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転職活動で”正直者がバカをみた”話

失敗体験から学ぶ

転職活動、それは人生において大きな転機となる重要なイベントである。私もこれまでに過去3回の転職を経験してきたが、転職活動においては様々な失敗を重ねてきた。

発明王トーマス・エジソンの言葉
「私は失敗したことがない。ただ、うまくいかない1万通りの方法を見つけただけだ」

経営の神様 松下幸之助の言葉
「失敗したところでやめるから失敗になる。成功するまで続ければ成功になる」

彼らのような偉人にとってはそもそも”失敗”を”失敗”として終わらせないメンタリティが備わっているようである。

では私はどうか? ご想像の通り、もちろんそのようなメンタリティは備わっていないし、そもそもそのようなメンタリティを備えていれば何かしらの偉業を達成しているわけである。

ただし、そんな凡人の私でもできることがある。
”失敗”を”失敗”として捉えた上で、失敗した要因を探ることである。失敗してきたからこそ、その反面、「これはやらない方が良い」ということがおぼろげながら見えることもある。

今回はそんな、失敗事例の一つを紹介したい。

自己紹介:転職活動開始の経緯


自己紹介が遅れたが、私は日本の公認会計士である。

公認会計士と聞くとお堅いイメージを持たれることがほとんどであるが、全くその通りである。

私が会計士を志したきっかけは、世界を飛び回るような仕事に憧れたからでも、最先端の会計基準を駆使してビジネス界を牽引したい、というわけでもない。
手に職をつけたいという気持ちもあるにはあったが、一番の理由は「就職氷河期を上手いこと乗り越えたい」という非常に後ろ向きなものである。

不思議なことに、そんな後ろ向きなものでも私にとっては死活問題だったようで、長い勉強期間を経てなんとか試験に合格、晴れて会計士としてのキャリアをスタートさせた。

会計士の就職活動についてご存じない方がほとんどだと思うが、一般的な新卒社会人が乗り越えてきたそれとは全く異なる。

多くの新米会計士は、会計事務所(厳密には”監査法人”であるが大した違いはないので割愛する)に就職していくが、業界内で”Big4”と呼ばれる大手会計事務所が中心となり新米会計士の取り合いを行う、完全な売り手市場である(タイミングにより若干は変動があるがこれも割愛する)。

つまりは、前出の私の願いを叶えるのにはうってつけの業界であり、(多少の困難はあったものの)なんやかんや大手会計事務所の1つに滑り込んだ。

順調な滑り出しに思えた社会人人生であったが、大手であることに起因する軋轢や周りとの競争に疲れる毎日を送るようになり、本格的に転職活動を開始したのは、入社して10年目を迎える頃であった。

面接での戦略:ウソをつかない


私が転職活動を開始した時点では、大手会計事務所で管理職の職位であったこともあり、某転職サイトに登録をしたところ、(今となっては人材紹介事業のからくりによりその理由も理解できるのだが)ぼちぼちの反応があったのを覚えている。

「すごいな〇〇リーチ!」

と、そんなルンルンな気分の中で最初に企業から直接お声がけを頂いたのが某総合商社であった。

いわゆる5大商社(諸説あるがここでは5大とする)の1社であり、一般的な就活生であれば、ここに入社できれば一生安泰、と思う方もいるような大手企業である。

さて、お声がけに即レスしてから本格的な転職活動が開始した。

カジュアル面談から始まり、1次、2次と順調にステップを重ねていくことができたのだが、その中で私が1つ、自分にルールとして課していたことがある。

それは”ウソをつかない”ということである。

私は自分の性格を「基本はテキトーなのだが、一方で変に頑固なところがある」人間であると思っている。

転職活動においては、
”ウソをついてまで転職したくない”
”どこかでウソをついた自分を責めるのではないか”
といった頑固な一面が発動し、聞かれた質問に対してはあまり自分を良く見せようと深く考えずに、思いついたことをありのままに回答することを心掛けた。

結果として、”裏表のない人格である”という評価を一定程度頂けたのか、なんということはなくステップを進めていくことができた。

そして、最終面接に進ませて頂けるとの連絡を受けたときは、本気で「この会社で働くことになるのかも」と思いを馳せたものである。

さて、この書きぶりからもご想像頂けたと思うが、私は最終面接で”不採用”となった。

最終面接での失敗:ウソをつけない


当時ネットで得た情報によれば、最終面接には「顔合わせ型」と「最終選考型」の2パターンあり、前者はよほどのことがない限り不採用とはならず、一方で後者はそれなりにしっかりと評価される、とのことであった。
ところが、これまでの選考があまりにとんとん拍子に進んだこと、更には、最終選考前に採用候補者向けの健康診断も受診させられていたこともあり、完全に「顔合わせ型」と油断していたのである。

そんな中で迎えた最終面接。面接官として二人の役員に迎えられ話が始まった。ところがその内の1人、入社後には直属の上司となる方と話をしているうちにある疑問がわく。

自分は果たしてこの人の下で働けるのだろうか?

大手総合商社で役員クラスまで上り詰めた方であるから、相当な実力者であることは疑いようのない事実ではあると思う。そう思うのだが、どうも一緒に働きたいと思わせてくれる方ではなかった。

ちなみに、圧迫面接といわれるような高圧的な態度を取られたということでは全くない。ただなんというか、斜に構えて底意地悪く値踏みをされている、そのような感覚を持ったのである。

面接中はこれまでの自分の成功体験から、できるだけ素直に感じたことを、飾らずに伝えることを努めた。
斜めからの質問に対しても間違った対応はしていなかったものと感じていた。

ついに最後の質問という段になって、ようやく解放されると安心したのを覚えているが、質問の内容で状況は一変する。

「他に競合他社の採用面接等は受けていますか?」

この質問、1次、2次面接でも同様のものを受け、その際は堂々と「受けていません」と答えていたが、最終面接の時点では状況が異なっていた。
実は、最終面接前に競合他社の採用に応募し、書類審査を通過していたのである。

ここまで触れてきた某総合商社は、転職活動を開始して最初にお声がけいただき、あまりにもスムーズにステップが進んだこともあり、本当に他の可能性を捨ててしまっても良いものか逆に不安を感じ、受けるだけ受けてみようと動き出していたことが災いした。

この状況でウソをつくことは自分に課したルールに反する。
後になって落ち着いて考えてみれば、ルールに反しない中でもっとスマートな回答も思いつくものだが、それまでの対応につかれていたのか、私の回答は「新たに競合他社を受け始めた」という趣旨のものだった。

面接官からすれば、
「これまでは受けていなかったのに、最終面接前のこのタイミングでなぜ?」
と思われるのは至極当然である。

それから1週間程たったころ、”不採用”の連絡を受け取った際は、「そりゃまあそうだよね」と感じたものである。

まとめ


さて、この失敗体験から言えることは、「飾らずに素直に受け答えすることはプラスに働くものの、何でも馬鹿正直に答えることが正解とは限らない」ということにつきる。

あの時、最終面接の場で面接官が望む回答をしていれば、今頃は全く違った人生を送っていたかもしれないと思うと感慨深い。

ただ、これから転職活動を行う方、行っている方にとって、例えば「ウソも方便」と思えるだけの懐の深さがあるのであれば、何でもかんでも素直に答えるのではなく、自分を良く見せるために、ある程度話の内容や進め方に脚色をしても罰は当たらないのではないかと思う。

ちなみに私のその後の経験上はやはり、働きたいと思える方と働くことが非常に大切であると強く感じており、結果として今の選択に後悔がないのもまた事実である。

もちろん、あまりいい印象がない方と実際に一緒に働いてみて”実はいい人”と気づくパターンもあるにはあるが、私の経験上はそういったケースは稀である。
一方で、最初は印象が良かったのに”実はよくない人”と後になって気づくパターンも同じく稀であり、そうであれば、最初から働きたいと思える方と働くことが、後になって「やっぱり合わなかったな」と感じるリスクは低いように感じる。

これを読んでくださっている方には是非、私の失敗体験を反面教師にして、前向きに挑戦していただければ幸いである。


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