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MTGが「紳士のゲーム」ではなくなる日

 前提として、この記事は今起きている状況と、これから起きる変化についての個人的な見解・予測・解説になります。
 特定の層や個人、および人口が増えることに対するネガキャンではないのでご理解下さい。

 全文無料になってます。(追加文章はないですが気に入ったら購入していただけると励みになります)

  追記:この記事は半年前にモバイル版リリースに備えて書いていた記事を、延期でタイミングを逃したので1/28のベータテスト開始に向けて手直ししたものになります。


 要旨(忙しい人向け)

 ・MTGの紳士性の担保は、参入障壁の高さが逆説的に担っている部分があった。

 ・MTGAの時点で人口がかなり増えた。これは良くも悪くも様々な副作用をもたらした。

 ・悪い面で顕著なのは、俗にいう「民度」・「紳士性」という部分が曖昧になった点(担保がなくなった)。

 ・スマホ版のリリースでは今までMTGAがもたらした変化が数倍になって流れ込む可能性が高い。


追記:MTGが「紳士のゲーム」とは

 記事の反応を見ていて、「紳士のゲーム」と言われていた事、経緯などを知らないユーザーが多いことに気が付いていなかったので急遽書いた解説の追記の項です。

 MTGの紙が「紳士のゲーム」と言われていたのは、コミュニケーションエラーが起きやすい、違反行為に弱いといった問題に対して丁寧に取り組まねばならない、という訓示として使われていた言葉になります。主にルール上の「非紳士的行為」の逆の意味で用いられている言葉であり、男女云々の意味も一切ないのでその点はご理解いただきたい。

 元々紙でMTGをするには、非常に複雑な処理をお互いに正確な意思疎通を行いながら進める必要があります。各ターンに10回以上の優先権の放棄を繰り返しながら、複数の領域にある数十枚のカードの状態や情報を明示し、取りたいアクションを齟齬無く伝えて実行しなければなりません。もちろん細かい確認は省略することが多いですが、もしわずかでも伝達の齟齬があれば進行中のゲームは壊れますし、ジャッジが介入し一発で警告が出ることもあります。

 違反行為に弱いというのはイメージしやすいかと思いますが、デジタルと違い、故意でなくとも過剰ドローや過剰セットランドなどが出来てしまいますし、悪意を持ってダイスロールの操作をしたり、過剰な時間使用で負けないように引き分けを狙うプレイヤーも少なからずいます。

 こういった問題に対して、丁寧な対応や明瞭な宣言でゲームを進め、悪意を持った行為を行うプレイヤー(場合によってはそれを許容するコミュニティ毎)に対しては許容せず毅然として排斥する必要がある。といったMTGをやる上でのプレイヤーとしての義務を総括して「紳士のゲーム」であると表現されてきました。

(お金と時間のかかるゲームであるというのを揶揄してた側面もありますが、それを台無しにしてはいけないという意味も同時にありました)

 (追追記:勿論非紳士的なプレイヤーが一切いなかったという意味では無いです。地元コミュニティで負けて不機嫌になる人位ならいましたし、競技でも日本人全体の評判を落とすようなプレイヤーも定期的に話題に上がります。
 あくまで自戒の意味と同時に、人としてプライドを持って活動するようにという意味で使われることが多かったという話です。

 また、記事の中で言うMTGAでの違反行為・非紳士的行為は、最近問題になった例だと、ゴースティング・アーキタイプの虚偽報告・裁定、バグの悪用等のことを主にさしています。


 そもそも

 昨年はコロナによって、MTGに様々な変化が引き起こされた年でした。

 特に殆どの大会がオンラインに移行し、必然的に大規模大会はMTGArenaで開催できるフォーマット(スタンダード・リミテッド・ヒストリック)に多くの大会が制約されていました。

 これは一般的なTCGには大きな打撃でしたが、MTGAは紙やMOに比べると参入障壁が低く、むしろ毎日遊んでいればそれなりにルールを理解するころには少額の課金でデッキを組める位にはカードが手に入ることが幸いし、(身内で遊ぶのを目的にしていたカジュアル勢以外は)コロナが原因のMTG離れは少なかったようです。

 一昨年の段階でも紙の大会にMTGAから始めた人が居たり、最近では競技界隈でも他TCGからMTGAリリースをきっかけに始めた人なども出てきています。

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 (MTGMELEE等、オンライン大会のサポートも充実しました)


 基本無料の魔力

 mtgの競技人口は2013年頃更新の「2500万人」表記から数年間動きませんでした。(最低でも3年前にはこの表記しかなかった)

 それがMTGAの正式リリースからおよそ1年と少しで、昨年には表記が「4000万人」に増加しました。

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 調べても人口の推移などは正確なことはわかりませんが、1.5倍に急に増えているあたり、実際問題としてMTGAのリリースによって引き起こされた人口増加は、過去に類を見ないものであることは理解いただけると思います。


 その副作用

 引き起こされた良い面としてはもちろんMTG界隈の盛り上がりそのものにあります。

 MTGをやっている人が増えれば草の根大会も盛り上がり、ユーザーの交流や大規模大会の注目度も上がります。対戦型のゲームにおいて同時接続人口というのは人気と楽しさ(マッチングのしやすさなど)に直結します。

(STEAMの同接上位は実質的なオンゲランキング。こう見るとVRチャット凄いな)

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 また基本無料によって始めてMTGと接し、適性のあった人がMTG沼につかる機会が増えるのは(沼の先住人としても)非常に好ましいものです。適性のある知人を勧誘しても敷居の高さで断念したことは古参のPWの皆さんなら1度はあったことでしょう。最近は本当に勧誘もしやすくなりました。

 

 しかし、無料プレイによって始めた層というのはこういった敷居を超えてきていないユーザー層という事に必然なります。

 これはルール・信頼を守ることへの担保が少ない事を意味します。それ自体は一切悪いことではないのですが、悪意のあるユーザーに対する脆弱性になります。

 機会があれば紳士的でない・アンフェアな手法を用いて勝利に近づこうとするプレイヤーは確実にいます(これはMTGA以前からの問題です)。しかし、ここでこう言ったユーザーに対する歯止めというものが先述の担保なのです。

 紙の競技で不正を働き、発覚した場合失うものは何でしょう。本名、コミュニティに紐付けられた信用・かけてきた時間、費用・手元のカード資産の無為化。これらの損失は違反行為への罰則としては一定以上の効果を発揮します(尤もそれでもやるプレイヤーはいますが)。

 しかしこれがMTGAの無料分でしか活動していないユーザーなら?アカウントが停止されればカード資産は無くなるでしょう。しかしやり方次第ではそれらを個人情報と紐づけずに活動し、失敗してもアカウントで対戦するためのカードを集める時間しか失わない手法も可能でしょう。不正によって得るものの価値が、失敗したときに失うものに相対的に近づくことになります。

 これは別に意識的な違反行為には限りません。フェア・紳士的であろうとすること、そういった意識も失うものがあるかないかで当然左右されます。MTGの紳士性の担保は、参入障壁の高さが逆説的に担っている部分があった、という事です

(リターンがリスクより多いなら実行するプレイヤーが多いのはゲーム内も外も同じ)

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 また、MTGAで始めたプレイヤーは既存のコミュニティを経由してないプレイヤーが大量に増えたという事にもなります。

 TCGを触った方ならわかると思いますが、ゲームの作法、例えばゲームの罰則規定に相当することだったり、逆に実はルールで許容されているアクションであったり、そのゲームでやっていいことと悪いことの基本は最初は草の根コミュニティ(もしくは分かってる人のいる身内)で対戦しながら習うことが多いです。

 ネット上のコミュニティでのみプレイし、競技への理解が足りない状態で、賞金の響きにつられて競技大会に直接参加したりすると目も当てられない事態を引き起こすことがままあります。求められている事前準備を執り行わない・書いてある内容を読んでいない、読まない、読めない・ルール違反、恥ずべき非紳士的行為を平然と行う・etcetc.....

 もちろんルールを理解しないで(言わずもがな悪用して)参加する方が悪いといえば悪いのですが、これらが起きるのは構造的な問題でもあります。なぜならそもそもショップ大会などで想定されているプレイヤーというのは、そういった場所になじみのあるプレイヤーであり、仮に初参加でも参加申し込みの際に店員に色々説明などを受けることになります。

 こういった状態で大きなトラブルにつながることは稀でしたが、新しく組み上げられたオンライン大会では、そういったセーフティネットの殆どが取り払われた状態になっています。意図せずにルールに違反するケースは格段に増えてしまうのです。

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 モバイル版がもたらす意味

 モバイル版のリリースは、既存のユーザーでも楽しみにしている要素なのは間違いありません。

 自分もラダーを通勤時間にこなせるだけでも助かりますし、出先で閃いたリストの調整を実際に組み替えながら調整できるのはかなりやりやすくなります。

 しかし、恐らくそれによって起きる事態は我々の想定の外にあると思われます。というのも下のデータを見てもらいたいのですが。

 あくまで市場規模の話ですがスマホアプリ版はPC版の20倍。どうなるんでしょうね本当に。中心となっているアメリカですら数倍の規模ですからね。

 さらに言うなら、上で述べた敷居の話で考えても、最低限自分で自由に使えるPCのある家庭という敷居が、一人一台は持ってるのが基本のスマホでできるとなると、それこそ話の次元が変わるでしょう。

 こればかりはどう転ぶかわからないが、とにかく影響がめちゃくちゃ大きいだろう、という事しか結論できません(本当にわからない)

 

 結論

 全体的に悲観的な話になってしまいましたが、プレイヤーが増えること自体は自分は好ましく思っています。新規ユーザーの増えないゲームは衰退する一方ですし、MTGの面白さをもっと多くの人に知ってもらいたいですからね。

 新規プレイヤーの大量流入に対して既存のプレイヤー側から出来ることは、新規ユーザーに丁寧にルールやマナーを伝えていく、違反行為に対しては毅然として排斥していくしかないでしょう。本当に地道ですが、自浄作用のない集団は何れ崩壊します。

 MTGが紳士のゲームであるという前提は、もしかしたら上述の理由から既に瓦解しているのかも知れません。もしそうだとしても、我々はMTGのゲーム性・公平性を守るために紳士であり続ける必要があるのです。

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