賞レース台風の目、ヨネダ2000を紹介する
昨年THE W決勝とM-1敗者復活で彗星のように現れ、全国のお笑い好きにも名前が知られるようになったヨネダ2000。この記事を書いている2022年夏にはキングオブコント準決勝まで進出し、今年も賞レースで台風の目となっている。また「有吉の壁」など全国区・ゴールデンのバラエティでも露出が増えてきた。
昨年のM-1決勝進出で売れたコンビの影に隠れているが、お笑いファンの間でもジワジワと人気が浸透してきている謎のお笑いコンビ、ヨネダ2000の魅力について紹介したい。
ヨネダは新しい笑いを切り開いている
漫才でいえばボケとツッコミという基本形があって、そこに2人のキャラや容姿・話術をどう組み合わせるかでネタが構成されている。しかしヨネダは強いボケやツッコミワードで爆笑を起こすタイプではない。そもそもツッコミが存在せず、ボケ(誠)とお友達(愛)のやり取りという形のネタが多い。
その代表作は、昨年のM-1 3回戦で話題となり、THE W決勝の1本目でも披露した漫才「どすこい」である。自分もヨネダ2000を初めて知ったのはTHE W準決勝におけるこのネタであり、かつてない衝撃を受け、笑いすぎてお腹が痛くなった。
正直THE W準決勝では「女性あるある」や「彼氏欲しい」、あるいは「容姿自虐」をベースにしたネタの割合が大きい。1日で30組以上見ているとお腹いっぱいになる中で、ヨネダは圧倒的に異質だった。かと言って男性コンビがやりそうなネタでもないので、「無性」と言ったほうが正しいかも知れない。
「ツッコミ無しで漫才なのか?」という批判もありえる。しかしマヂカルラブリーが優勝したM-1 2020直後に巻き起こった漫才論争で、ダウンタウン松ちゃん含めた大御所までも意見を表明し、いわゆる"しゃべくり漫才"だけが正統であるという結論にはならず、かなりの自由度を認めるべきという共通認識が得られた。そうやってコアなお笑いファンや賞レース審査員含めて多様な漫才を受け入れる下地が2021年前半に出来たことと、ヨネダが頭角を現したタイミングが一致していることは興味深い。
ヨネダのネタは"テクノ"である
ヨネダのネタには「音楽」がよく出てくるが、その多くを愛ちゃんがリズム隊としてを支えている。昨年の賞レースでやっていた漫才「どすこい」「YMCA寿司」は、実際に愛ちゃんが同じフレーズ・動きを繰り返すのがベースになっていた。その上で、主旋律担当の誠ちゃんが多数のキャラを演じ分けながら自由に動き回ってボケのメロディを奏でていく。
そして、2人が完全にシンクロしたところがサビになる。「どすこい」で言えばお餅を喉につまらせたあとの動き、「YMCA寿司」ではお持ち帰り100人前の高速モード。初めて見る異様な展開にずっと笑ってしまっている観客は、ここではもう息もできない状況にまで追い込まれる。しかもそれがずっと続く。ヨネダはこのサビで、信じられない回数の反復(ループ)を行うからだ。
同一のボケを繰り返すいわゆる「天丼」でなく、10回20回のレベル。同じフレーズの繰り返しで心地よさを生み出してトランス状態に導くダンスミュージックの手法だ。ヨネダのネタは、明確なリズムがあることと繰り返しの多さから、"テクノ"音楽に近いと考えている。
ヨネダで笑うと涙が出てお腹が痛くなる
"ヨネダ2000"でパブサをしていると、ライブの感想で「お腹痛くなるくらい笑った」「笑いすぎて涙出てきた」という表現がよく出てくるが、それには理由があると思っている。サビに繰り返しが多いからテクノっぽいと書いたが、それによって見てる側の笑い方が他と異なるのだ。
普通のネタで「ウケる」とは、強いボケや強いツッコミによって、どっかんどっかん大きな笑い・拍手笑いを起こすことだ。それを連鎖させることができれば、全体の「ウケ量」が最大化され、ネタの評価も上がると思われている。賞レースではクライマックスにそういう尻上がりのウケの連鎖を持ってくると、点数が高くなって有利だとと言われている。
しかしこれでは、爆発の間に呼吸はできるので、お腹が痛くなるほど腹筋は使わず、涙が出るまではいかない。
一方、ヨネダのネタ中の自分や周りの反応を観ていると、単一のボケやツッコミで笑っているのではないことに後から気付く。舞台上にヨネダが作り上げた世界全体がもうおかしくておかしくて、笑った状態のまま元に戻らないのだ。一度その「ゾーン」に入ってしまうと、簡単には途切れない。
拍手をするも、笑顔は引きつったまま、前のめりになり、呼吸もできず、肺は収縮、腹筋は痙攣し、口から笑い声ではなく「ヒッヒッ」という短い息が漏れ、涙が溢れてくる。「もう勘弁してくれ」と思っても、ヨネダの2人は壊れた機械のように同じムーブを繰り返している。「無理だ、このままだと死んでしまう」という危機感まで湧いて、ネタが落ち着いてからようやく体勢を直し、呼吸を整えつつ、目尻の涙を拭うことがよくある。きっとみんなも同じなのではないか?
賞レースにめっぽう強い
今や飛ぶ鳥を落とすのヨネダ2000も、去年前半までは主要賞レースで全て1回戦落ち、神保町よしもと漫才劇場の出番も少なく、オーディション組と所属メンバーの境界をさまよっていたようだ。それが突然M-1の準決勝まで勝ち上がり、初めてのテレビ出演がTHE W決勝とM-1敗者復活戦という形でお茶の間に突如現れた。
そして2022年にはいっても関西で歴史あるABCお笑いグランプリで決勝に残り、キングオブコントでは前述の通り準決勝に勝ち上がり、順調に実績を積み重ねている。調べが間違っていなければ、M-1とKOCの両方で準決勝以上に出場したことがある女性コンビはアジアン、ハリセンボン、Aマッソに続いて4組目らしい。もし今年KOC決勝に勝ち上がれば、その時点で史上初だ。
そんなM-1やKOCの準々決勝以上など、テレビで見ていたような芸人や劇場の大先輩と同じ舞台までに勝ち上がれば普通は緊張でセリフを噛んだりネタを飛ばしたりしそうなものが、賞レース予選で見るヨネダはいつも完璧にネタをやりきっている。もちろんたゆまぬ練習の賜物だろうが、本番のプレッシャーに負けない集中力とハートの強さを感じる。
「女性だから、デビュー仕立てで珍しいから、下駄履かされているんじゃないの?」という声もあるかもしれない。ただ、いわゆるセンス系のマニアックな笑いで、「それを面白いと言っておけばお笑い通を気取れる」というような位置づけで無いことは確かだ。性別とかセンスとか容姿いじりとか下ネタとか、頭をよぎる余計なものを吹っ飛ばして、老若男女問わずただただ笑わせてくれる貴重な存在であるというのは、ヨネダのネタを観たことがある人には多いのではないだろうか。それを賞レースの審査員が高く評価するとすれば、下駄とは呼ばないだろう。
愛らしいキャラクター
賞レースのネタや、小道具を仕込んでボケてるテレビ出演だけだとお笑いマシーンのようにも見える二人だが、ライブの平場やラジオで仲良くトークしているのを聞くと、2人ともとても謙虚で、地に足がついており、とても素直だ。
見た目の雰囲気とネタでの役割から、愛ちゃんがマイペースなおっとりキャラで、ネタも作る誠ちゃんがしっかり者でちゃきちゃきコンビを引っ張ってる、という印象を持たれるかもしれないが、実は逆というのも面白い。M-1敗者復活ですら全く緊張せず、何事にも動じない年上の愛ちゃんが、天然でおっちょこちょいな誠ちゃんを「何やってんの!」とツッコミながらリードしているという方が真実に近い。
AマッソやDr.ハインリッヒのファンにもお馴染みのラジオアプリ・Artistspokenでも毎週ラジオをやっているが、Youtubeチャネルにもラジオコンテンツがあるので、二人だけの空間でじゃれ合ってるのを見て癒やされて欲しい。
また、新ネタライブに行くと、誠ちゃんがセリフを噛んだり愛ちゃんの動きを見慣れず吹き出すのを見れたりする。賞レースで見せる無双状態とのそういうギャップも、劇場に通ってるファンとしては微笑ましく見ていられる(ごめんなさい、本人達は不本意かも…)。
まとめ
「男性的な力強いツッコミ」をベースに発展してきたお笑いの歴史において、「性別を超越しツッコミが存在しない」という全く異なる象限で勝負してくるヨネダ、その目の前には未だ誰も踏み入れたことのないお笑いの大地が広がっていると勝手に思っている。ヨネダは新しいお笑いの開拓者なのだ。