
研修医・学生こそ、医局内カンファで質問しなさい【研修医の日常】
突然だが、医局内カンファレンスで質問したことがある医学生研修医はどれくらいいるだろうか‥?
ほとんど居ないと思う。1人1つ、サクラ質問をさせられることはあっても、上級医のプレゼンした内容に対して「〇〇という治療法はどうでしょうか」「〇〇についてはどうお考えですか」と発言したことがある人は少ないだろう。
では次に問う。
「あなたがカンファレンスで質問しない理由は、何か?」
色々な答えがあるだろう。
例えば上級医が言及していないことがあった時、貴方は「先生は言及していないけれど、言及していないのには何らかの意図があるはずだ」と思うだろう。
上級医がガイドラインと違う治療をしていた時、貴方は「きっと先生のことだから、ガイドラインとは違うけれど、何らかの理由があってこの治療をしているのだろう」と思うだろう。
実際に上級医に意図が確認されることはなく、自分の頭の中だけで納得する。
実はその治療法は上級医が昔からやっている方法で、「楽だから」というふざけた理由かもしれないのに‥。
疑問には2種類ある。
臨床疑問(Clinical Question)は、大きく2パターンに分けられる。
背景疑問(background question)と、前景疑問(foreground question)の2つだ。
背景疑問とは、極論「ググれば分かること」である。自分が知らないだけで、世の中的にいえば分かっていることに関する疑問である。
そして前景疑問とは、「ググってもわからず、経験とか臨床的判断を伴うもの、将来のこと」である。論文などエビデンスを元に、暫定的な回答を見つけることが出来る、というものだ。
青島さんのNoteが分かりやすかったので、参考にしてみてほしい。
例えば今私は初期研修医で、産婦人科ローテをしている。
子宮を収縮させる薬剤の1つである「アトニン(アドナ)」の作用について質問したとしよう。
Q. 「アトニンの作用機序って?」
A. オキシトシン作用を持っていて、子宮収縮させる役割があるよ。
この質問は、個別具体的な部分を問う、Background Questionだ。
自分が知らないだけで、一般の産婦人科医には常識とされている問題である。
片や
「アトニンは1ml/hから開始するとされているけれど、糖尿病とか妊娠高血圧の既往がある患者では、投与速度はどのくらいのペースで上げてけば良いだろうか?」
という質問ならばどうだろうか。
これは、今まだパッと回答が決まっていないこと、臨床の判断に直結するForeground Questionとなる。
さて、研修医・学生と一括りにしたのは理由がある。両者ともに、
短期間しかその科に居ない存在
他の診療科の空気を知っている
立場だからだ。
期間限定の研修医・医学生だから見える視点がある。
さて、医局内カンファレンスの流れというのは基本的に
その時病棟に入院している患者について上級医もしくは研修医がプレゼンテーションを行う。
患者の治療方針について相談、意見交換を行う
という要領で進んでいく。
最後に、カンファレンスを取り仕切る医師が一言、声をかける。
「フロアから質問はありませんか?」

と。
質問とはお互いの頭の中でズレているところを、擦り合わせる行為である。
質問とは、非常に高度なコミュニケーション様式だと思う。
自分が考えていることを相手が分かるように言葉を重ねながら発し、お互いの頭の中でズレているところを、擦り合わせる行為。認知の非対称性を乗り越える行為。これが「質問する」である。
上級医とされる人物‥年次が上の人間は、基本的にBackground Questionの部分は頭に入っている。
故に、彼らが質問するとなれば、その場所は基本的にForeground Question の領域になるだろう。
一方学生研修医は、そのローテに入ってたかが数週間のか弱い存在。
日々研修・実習して、その分野の言葉に少しずつ慣れていく。それを繰り返してようやく、少しずつカンファレンスで話されている言葉の意味が分かってくる。
「その分野の言葉に少しずつ慣れていって」というのがBackground Questionがだんだんと解消されている、という状態だろう。
最も大体は、「慣れてきた頃には次のローテートに移動するからリセット」であるが。
そんな状況の研修医医学生から質問される箇所は、基本的にBackground Questionである。もしくは、少し的はずれな、Foreground Question である。
研修医や臨床実習生というのは、毎日病院に行くだけで、不慣れなことと日々接する存在である。不慣れな人間関係、不慣れな場所、不慣れな電子カルテ‥見るもの全てが「不慣れ」から始まり、それを延々と繰り返す存在だ。
研修医・学生の研修が時にストレスフルなのは、そうした環境の変化の激しさが故にBackground Question さえおぼつかない状況で、Foreground Question 的な質問をされるためである(時々開催される、初診外来の担当などがこれに当たる)
前提知識を得るために何をする?
前提知識- Background Question- を知らないことに気がつくには、どうすれば良いか?
脳をテストをするしか無い。脳内から引っ張り出せるか確認するために、話す・書くなどの行為を通すしかないのだ。Ankiの出番である。
カンファレンスで質問するためには、自分がどこまで理解しているかを明示し、自分がどのスタンスに立っているかを明らかにする必要がある(そうすると、分かりやすい質問と言われる)。
私は今の症例についてこう理解していて、こう思うのですが(ここまでがスタンスの明示)どうでしょうか?
と。
これを端的に伝える為には文章構成能力が必要だろうし、医学そのものも知識も必要だろう。
医学的知識を持った上で、それをどのような順番でどの人に伝えると「患者の幸せ」を体現できるかを、考える。
「自分が分からないことは周りも知らない」という姿勢
「こんなこと、皆知ってるだろうから、自分が聞いても皆の邪魔になるだけだし」「皆知ってるけれど当たり前過ぎて話していないだけなんだよ」
そう考える学生研修医は多い。相手の行動に、何かしら自分の預かりしらない理由があると思う癖があるのだと思う。

カンファレンスに参加する割合は高い。
しかしその割に、「カンファどれくらい理解できた?」と学生・研修医同士が話し合う機会はめっぽう少ない。
皆、表情では「分かってます」「興味深い話ですね」というクソ真面目な顔をしているのに、後で聞いてみると「今日の夕ごはん考えてた」と言われたことがある。よしもとよろしく、ズコッと転げてしまった。
私は学生時代からこのようなシチュエーションに数多く出会ってきた。真面目そうな顔をして、1ミリも内容を聞いていない医学生、研修医を。
「授業に出席したのであれば、何か発言しなさい」
このような言葉は、しばしば海外のビジネススクールや海外の大学に通った人が良く言うセリフである。
主体的な授業への参加を求めるためだ。
黙って椅子に座って、時間が来たら帰っていく。こんな状況は主体性も何もありやしない。授業に参加しているのならば、何かしら自分が考えついたことを発言しなさいと。

勿論カンファレンスは授業とは違うから、あまりにも的はずれな発言というのは好まれない。だがしかし、「自分には関係ないから」と右から左に受け流すような姿勢でいるくらいならば、ちょっと的はずれかもしれないと自分が思っても、勇気を出して手を挙げてみる方が、全体からすれば有益である。
「なるほど学生はこのレベルなのか」
とバカにされることがあるかもしれない。
「それは今聞くことじゃないよね」
と諭されるかもしれない。
それは、一度諭されてから考えれば良い。医学生はとかくに、叱られることを嫌う。ルールと定められた場所以外にも、勝手にルールを設定して、それを徹底的に守る。
「学生はカンファレンスで質問など発言してはならない」
そんなルールはどこにもない。気になることがあれば、質問すればよいのだ。発言すればよいのだ。
追記:「カンファはお前の些末な理解を聞く場所じゃない」について
先日、戦略コンサルタントで勤務されていた方が、次のようなツイートをしていた。
ITコンサル→戦略コンサルに転職して初めての会議に出た時に議論に全くついていけず、このままではまずいと思った自分は「Bの案についてはシステムのマスタのメンテまで考えると結構めんどくさそうだなと思いまして…」と自分の知っている知識ベースで苦し紛れに話したら、
— 和田淳史 (@atrzdflw) November 15, 2024
「ごめん今そんな
些末な話誰も聞いてないから。予算とか各ステークホルダとの合意をどう取るかとか、システムの話にしてもそれぞれのDBの整合性をどう取るかとかそういう大勢に影響ある評価軸についてはなさいとダメでしょ。会議って自分の知ってること発表会じゃないから」と木っ端みじんにされた経験がある。
— 和田淳史 (@atrzdflw) November 15, 2024
カンファレンスも同じことが言える。
「自分の知ってること発表会」ではない。
だから、学ぶのだ。確かに研修医医学生は長くても1ヶ月しかその場所に居ない人物である。何十年もその道に従事している人間と、完全に知識を同じにすることは不可能だ。
でも、自分が担当している症例くらいは、調べて、知識をつけて、上級医とほぼ同等のスタンスでカンファレンスに臨むことは可能だと思う。
負けるな、医学生。負けるな、研修医。
学べば学ぶほど、上級医との知識の差を見せつけられ、自分の存在がちっぽけに見えてくるはずである。
それでも、学びを止めてはならない。止めた瞬間、既に付いた勢いで薬上級医から圧倒的な差を見せつけられてしまうから。
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