見出し画像

近況(2024年6月25日)

前回から早1ヶ月が過ぎようとしています。

日本に向けて書こうと思ったお手紙はポストが近くになかったり、郵便局に切手を買いに行けなかったり、そもそも葉書が足りなかったりで出せそうにありません。人生ままならない。

毎日がお休みのようで、毎日が働いているような生活にも慣れてきて。「労働ってなんなんだろう」という気持ちになってきました。歴史的にも当然のことですが、いわゆる「労働」の価値観は近代的なもの。週40時間、1日8時間という制限もちょっと前まで存在せず、生き続けるためには朝起きてから夜寝るまで(日が落ちるまで)何かしらの作業を続けるのが日常だったのでしょう。見たことないので実際のところはわかりませんが。

La AleGraに出入りする人々は絶えず入れ替わります。2種間一緒に過ごしたエレンはオーストリアに帰り、入れ替わるようにエミリア・ロマーニャの若いカップルが来て去ってしまい、アメリカからフィレンツェへ留学に来ている女の子とスロヴェニアへ留学に来ていた日本人が来て、今はゴールウェイからアメリカに留学している女の子がいる。イタリアで一年中いろんなところにお邪魔して仲良くなって去ってきた僕が今は人を迎える立場なのはなんとも複雑な気分だ。僕の家じゃないけれど。

一緒に住んでいる家族の僕に対するも変わってきていて。「ひろしはそんなに働かなくていいんだよ。あれこれしてってみんなに説明して」と何度か言われている。食後の洗い物とか今までは率先してやってきていたんだけど、営業手伝ったりみんなのご飯を作ったりといつもあくせく働いていたからか最近は「洗い物は他の子に任せて」と言われる。

確かに逆の立場になってみれば、物事のやり方を伝えたり誤りを正せる人間が一人増えるというのは人材的にとても利のあること。神月の神話じゃないけれど、馬力で解決できることってたくさんあるけれど、馬力で解決できるからこそ短い時間にしか存在しなくて、世の中の多くのことは少ない人勢で十分回せる。だからこそ全体を俯瞰して行動できる人材がいるほど組織は回るんだな、と思ったりもした。

自分が監督者という立場でもないのにそのような動き回りをするのはちょっとだけ抵抗があるけれど、理屈を整理してからは「まあ仕方ないか」と言われた通りにしている。しかし、響け!ユーフォニアム(3期)じゃないけれど、人材が絶えず入れ替わる集団で物事を良い方向に導くってのは難しい。会社などの組織ならマニュアルを作ったり、育てた人材がさらに後進を育成してくれる。ところが人材が既に流動しているところだと常に一から物を伝えなければいけない。一の情報から物事をよしなにしてくれる人もいれば、あらぬ方向にホームランする人もいる。その現状自体には不満はないけれど、趣深い気持ちになる。

話は変わるけれど、雨季がほぼ終わり宿泊客も増えて、僕が使い慣れたオレンジの小屋はお客様用のお家になってしまった。お客様向けじゃない集団小屋があるのでそちらにお引越ししたが、どのマットレスも穴が空いていた。LA AleGraには蜂のためのお家があり、そこの天井裏では眠ることができる。「ここで眠るとすごくいい匂いがするんだよ」と以前から聞いていたが当時はお客様用の小屋で寝ていたので見向きもしなかった。やっぱり個室が恋しかったし、なんと言ってもマットレスが機能しない時に起きる弊害を僕はよく知っているので迷わずお引越し。念のために夕方に下見をして入念に準備。いざ夜に小屋に入ると響き渡る蜂の羽音。恐怖。蜂はこちらの居住スペースには出入りしないことはわかってはいたけれど気が気じゃなかった。

ちなみに2日目は猫のオスカルが侵入を試みてきた。彼はこちらが隙を見せると膝の上に座ろうとし、座れないときはジャンプして遊びにくるやんちゃ猫。小屋の中には蜂の住む木箱が沢山あって、これをずらすと僕の居住スペースに沢山の鉢が入り乱れることとなる。Quindi se entra Oscal tutto merda... 今夜が3日目。

さて、日常の他に非日常もある。

Udineで1年に1回行われるナチュラルワインのお祭り"BORDER WINE"にボランティアとして参加してきた。イタリアに来て1年半ちょっとの間、いくつかの試飲会やカンティーナ訪問を試してきてけれどずっと「コレジャナイ」感が拭えなくて。ワインは美味しいのだけど、やりたいことに近づけていない気がする違和感。物は試しと主催側に回ってみることにした。いざやってみるとイタリアのイベントの良いところと悪いところを一遍に見れてとても興味深かった。気が向いたらインスタにでもまとめる。中でも面白かったのはワイン醸造家を囲んでのランチ。試飲会の開催時間ってまちまちだけれど、裏側ではこんなことやってたんだと気づいた。これは体感でしかないけれど、フリウリは日本へ興味を持ってい人の割合が多く感じる。イタリアの中でも特に他国との関わりの中で生きてきた地域だからかもしれない。

Permesso di Soggiorno、滞在許可証をようやっと手に入れた。去年permesso di soggiornoを申請したのはピエモンテだから手続きはピエモンテで行わなければならない。今いるフリウリからピエモンテまでは新幹線を使っても7,8時間くらいかかる。僕は当然鈍行で行くからこっちの家から向こうの家までは文字通り半日かかる。早朝に出て向こうに着いたら日が沈みかけている。なかなかの気持ちだ。Permesso di Soggiornoで指紋摂取をする都合上、この1, 2ヶ月で2回もピエモンテへ足を伸ばしたわけだが前回の帰りは大雨で電車が通らず大迂回。今回はミラノへ出入りする電車がほぼストップして急遽電車からバスへmezzi pubuliciを変更したりとトラブルが尽きない。どうやら僕は持っている側の男らしい。

話を戻そう。近況だ。

ようやく、これからのことを考えられるくらいの余裕が出てきた。イタリアで生き続けるためには定職が必要だけれど、前回にも書いた通り僕の興味は今そこにはない。そもそも家や交通手段が定まっていない状態で探すのは大変に無理があるとこの1年半で十分に悟っている。「仕事探さなきゃ」みたいな強迫観念があるけれど、そもそも僕はわかりやすいルートでイタリアに来ていないが故に、よくある生き方を選ぶことができない。「みんなはこうしてる、に添いたい、添わなきゃ」と今までは思っていたけれど段々と諦めてきた。もう、行くところまで行くしかない。

さて、では一般的なルートを通っていない僕が今関心あることは何か?

パン。実は最近面白い本を見つけた。"Dalla Terra al Pane"という本で、ピエモンテ出身のイタリア人が書いている。今年の3月に発売されたばかりの本。パン作りの本は少し前からずっと探していて。でもなかなか良い本がなかった。特に要件は決めていなかったけれど(知らない分野のことだから決められない)、いざ出会ってみると・写真が豊富
 ・Lievito Madre 天然酵母について触れている ・レシピばかりでなく歴史やパン作りの概要にページを割いている、などが条件であったとわかった。ここら辺を網羅している本は意外と少ない。

ここ1週間はレシピに添いながら毎日のようにパンを焼いている。かつて日本でイタリア料理を毎日作っていた時のように。一度ハマると抜け出せない。Lievito Madreを一から作り始め(1ヶ月以上かかる)、10年もののLievito Madreをお裾分けしていただき、パン生地が大きくなることを我が子のことのように喜んでいる。惜しむらくはオーブンの温度がどれほど高くないこと。やっぱり温度がしっかりと安定するオーブンがパン焼きには望ましい。とはいえ贅沢は言わず、できることをできる範囲で最善を。

その他に関心があるのは菜園、葡萄とワイン醸造、アンフォラ、ONAFのレベル2、サルミ、お菓子作り、、、と数えてみると意外と少なくなっていることに気がついた。これらに触れずにイタリアから離れるのは悔いが残るけれど、悔いが残らないところまでは意外ともう近くまで来ている。それらの関心ごととこれからどう付き合うかについて今は整理しているのだがその前に、、、

ここから先は

1,323字
不定期連載。実験的に始めます。買い切り。

イタリア滞在期(2022.10~)を連載中です。イタリア料理、ナチュラルワイン、日々のこと。エッセィ。

Grazie per leggere. Ci vediamo. 読んでくれてありがとう。また会おう!