JOG(308)日本電産・永守重信の新「日本的経営」
「雇用創出こそ企業の最大の社会的貢献である」
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■1.目標は「従業員100万人」■
こう語るのは日本電産の永守重信・社長。売上高や利益を会社の目標として掲げるのが普通だが、従業員数を目標とする経営者は珍しい。それも100万人とは、並大抵の数字ではない。 「世界最大のウォルマートでも30万人ぐらいですよ」との質問には、こう答える。
■2.わずか一年での企業再建■
これが単なる「大風呂敷」でないことは、最近の事例で鮮烈 に実証された。デジタルカメラや光ディスク装置用のモーター などを製造している三協精機が平成14年間から3年連続の大幅赤字で倒産寸前の状況だったのを、日本電産が資本参加し、 永守が経営指導をすることで、最初の一年目から黒字に転換させたのである。
しかも、この間に、一人の首も切っていない。すなわち、同じ人々が同じ設備で同じ製品を作り、景気の波もそれほど変わっていないのに、平成16年の純損益ベースの赤字額が287億 円だったのが、17年には150億円の黒字見込みである。経営の違いとしか言いようがない。
三協精機の従業員数は連結ベースで1万人強である。もし倒産したら、これだけの人間が路頭に迷うところだった。それを救い、一年で大幅に利益を出させる。永守社長率いる日本電産グループはこのような人を切らない企業買収や合併を23件も成功させてきた。これが従業員100万人という目標に向かっての永守の歩き方である。
■3.「これは十分ペイするな」■
三協精機支援の話が持ち込まれたのは、平成15年7月の事 であった。実は6年前にも、永守社長が三協精機の技術力を高く評価し、買収を申し入れていたのだが、先方の社長が「かん べんしてください」というので、あきらめた事があった。相手 の意思を尊重しない敵対的買収はよくない、というのが永守社長の考えである。
約束した東京丸の内のホテルでは、三協精機・小口社長とその主力取引銀行である八十二銀行の成澤頭取、さらに同銀行の大株主である東京三菱銀行の五味・副頭取が永守社長を待ちかまえていた。
「永守さん、率直に言います。三協精機に資本参加していただけないでしょうか」と三協精機の小口社長が切り出し、窮状を訴えた。八十二銀行の成澤頭取が言葉を継いだ。
日本電産の社内では、三協精機が300億円もの不良資産を抱えていることから、反対の声があがっていた。しかし、永守は三協精機の技術力を1500億円分の価値はあると踏んだ。三協精機の優れた製品を生み出すには、年間1千万のエンジニアが500人で30年はかかる、という計算である。
■4.「日本電産から社長を派遣している会社は一社もありません」■
8月6日、日本電産が三協精機に出資することが新聞発表され、盆休みあけの8月20日、永守は長野県下諏訪にある三協精機の本社に足を踏み入れた。これから1年以上、毎週2泊3 日に渡る諏訪通いの始まりだった。並み居る役員たちを前に、永守はこう言った。
ただし、三協精機が独り立ちするまでは3人程度の役員を派遣し、永守流経営の伝道師として使う。そして、永守流経営が現実の経営に反映され、再建が完了すると、派遣役員を引き揚 げる、と説明した。
この後、1ヶ月ほどかけて永守は三協精機の国内外の製造拠 点、開発拠点をすべて自分の目で見て回った。「再建の見取り図が見えつつある。重病だが不治の病ではないと新聞のイン タビューで答えた。永守の次の言葉は、「再建の見取り図」の基盤をなすものだろう。
三協精機の社員の意識、やる気をどう変えていくのか、ここ から永守は取り組んだ。
■5.6つのS■
永守流経営の基本は「6S」である。これは整理・整頓・清 潔・清掃・作法・躾の6つの「S」を意味する。この観点から各事業所を100点満点で評価するのだが、これが60点を超 えれば事業はかならず黒字になる、という。それが三協精機を視察したときの評価点は、わずか5点だった。
すぐに、全社運動として始業前の8時から8時10分まで、各自の周りを清掃することから始めた。従業員だけでなく、役員も含めてである。
日本電産から派遣された6Sの伝道師が、窓枠を指でなぞっ て、ほこりがないか確かめ、不十分な所はやり直しをさせる。
次第に掃除のレベルが上がって、でこぼこの曇りガラスを歯ブ ラシで磨く社員、ブラインドを一枚一枚磨く社員も出てきた。
また役員と管理職がトイレ掃除を始め、従業員に任せられる 水準にまできれいにしてから、従業員にも当番制でトイレ掃除 を担当させた。不要な書類を整理すると、トラック数十台分と なった。建物のペンキ塗りまで自分たちで行った。
■6.「ものを大切に使おう」■
こうした活動を通じて、社員の意識が大きく変わっていった。三協精機でこの活動の旗振り役となった人々は、こう語っている。
■7.「餌付けーション」と「飲みニュケーション」■
こういう意識改革と並行して、永守は若手社員20名程度との昼食懇談会、課長以上の幹部との夕食会を繰り返し開催して、自分の仕事に関する考え方を浸透させるとともに、社員や幹部からの意見を吸い上げていった。
1年間で昼食懇談会52回を開催し、若手1056人と話し 合った。またの25回の夕食会で課長以上の管理職327人と語り合った。これらを永守は「餌付けーション」「飲みニュケ ーション」と呼んでいる。
こうして現場の細かな不平、不満を解決しながら、経営者と して会社の将来の姿を説明する。1年たったらこうなりますよ、2年たったらこうなりますよ、と。社員の考え方を一致させて、 進むべき方向を合わせるための手段であった。
■8.「みんなでやれば効果は出る」■
永守が社員たちに指摘したのは、次のようなムダだった。
トイレの清掃などから芽生えた「ものを大切に使おう」とい う意識が、こういう問題に向けられ、設備や部品を少しでも安 く買い、また設備や作業者や事務員の時間を大切に使おうとい う、当たり前の事が徹底して行われるようになった。
こうした社員全体の無数の努力が積み重なって、平成16年 の純損益ベースの赤字額287億円だったのが、わずか1年で17年には150億円の黒字見込みと、400億円以上の収益 改善をもたらしたのである。まさに「みんなでやれば効果は出る」である。
■9."手塩にかける"■
トイレ掃除まで徹底してやらせたり、餌付けーション、飲みニュケーションを何度も開いて多くの社員たちと直接語り合ったのは、まさに「手塩にかけて」社員を育てるためであろう。 その結果がわずか一年での劇的な黒字転換である。
しかし、黒字転換は結果の一つに過ぎない。最大の成果は「ものを大切に使おう」「みんなでやれば効果は出る」を体験を通じて習得した社員たちだろう。こういう社員たちが、今後 のさらなる事業成長を支えていく。
こういう「人づくり」こそ、古くて新しい「日本的経営」の特質であろう。
(文責:伊勢雅臣)
■リンク■
a. JOG(010) Global Standard となった日本の生産マネジメント
世界中の国々が日本の真似をしてキャッチアップしてくる。
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■参考■(お勧め度、★★★★:必読~★:専門家向け)
1. 日本経済新聞社・編『日本電産 永守イズムの挑戦』★★★、
日本経済新聞社、H16
2. 永守重信『』★★★、三笠書房、H10 おたより
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■「日本電産・永守社長の新「日本的経営」」について
■ 編集長・伊勢雅臣より
たった一人の経営者のよって、企業は大きく変貌するものですね。
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