
『ジョニーぶらり旅』グアム編②
何故か私だけ薬物検査を済ませ、飛行機に乗り込んだ。毎回飛行機の座席に座ると、不安は一気にやわらぎ、興奮に変わる。恐らく、飛行機に乗った時点で、もう引き返せないのが分かっているからだろう。
初めて海外の航空会社を使うので、とても期待していた。
飛び立つ時には、毎度おなじみの『ウルトラマン』の科特隊の出動のBGMが流れ、興奮は最高潮。
「日本を出るんだ」
そんな言葉と共にすかした表情で、窓の外の景色を眺めることにした。なんだかセレブの一員になったかのような気持ちで。
機内食が出され、生まれて初めて飛行機のなかで食事を取った。
実は前回、飛んでいるときに胸と内臓が圧迫される感覚があり、すこし気分が悪かった。しかし今回はそれに備えて、事前に胴体の筋力アップをしておいたので、全く圧力を感じることなく過ごせた。
モニターではDC映画『ブラックアダム』とMCU映画『ブラックパンサーワカンダフォーエバー』が流れており、英語音声しかないが、好きなアメコミ映画ばかりがやっていたので、快適に過ごすことができた。(ブラックパンサーは既に映画館で観ていたが)
着陸するために高度をさげていくと、グアムのとてもカラフルな街並みが見えた。
遂にアメリカ領土にたどり着いた。ここでやっと夢にまで見た英語だけの生活が送れる。
マーベルのパニッシャーマークが付いた帽子をかぶり、準備完了。
空港へ降り立つと、蒸すような空気が広がっていた。3月だというのに、季節は夏。なんだか不思議だった。



「たった一人で外国に来た」
遂に念願の一人海外を達成することができた。これでまた人として成長することができる。
そしてここグアムで4泊5日一人で生き抜けば、さらに自分に自信が付く。やる気がみなぎってきた。俺の侍魂が燃えている。
空港のトイレに行くと、個室のドアが、隙間が空いているタイプで、アメリカを感じた。ドラマなんかでよくみる、足元がら空きのあれである。
トイレにいるのも日本人ではなく、ゴツイ白人男性。
「いいねぇ」

空港を出ると、綺麗な空が広がっていた。なんだか空がとても広く感じる。高い建物や屋根がないからだろうか。日本の空港を出ると、あまり空を広く感じることは無いのに、なぜかグアムの時はそう感じた。
タクシーを見つけ、ホテルの名前を言った。しばらく会話していると、ドライバーが少し日本語が分かる人だった。日本語と英語両方使いながら会話していると、なかなか空港からホテルまで距離があることが分かった。
空港のすぐ隣のホテルをとったつもりだったのに、出入り口と反対方向のホテルだったみたいだ。
走りながら見た景色は、まぎれもなくアメリカンだった。看板、標識、走っているデカくてボロイ車、店がほとんど平屋、全てが映画で見た通り。

ホテルの部屋はすごくきれいで、窓から見える景色も、南国といった感じだった。
食事無しで一泊一万円くらい。グアムにしては安い。
テレビをつけると、勿論すべて英語。心地よい。ずっとつけっぱなしにして、BGMに使っていた。
一息ついてから、食料を買いに歩いて行った。道はかなり険しく、日本のように整備された歩道があるわけでもなくて、雑草にまみれたところを何キロも歩いた。そしてなぜか途中で、野性の鶏をみつけた。
「なぜだ」
さっぱり理解できなかったが、グアムには野生の鶏がそこら中にいるのだ。しかも茶色と黒両方。

スーパーマーケットまでがとても遠い…。4キロほどあったような気がする。日本の道なら歩きやすいが、グアムの道なのでなおさら時間がかかった。
スーパーに入ると、日本のような消毒液がおいているわけではなく、ドでかいウェットティッシュのロールが置いているだけであった。
「これで消毒かよ…」
なんだか可笑しくなって、ニヤけてしまった。
食べ物は基本的に、割高に感じる。しかし、テレビで見るような超インフレな値段でもなく、「まぁ円安だしな」というような程だった。
オレンジジュースはアメリカンなサイズだし、肉もドでかい。何から何まで興味深い。スーパーマーケットのレジでアルバイトをしている身としては、見ているだけでとても楽しい。

弁当を買って、部屋で食べることにした。味はとても良くない。いまいちだ。
そしてなぜかテレビでNHKの教育番組がやっている。なんだか落ち着く。
何があっても親に頼れない、自分で解決するしかない状況で日本語を聞けるのはとてもありがたい。
食事を終えて一息ついてると、マイケルBジョーダン主演の『クリード3』がアメリカで公開されることを思い出した。
「そうだ、日本の公開は未定だった。先にアメリカの日程で観ることができるぞ。」
(クリードは、『ロッキー』シリーズの後継作品で、ロッキーが育てたかつてのライバルの息子が、チャンピオンになる物語である)
急いでグアムの映画館を調べると、明日から公開になっている。
「よし、日本で最初の目撃者になってやろう」
かくして、翌日公開の『クリード3』を最速で見ることになった。
つづく