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もうひとりの自分 第18話

遊歩道を川を見ながら散策しているとふと今までの
私の人生を自動的に振り返ってしまう。

思えば何の立場のないままこの世に生を受け、学校
にも行かず少年時代を過ごした。そのとき見たもの
といえば、すべてがどう考えても学校では学ばない
ものばかり。

私は勝手に空き家に入って普通に生活した。だが
歳をとると何だかこの行為に違和感と罪悪感を
覚えてしまい、役所で新しい戸籍を手に入れて
40をすぎてようやく自分は人間なんだという
証明ができた。時間は相当かかったが。

この戸籍で仕事と住まいは手に入れた。そして
人間との会話も手に入れた。その人たちも実は
私と同じ境遇を送っていたが。

50をすぎてさすがに歩くのは疲れたのか。
人生で初めて運転免許を取った。人生で初めて
「勉強」をした。免許と言っても原付なのだが
その翌年に車とバイク。それから3年後には
大型自動車とか大型牽引とか取った挙句、
忘れたころにはいつの間にかゴールドのそれも
フルビット免許となっていた。

若い時から免許を取ればよかったではと思ったが
私の若いときなんか潜伏生活以外何にも考える
暇なんぞなかった。
変な人生を送り過ぎて普通の人生という感覚は
ない。

免許を取ったからといって今まで車を購入した
ことはない。レンタカーを借りてばかりだった。
そのほうがいい。買って所有っていうのは
めんどくさい。

私は初心者マークをつけたころからレンタカーを
借りて東京からなぜか鹿児島まで行った。初めて
生で見る桜島は最高だ。富士山なんぞどんな遠い
近い距離だろうがいつもある。

私はずっとレンタカーで遠出をしまくった。しかし
傷ひとつついてない。店員に事情を話したら驚かれた。
これが人生で初めての「自慢」というべきか。

気づけば60に近づいてきた。免許を持っても伴侶を
持っていないと意味がない。
今日もまた川を見つめながら今後のことを考えた。

第18話おわり

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