを作り上げる常識はずれな裁縫の能力を発揮します。新品だと安くても90万円を超えるモーターパラグライダーを持っている兄がいるところを見ると、家は相当裕福で、しかし度々入る食事風景や、21話で映る集合写真で床に寝そべって写っていることからわかるように、全体的に行儀が悪いところがあるのを見ると、あまり厳しくしつけられていないように見えます。21話の時点までカビの生えたパンやカップ麺の空き容器、自作の詩集などを捨てられずにいたことから、ものに執着する性格で、感受性豊かで空想しがちな時期があったことが伺い知れます。20話でサンタさんを未だに信じていたことが発覚したり、21話で子供向けの絵本の内容に感涙すると言った、純粋な子供っぽい一面もあります。また、これらの雑な性格とは裏腹に、家族想いで責任感が強い点が23話から終盤にかけて、よりはっきりと描き出されます。兄である燦緒には、物語開始時点 (1話以前) で「ダメなやつ」と見なされており、23話ではさらに「ダメからさらにダメダメに (堕落した) 」と評されています。あんまりだ。

 これらの観察結果から考察すると、次のような来歴が浮かび上がってくるのです。

 山神家に生を受けて以来、女であることから政略結婚の道具として育てられてきたものの、本人はそれに反発、いつか自分で幸せを掴み取る日を夢見て行動を始めます。すなわち「政略結婚の相手に諦めさせるために言動をガサツにする」と言う方法で、相手に女として見られることを避けようという試みです。また同時に自らの手で幸せを勝ち取るための努力も怠りません。彼女の細やかな気配りや裁縫の能力、結婚に関する知識はこの頃に養われたものでしょう。この目論見は成功し、政略結婚の話はなかったことになります。しかしそれは同時に、山神家における眞深美の立場を危うくするものでした。政略結婚が流れた結果、多少なりとも家は好まざる影響を受けます。おそらくはその影響のほどが無視できないほど大きかったため、山神家を挙げて眞深美に対するバッシングが始まったのでしょう。それまでは仲が良かった兄、燦緒もこれに加担し、眞深美を「ダメなやつ」と見なすようになります。そしてこの頃から、家族と仲が良かった頃のものに対して執着を見せるようになり、それが波及してだんだんと色んなものが捨てられなくなっていきます。性格面でも、普段は隠しているものの子供っぽい一面があるというのは、子供の頃、家族に見放される前の楽しかった思い出がその根底にあるのでしょう。それまで品行方正に育ててきた期待を裏切り、ガサツでだらしなくなった眞深美を見た家族は、その理由を探ることなく彼女を突き放し、跡取り息子としての燦緒により大きな期待をかけるようになります。

 そうして家族の誰からも顧みられなくなった眞深美は、本人の意志を無視される形で、航の監視兼島内での工作員としての役目を与えられ、高校生活のため東京を離れられない燦緒の手によってプロミストアイランドに送り込まれるのでした。

 もしかしたら燦緒があれほど航に執着するのも、跡取り息子としての過大な期待を受け、同じような境遇である航を心の支えにしていたからなのかもしれないなぁ……

プロミストアイランドでの「眞深」

 さて、そんな眞深美が島に渡る途中の船で出会った監視対象である海神航、いかにも冴えない「トホホな人」のせいで少なくとも高校進学の未来を (間接的に) 潰されたわけで、どうあっても好意的に見られる相手ではないでしょう。しかし燦緒によっていいように操られている身上であるがゆえ、燦緒を納得させ自由を再び手にするために、言われたとおりに監視はしなければなりません。少なくとも溺れ死なせるわけにはいかないのです。海に落ちた航に対し浮き輪を投げるも、その結果は皆さんご存知のとおりです。

 航の後をつけて島中走り回ったあと、ウェルカムハウス近くの林の中で野宿していたところで届いたメールにはおそらく「ウェルカムハウス近傍に潜入し、より詳細な海神航の情報を入手し報告せよ」的なことが書いてあったのでしょう。ウェルカムハウスの隣に位置する建物に侵入しようとしたところで、向こうから調査対象である航が何故かすごい勢いで走ってきます。調査対象に見つかるわけにはいかないので何とかそれをやり過ごしたあと、気が変わったのか空き部屋がたくさんあるはずのウェルカムハウスに潜入。なんだかんだで結局見つかるのですが、航が勝手に妹の一人と勘違いしたせいで、継続してウェルカムハウス内で航を監視することができる状況に。

 問題はここからです。ウェルカムハウス内を大手を振って歩ける立場に収まることに成功したのは予想以上の成果ですが、それは薄氷の上を歩くようなもの。実際には妹ではないものの、妹の一員としてここで暮らしていくためには、他の妹たちに疑念を抱かせてはならないのです。鈴凛ちゃんの部屋にすでにロフトベッドがあったことから、この時点で眞深美=眞深ちゃんを除く妹全員の部屋には、それぞれの妹が運び込んだ荷物があると見るべきでしょう。何の荷物も運び込んでいない眞深ちゃんはすでに相当苦しい立場にいると思われますが、ここで眞深ちゃんの過去の研鑽が役に立つことになります。妹の一員として自らを認めさせるために、自らの得意分野で他の妹たちに貢献することで疑念を抱かせないようにするため、彼女が選んだのは配膳洗い物でした。3話の役割分担表によれば、実に月曜から土曜までの6日間、配膳を担当しています。流石に1週間ずっと配膳をさせるのは他の妹たちの気がとがめたのか、日曜だけは衛と四葉が配膳・洗い物の担当です。ちなみに眞深ちゃんが担当する他の家事は水曜日と土曜日の邸内掃除と、土曜日の洗濯、日曜日の風呂掃除です。16話や22話で眞深ちゃんが配膳の指示をテキパキとこなすシーンがありますが、この手際の良さと指示の的確さはおそらくこの頃から発揮されていたと思われます。

 3話と4話冒頭の時点では積極的に航に島から出ていってもらいたかった眞深ちゃんですが、4話で妹 (雛子ちゃん) のために島中走り回ってクマのぬいぐるみを探した航を見て、最終的にしばらくは島にいること、すなわち自らもしばらくは島に囚われることになる決定をした航に対し「まあいっか、これはこれで」と漏らします。これが眞深ちゃんの最初の心情の変化です。

 なぜこのような心情の変化が生まれたのか。先の来歴に関する考察で述べたように、眞深ちゃんは家族から突き放され、邪険に扱われてきた過去があると考えられます。彼女にとって兄とはたとえ困っていても救いの手を差し伸べてくれない、それどころか鬱陶しいことばかりする存在なのです。そう思っていたところに目にした航の行動はかつての記憶と同じ、家族が、兄が変わる前の、仲が良かった頃の兄妹の姿でした。このとき、眞深ちゃんはきっと「幼い子供にあたしと同じ思いをさせたくない」と思ったことでしょう。当面は積極的に航に対して直接的な行動をすることを控えることにします。まぁ放っておいても12人の妹たちのかまって攻撃で航はいっぱいいっぱいなのに変わりないのですが。5話では航の唯一の逃げ場である島外とのメールでのやり取りすら、妹たちからのメールボムで侵略されるわけですし。

 さらなる変化は6話で訪れます。ここで初めて眞深ちゃんは、航に対して直接的な干渉を始めます。しかし、それは言い渡されていた任務とは逆の方向です。妹たちからの期待から逃げちゃダメだと諭す眞深ちゃんは、このまま航に継続的な負荷をかけ続けて精神を壊そうという魂胆などはなく、純粋に「この家族を悲しませてはならない」と考えた上での忠告なのでしょう。その真意が航に伝わったかどうかはともかく、それまでは逃げてばかり (とは言ってもギリギリまで追い込まれたらそれなりに頑張る) だった航の意識の変化を促し、巻き込まれる形ではあるものの、航は演劇に参加するのです。まさに航の方から妹に一歩近寄った瞬間を、そのきっかけを作ったのは、眞深ちゃんの言葉だったことを考えると、彼女の役割は決して小さいものでは無いはずです。演劇の結果はともかく

 その後も7話でシーツをかぶった咲耶ちゃんの真意に気づかない航を叱責したりウェディングドレスをシーツから錬成したり山田の襲撃を退けたり、16話で可憐ちゃんに言い寄る山田の襲撃を退けたり、19話で他の妹たちとスケートの練習をしたり山田の襲撃を退けたりしているところを見るに、ウェルカムハウスにおける眞深ちゃんの行動原理の一つに「航と妹たちの生活を守る」というものが加わったのは明らかです。

 他の妹たちが眞深ちゃんに対して遠慮がなくなっていくのは7話以降、ウェディングドレスを作ってもらって以降と考えられます。10話でプールに沈められたり水鉄砲の的にされたりしていた頃には、もうすっかり他の妹たちとも打ち解けていたのでしょう。また眞深ちゃんのほうも9話で「たまにはカレー食おうよ」と言ったり、10話で鈴凛ちゃんの強力すぎる水鉄砲をたしなめたり、21話で体が弱く掃除に参加できない鞠絵に「いいわねあんたたち」と軽口を叩くなど、他の妹たちに対しても気安く接するようになります。

 しかし決して目立つことはしません。9話ではみんなとプールで遊ぶためにイルカのボートを用意しプール掃除を指揮、10話では水上騎馬戦で審判を買って出、12話では遭難時の食料調達を自ら行うなど、基本的に他の妹たちのサポートをすることで目立つ場に立つことを避け、かつ妹の一員としての役割を果たすことで、逆に「特に何もしていない」と言われることを避けていたのでしょう。実際ときどき人目につかないところで状況報告をしていたので「普段から特に何もしていない」と見なされたら最後、他の妹たちの誰かに「時々いなくなってるけど、何をしているの?」と追求されることを免れられません。「目立たず、サポートに徹する」のは、妹たちに不要な疑念を抱かせないためにも、また航と妹たちの生活を守るためにも合理的な選択でした。この生活を支えるのは彼女の生存戦略のひとつなのです。生存戦略といえば正体が露見することを恐れてか、部屋に他人を入れないシーンが13話と21話で描かれていましたね。

 他には17話で航に対して積極的に助言をしていたのも見逃せません。何も言わなければ気づかれることなく過ごすことができた昼休みに、わざわざ姿を見せて助言をしたのも、兄としての成長を促すための心情の表れでしょう。

眞深本人の意識の変化

 そうやって航と妹たちの生活を守っているうちに、眞深ちゃん本人の意識にも変化が生まれるようになります。その変化が顕著なのは14話でのこと。「何かしてほしいことはない?」と聞く航に対し、眞深ちゃんは総額63,960円という何とも豪気なおねだりを実行するのです。他の妹たちからは唖然とされた行為ですが、これにはそれなりの理由があるのです。他の妹たちは夏休みが終わるまでの間に航との交流を経て「兄と一緒にいられるのが幸せ」と考えるようになったのに対し、正体が露見することを恐れてそれまで積極的に航と接するのを避けてきた眞深ちゃんにとって、「兄妹間で本当に求められているもの」が何なのか、実のところ本人にもわかっていなかったのでしょう。これまでの考察でも述べたとおり、島に来るまでは実兄との交流はほとんどなかったことも合わさって、兄に甘える方法がわからなかったと考えられます。

 じゃあ何もしなければよかったかと言うと、どうやらそれも違うようです。航が全員の前で自分にしてほしいことなどを募集することを宣言し、他の妹たちもそれなりに前向きに考えていた中で、自分だけ何もしないのも逆に目立つし、何より妹として兄に甘えることが堂々とできる機会がおそらくは十数年ぶりに巡ってきたので、この機を逃すまいと張り切った結果が総額63,960円のおねだりという形となって表に出てきたのだと思います。航が兄として成長途上であるのと同様、眞深ちゃんも妹として成長途上にあるのです。

 ただし、それまでにも兄に甘えることができる機会が全く無かったわけではなく、13話では航が眞深ちゃんの宿題を手伝おうとする場面があります。ただしこのときは宿題を手伝いに来てくれる兄の存在に感動するものの、宿題を教える場所が眞深ちゃんの部屋だったため航を部屋に入れるわけにいかず、航の申し出を断って扉を閉めた眞深ちゃんの顔はどこか悲しげでした。

 その眞深ちゃんの妹としての成長が一応の完成を見るのは、22話でオルゴールを壊したことを黙っていたことを航に打ち明けた瞬間です。黙っていれば全部花穂ちゃんと四葉ちゃんの過失として処理される事件 (多分私なら黙っている) なのに、二人に責任のない部分まで責任を追わせるのは忍びないと良心がとがめたのか、自らの立場が危うくなる可能性があったにもかかわらず、実際にオルゴールを壊したのは自分だと正直に申告したことで、自らの不始末は自ら責任を取る選択をするのです。結果として航に注意されるのですが、この行動があったからこそ、眞深ちゃんが妹として完成したと言えます。

 いっぽう、与えられた任務に対する姿勢にも変化が見られます。14話で燦緒に向けた報告文の内容は「昨日特に異常なし」つまりここ最近は特に何も変わったことは報告していないことになります。航と妹たちの生活を守るために、任務を放棄し妹として生きる覚悟は、この時点で表れ始めていたのかもしれません。しかし15話で燦緒からのメールで任務の成果が出ていないことを責められると「わかってるわよー!」と反論しているあたり、おそらくは無意識下の行動で、頭ではまだ任務を継続するつもりだということがわかります。自分の任務に対する姿勢の変化に自覚が見られるようになるのは21話、年の瀬の頃です。この時点ではまだ「自分が本当にしたいこと」がわからずにいましたが、22話では妹たちの一員としての生活を前向きに楽しんでおり「さっさとこんな島出たかったはずなのに」と、少なくとも今は島で暮らすのも悪くないか程度には考えていたことがわかります。8ヶ月ほどの長期間をかけて意識が変化していったと考えると、実家や燦緒の呪縛は相当苛烈なものだったと推測されます。

眞深、あるいは偽妹の衰退ならびに滅亡

 しかしどれほど妹として振る舞っていても、航と妹たちの島での生活を手引していたじいや達には「眞深は妹ではない」とバレています。6話で参加した演芸大会の参加賞のネックレスが色違いだったり、20話で登場したオルゴールに飾られた天使の人数が12人であることからも明らかなように、妹でありながら妹ではない眞深ちゃんの存在は、この状況を作り出した側からしたらイレギュラーな存在なのです。そしてその異質の存在が生み出す問題は、23話以降顕在化します。燦緒が島にやってくるのです。

 再会の挨拶もせず燦緒に人気のないところに連れられ、任務の進捗状況がよくないことを嫌味な言い方で責められ、言い分も聞かず一方的に堕落したと決めつけられ、更には昔からコーヒーが飲めないことを知らないことを「兄妹なのにあたしのこと何にも知らないんだね」とやり返すも「たかが好き嫌いくらいで」と軽くあしらわれ、とうとう堪忍袋の緒が切れた眞深ちゃんは「航のことも、あたしのことも」理解しようとしない燦緒に離反する決意を固めます。妹のことを全く顧みない実の兄よりも、妹のことを考えて行動する航のほうが兄としてふさわしいと考え、航の妹として生きる決意を表明した瞬間です。この時点でほぼ航の実の妹です。何も血縁だけが妹の妹たる要件ではありません。

 しかし黒幕の燦緒が直接手を下すためにやってきた以上、できることは多くありません。燦緒が泊まる航の部屋は燦緒の独壇場ですし、そうでなくてもそれまでの生活で燦緒が眞深ちゃんに与えた呪縛はそう簡単に解けるものではなく、眞深ちゃんに対しさらなる協力を強要します。気は進まないなりに航に東京行きの利点を語る眞深ちゃんですが、航の「どうしたらいいと思う?」と言う質問にとうとう取り繕った笑顔が剥がれ、本当のことを打ち明けようとします。この質問に答えることは、すなわち今まで守ってきた家族の崩壊に直接加担すること。答えるわけにはいきません。しかし航が授業開始の時間を気にして話を打ち切ったため、ここで航に再考を促すことには失敗します。

 ですが眞深ちゃんとしてもそう簡単に引き下がれるものではありません。学校での休み時間の間に航を連れ出し「実は航の妹ではない」「燦緒の妹である」というそれまでの共同生活の根底を揺るがす大暴露を打ち明けるも、それを信じない航と授業開始の鐘に阻まれ、それ以上の話を聞いてもらうことはできませんでした。眞深ちゃんの決意がここまでに2度「学校の時間割=社会のシステム」によって阻まれたことを考えると、環境の力の前には個人の努力など無力と言うことを暗に示しているように見えますね。

 そんな様子を影で見ていた燦緒は、これ以上眞深ちゃんに何かさせるのは得策でないと考え、とうとう実力行使に出ます。そんな気配を感じ取ったのか、それともただの偶然か、航の東京出発前日の夜に、眞深ちゃんは航に考え直すよう説得するため夜中に部屋を抜け出そうとしますが、そんなことはお見通しだった燦緒の待ち伏せにあい失敗。とうとう航が東京に行く日が来てしまいます。

 桟橋で燦緒に任務完了を告げられるも、気分は晴れない眞深ちゃん。この島に来たばかりだったら大喜びで船に乗り島を出ていったでしょう。しかし、今の眞深ちゃんは航の妹で、他の妹たちの家族なのです。ここで島を出るのは、それまでの自分を裏切るということ。航を欺き、妹たちを騙し、実の兄を見放した彼女ですが、たとえ偽りの家族でも、その中で築いてきた「自分自身」というものを裏切るわけにはいかないのです。

 航が東京に行ったあと「火が消えたみたい」に静まり返ったウェルカムハウス。その状況を作り出した責任の一端は自分にあると考えると、もともと責任感の強い彼女は居ても立っても居られない状況であったことは容易に想像できます。とうとう耐えきれなくなった眞深ちゃんは、航を連れ戻すために、おそらく衛ちゃんや鈴凛ちゃんが遊べるようにと燦緒が置いていったモーターパラグライダーで、自らの意思で島を出ます。再び家族を守るために。26話で明かされる置き手紙はこのとき書かれたのでしょう。今までのことを清算し、航を東京から連れ戻すためには、自ら航の妹であるという立場を放棄し、妹という制約から外れる必要があると考えたのかもしれません。ここに航の妹としての眞深ちゃんは役目を終えたのです。

山神眞深美の復権と再来

 さて、無事ではないものの東京で再開した航の説得に失敗した以上、航の心変わりによって (ここで眞深ちゃんが説得に成功していたら過去にした実妹との約束はどうなるんだって話ですが) 結果的には航がプロミストアイランドに帰ってきたとしても、それは眞深ちゃんの成果ではないし、そもそもあんな置き手紙を書いて出ていった以上、やはり航の妹として島に帰るわけにはいきません。たとえ航たちが気にしていなくても。

 しかし来歴に関する考察で述べたように実家には居場所がないし、今後の身の振り方を考えたとき、必要なものは新たな居場所です。ところで燦緒がモーターパラグライダーを特に惜しげもなく島に置いていったことからもわかるように、山神家は相当な資本力を持っており、東京のみならず様々なところで睨みを効かせているであろうことは想像に難くありません。その山神家の手が届かないところと言えば、眞深ちゃんの頭に思い浮かんだ唯一の場所が、完全に海神家の傘下にあるプロミストアイランドでした。

 他に行き場がない以上、プロミストアイランドに行くしかないのですが、しかし「眞深」として行くのはきまりが悪い。そこで本来の自分を意味する「山神眞深美」の名で、再び島にやってきたのです。もともと「眞深」の名は工作員として島に送り込まれたときに名乗った名前で、自らの意思で島に行っていたわけではないときに使っていた名前を再び使うのは居心地のいいものではないですし、今度は「他の誰でもない、自分自身が」島に行くことを決めたという自分への決意表明の意味もあったのでしょう。ただ、それまでの島での生活に多少なりとも未練があったのか、髪は片方だけそれまでのように高い位置で結んでいます。

  ですが、再び航の前に現れた自分を、航は「眞深ちゃん」と呼びます。これはすぐ後ろに座っている山田が山神眞深美=眞深ちゃんであることを見抜けずにいたのとは好対照です。航が自分のことを「眞深ちゃん」と呼んだことによって、また自分はここにいてもいいんだと、再び受け入れてくれるんだという実感を得られたことによって、それまで俯いていた眞深ちゃんの顔に再びいつもの笑顔が浮かび、彼女の放浪は終わります。ここで大事なのが、本人が預かり知らぬところで行われた家族会議で「眞深ちゃんを待つ」と言う決定が海神家の方針として決定していたことです。それまでの、妹としての積み重ねがあったからこそ、眞深ちゃんは自らを受け入れてくれる場所を、本人の意図とは別に確保できていたのです。

 家族に、兄に翻弄され、自分自身を失った山神眞深美が、眞深として新しい家族、新しい兄に迎え入れられ、再び抗しきれない力によってまたもやそれを失ったあと、自らの手でそれを取り戻し、新たな自分自身を手に入れる。シスター・プリンセスは、そんな眞深ちゃんの、山神眞深美の自己を確立する物語でもあったのです。

メタ的な視点から見る眞深ちゃん

 ここまで作中における眞深ちゃんの行動からその役割と行動原理、心情の変化などを考察してみましたが、ここでちょっと視点を変えて、製作者がどのような意図を持って眞深ちゃんを動かしていたのかを考えてみることにしましょう。

 おおよそのストーリーの方向性が決まった時点で、不甲斐ない兄を叱責できる立場の登場人物が必要になります。そしてそれは家庭内で起きる出来事に対して助言することもあるため、必然的に妹のうち一人にその役割を割り振ることになります。

 しかしここで問題が。12人の妹たちは誰も彼も兄が絶対なのです。たとえ兄が妹たちの元を離れようと、兄のすることに強く異を唱えることをしない、よく言えば素直、悪く言えば盲従的な妹たちにそんな役目を与えるわけにはいきません。原作からのファンが黙っていないでしょう。咲耶ちゃんはお兄様を迎えに行くために船で島から出ようとしていたけど。

 しかしそれでは物語が成立しないとなったとき、自由な立場で動かせる妹を一人、どうにかして追加できれば物語は成立するとなったら、それをするという選択肢もあるでしょう。そうしてシスター・プリンセスの世界に放り込まれたのが眞深ちゃんだとすると、いろいろと辻褄が合うのです。

 すなわち「他の妹が言うと反感を買いそうなセリフを言わせるための役目」を与えられたのが眞深ちゃんなのです。花穂ちゃんに「どんくさい」と言ったり、千影ちゃんに「何を考えているのかわからない」と言ったりできるのは眞深ちゃんだけ。

 他にはおじゃま虫 = 山田の襲撃を退けるためにああいうガサツな性格を与えられたとも考えられます。というのも障害を排除できそうな強めの妹は春歌ちゃんと千影ちゃんしかいないんですが、春歌ちゃんだと明らかにオーバーキルだし、千影ちゃんはそれに加えて画面映えしないと言う問題があり、他の妹たちでは戦力に列することはできないので、そういう点ではやりすぎにならない程度に山田の襲撃を退けられる戦力としての活躍も期待され、そして眞深ちゃんは立派にその期待に応えてみせたのです。

 アニメ制作陣によって物語をスムースに回す役目を受けて投入された眞深ちゃんは、他の妹に向かいかねなかったファンからのいろいろな感情も受け止めて、その役目を果たしたのです。アニメ全体の評価を見ると無事かどうかはよくわかりませんが。

最後に

 この考察は冒頭でも述べたように、アニメ本編の情報を元に考察を重ねた、完全に個人の意見・感想です。いかなる立場の人の意見を代弁するものではありませんし、あなたの感想と私の感想が違うのはあたり前のことなので、あなたがもし「そんなのおかしい」とか「とにかく眞深は許せん」という感想をお持ちでしたら心の中に仕舞っておくか、他の場所でまとめてください。他人の感想を否定する権利はあなたにも私にもありません。お互いの考え方を尊重して、楽しいシスプリライフを送りましょう。

おまけ

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 眞深ちゃんでダイ・ハードパロ

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